自宅で過ごす時間が増えた昨今、フード宅配サービスのニーズが世界的に高まっています。そんななかで大きく発展しているのが、好みのメニューを選ぶと食材や調味料が必要な分だけ送られてくるミールキット。イギリスではユーザーのDNAを分析し、各自の民族ルーツに合わせたミールキットを届けてくれる画期的なサービス「DNAディッシュ」が登場して、大きな注目を集めています。
民族ルーツに合ったメニュー
3度目の全国的なロックダウンが行われているイギリスでは、過去1年間にデリバリー食はもちろん、ホームメードのパンやお菓子の材料セット、チーズとかワインのテイスティングセットなど、さまざまなフードサービスが生まれました。自粛生活がノーマル化した現在、外食に代わり毎日の食事としてミールキットサービスを利用する人が増えています。
ミールキットは「毎回自炊するのは面倒だけど、出前ばかりでは費用もかかるし栄養面も気になる」というニーズをピッタリ満たす比較的新しいサービス。スーパーで食材を購入しイチから料理するのに比べ、献立に悩まず、食べたいメニューに必要な材料を人数分だけ届けてくれるメリットがあります。まとめて注文すればディスカウントも。リモートワークを続けている人もまだまだ多く、ミールキットを利用したほうが時短になり、食材の無駄も出ないという理由で人気があります。
多様なニーズに応えるために、メニューの選択肢は広く、栄養面もよく考慮されています。なかにはアスリートやダイエッター専用のメニューや、オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリーなど最近のトレンドを意識したメニューもあり、このようなミールキットのサービスは特に発展しています。
そんななか、ロンドン発ミールキット会社のグーストが、個人の遺伝子タイプに合わせたメニューを選べる新たなミールキットの「DNA ディッシュ」を開発しました。イギリス版「マネーの虎」にも登場したことのある同社と、バイオテック企業のリビングDNAによるコラボ企画であるDNAディッシュは、DNAデータをもとにユーザーのルーツを特定し、それにあうメニューを提供するという仕組み。
自宅に届いた遺伝子検査キットを使いサンプルを採取して返送するだけで、自分の遺伝子にあった料理が届きます。試験運用期間中にプロモーション用として準備した無料の遺伝子検査キットが早々に品切れになるなど、サービス開始前に多くの人の心をつかんだ模様。
多様なバックグラウンドを持つ人が多いイギリスでは、自分の民族的ルーツをよく知らない人が大半です。遺伝子テストによって「代々イギリスだったけれど、実はフランスとドイツとアイルランドのミックスだった」とか「生粋のナイジェリア系と思っていたけれど、カメルーンやブルキナファソにもルーツがあった」といった驚きの声もあり、自分探しの方法としても魅力があることが話題の一因となっています。
ユーザーの民族ルーツに合わせ、グーストのサイトにはイギリス料理をはじめ、イタリア風や地中海風、ドイツ風、北欧風など40か国を超えるバラエティ豊かなメニューが揃っています。リビングDNA社が手がける有料の本格的な遺伝子検査キットを利用すれば、50種類以上から選ばれた最適なおすすめメニューが毎週、各ユーザーのアプリに表示されます。家族の構成人数で申し込むことができる一方、食品廃棄物が出ないように分量が計算されていることも好評。
遺伝子傾向を知って医食同源
話題となった無料遺伝子分析キットはルーツ探しがウケましたが、リビングDNAが有料で提供する本格的な分析キットを利用すれば、食事や運動などに関してもっと詳しいアドバイスを受けることもできます。これを使えば、糖尿病など生活習慣病の発症リスクや遺伝的傾向を遺伝子レベルで知ることが可能。自分に合った食生活をすることで、体質を改善したり、病気を予防したり、「医食同源」の考え方を実践します。
食品アレルギーなど明確なケースを除くと、自分の体質に合った食事をしているかどうかわからないこともありますが、今回の無料版のプロモーションで、これまで縁のなかった遺伝子検査キットに興味を持った人も多かったのではないかと思います。
遺伝子分析と食事指導を合わせたサービスは以前にもありましたが、一人ひとりが持つルーツへの興味や各自の最適な食生活への気づきを満たしてくれるDNA ディッシュは、究極のパーソナライズ商品ともいえるでしょう。食事自体の価格も1食3〜7ポンド程度(約420〜990円)とリーズナブル。サブスクリプションサービスの側面も兼ねており、一度検査を受けてしまえば、自分に合った食材を定期的にオーダーすることもできます。
「健康は一日にしてならず」といいますが、DNAディッシュで自分のルーツや身体に合う食事を楽しめるのであれば、三日坊主にもなりにくいでしょう。DNA分析やサブスクリプションをミックスしながらパーソナライズされたサービスは、今後ますます増えていきそうです。
執筆者/ネモ・ロバーツ