近年、腸内フローラは便通だけでなく肥満やうつ病などにも関係があるとわかってきています。「腸活」という言葉も生まれましたが、この腸内フローラには子どものころの食生活が大きく影響を及ぼしていることが最近の研究で判明しました。大人になってから健康的な食事に変えたとしても意味はないのでしょうか?
腸内フローラとは、「腸内細菌叢(さいきんそう)」と呼ばれるもの。人の腸のなかには数百種類、数にすると数百兆個もの細菌が生息しており、全部で1~2㎏にもなると言われています。この腸内細菌は身体にとって良い働きをする「善玉菌」と、身体に有害な「悪玉菌」に分類でき、悪玉菌のほうが優勢になり腸内細菌のバランスが崩れると、便秘を引き起こしたり肌の調子が悪くなったりします。
また、肥満の人やうつ病患者にはある種類の腸内細菌が少ない傾向があるなど、腸内フローラは人の健康や精神面にまで関連するとわかってきており、その重要性が着目されているのです。
そんな腸内フローラの形成に幼少期の食生活や運動が長期的にどのような影響を与えるか調べるため、カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは若いマウスを使って実験を行いました。
マウスは4つのグループに分けます。1つ目のグループは通常の健康的な食事を、2つ目のグループには高脂肪・高糖質の洋食を摂取。さらに、両グループのマウスは運動させるものと運動させないものに分け、「健康的な食事+運動」「健康的な食事のみ」「洋食+運動」「洋食のみ」という4つのまとまりを作り、生後6週になるまで3週間観察。その後はすべてのマウスを運動なしの通常の食事に戻し、人間の6歳に該当する生後14週になった段階で、腸内細菌を調べました。
その結果、高脂肪・高糖質の洋食を与えられたマウスは、一部の腸内細菌の種類と量が大きく減少していることが判明。しかも、この減少は「洋食+運動」のマウスでも見られ、腸内細菌の減少に運動の有無は関係しないとわかったのです。
別の研究者が調査では、この実験で減少が見られた腸内細菌と同じ種類の細菌が5週間の運動で増えていることがわかっています。つまり、このタイプの細菌の増加には運動が関係していると示唆されるわけですが、それにもかかわらず今回の若いマウスを使った実験では運動をしても細菌数は減少したまま。このことから、幼少期に摂取した高脂肪・高糖質の食事が腸内細菌に長期的に影響していると考えられるわけです。
この実験はマウスで行われましたが、研究チームでは人間でも同じように腸内フローラに影響が出ると見ており、人間の場合は思春期以降でも最大6年間は影響を受けているのではないかと述べています。毎日の食事は私たちの身体の細胞一つひとつを形成する源ですが、幼少期の場合はそれがさらに重要なのかもしれません。研究チームの一人は「人の健康は食べ物だけでなく、幼少期の食事でも決まる」と述べています。
【出典】McNamara, M. P., Singleton, J. F., et al. (2021). Early-life effects of juvenile Western diet and exercise on adult gut microbiome composition in mice. Journal of Experimental Biology. doi: 10.1242/jeb.239699