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2021/3/20 18:00

自販機の設置が2倍に! コロナ禍で加速するバンコクの「非接触化」ブーム

コロナ禍のタイの首都バンコクでは人との接触をできるだけ避けるため、日々新たなテクノロジーが生まれています。例えば、ショッピングモールなど建物への出入りを記録する「タイチャナ」というアプリは、コロナウイルスが流行り始めて間もない昨年5月にいち早く開発されました。日々刻々と変わる状況に対応すべく生まれたテクノロジーは人々に新しい体験をもたらしています。

↑非接触化するバンコク

 

一時閉店を余儀なくされていたショッピングモールの再開に合わせて、いち早く開発されたのが「タイチャナ」です。これはタイ政府が提供する入退店管理アプリで、ユーザーはショッピングモールやレストランなどへの入退店時、設置されたQRコードを読み込んで、チェックイン・チェックアウトをします。そうすることで、万が一コロナ感染者が発生したとき、感染者の行動ルートにいた人を特定できる仕組みです。

 

下着やサンダルも買える

またコロナの流行によって、バンコクでよく見かけるようになったのが自動販売機。現在は閉店した日本の大丸百貨店が40年以上前にタイで初めて自動販売機を導入しましたが、安全面などの観点から日本ほどの普及には至りませんでした。

 

ところがこの1年間で設置台数が以前のおよそ2倍に増えています。人との接触を避けられる自動販売機は、売り手と買い手の両方にとって好都合。従来は飲み物がメインでしたが、コロナ拡大後はマスクやアルコール消毒ジェルなどはもちろん、対面型店舗やオンラインでの購入が主だった下着や観葉植物なども並ぶようになりました。

↑マスクとスマートフォンの充電器が購入できる自動販売機

 

タイのビーチサンダルメーカーNanyang社でも、昨年バンコク郊外にあるショッピングモールに自動販売機を設置。ビーチサンダルは生活必需品でないにもかかわらず、週に100足も購入されています。対面型店舗の営業時間はコロナ禍において制限される可能性がありますが、24時間販売できる自動販売機は顧客との新たなコミュニケーションツールとして躍進しています。

 

自動販売機メーカーのSun 108社は2020年に1万4000台の自動販売機を稼働させました。前年と比べると、2888台の増加ですが、日本では約1億2500万人の人口に対し自動販売機は250万台ありますが、タイは6700万人に対し2万5000台と市場はまだまだ成長段階。タイの英字紙バンコクポストによると、将来的にタイの自動販売機市場は年間30億バーツ(約105億円)の市場になると推定されています。

 

自動販売機市場が成長した背景には、タイ政府主導で進められているキャッシュレス化の拡大もありました。非対面型の販売チャネルである自動販売機はキャッシュレスと相性がよいため、キャッシュレスで支払える自動販売機の導入が今後の鍵になっていくと考えられます。

 

ショッピングモールはテクノロジーサービスの“展示会”

コロナ禍で活躍しているテクノロジーサービスは、ほかにも数多くあります。例えば、バンコク最大級のショッピングモール「セントラルワールド」は、さまざまなロボットの存在により営業が成り立っていると言っても過言ではありません。

 

セントラルワールドでは、昨年5月のモール再開後「K9」というロボット犬を導入。背中にアルコールジェルを搭載し、ジェルを使いたがらない子どもでも楽しく使える仕組みを作りました。K9を仕掛けたのは大手携帯電話キャリアのAIS。まだ普及段階にある5Gを使ってコントロールすることで、自社のプロモーションになるのはもちろん、アルコールジェルを使う煩わしさを一種の「体験」に転換した好事例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、除菌効果のある紫外線UVCを使用し買い物袋を消毒する機械や、エスカレーターに取り付けたセンサーが人の存在を感知して信号のように赤と青のライトで買い物客に知らせ、エスカレーター上でのソーシャルディスタンスを保つ機械などが設置されました。もはやセントラルワールドはコロナ禍期間中に開発されたテクノロジーの展示会のようになっています。

↑セントラルワールドのエスカレーターに設置された「信号」

 

一方、アメリカ発祥のチェーンレストラン「シズラー」では、ウェイターロボットの導入により非接触型の接客を実現させました。このロボットは来店客をテーブルまで案内して食事を提供するうえ、なんと誕生日の客のためにバースデーソングまで歌ってくれるという頼もしい存在です。

 

ソーシャルディスタンスや清潔さを保つためにスタッフの仕事が増えがちなコロナ禍のレストラン営業において、ロボットの導入は生産性を上げられるうえ、ロボット接客は来店客にとっても新たな珍しい体験につながります。実際にロボット導入後のシズラーの売上高は、コロナ拡大前の80%にまで回復しました。

 

このように、コロナ対策において比較的動きが速いタイは、日常の暮らしに数々のテクノロジーサービスを導入しています。新しい科学技術が支えるニューノーマルの日々は消費者にとっても一種の新しい体験。コロナ対策であることに変わりはありませんが、物事や生活をできるだけ前向きに楽しもうとするタイ人らしい考え方なのかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香