イギリスでデジタル離婚サービスを手がける企業が、世界初とされる”共同養育アプリ”を開発しました。離婚した2人が、子育てに関するスケジュールやイベント内容をそれぞれ管理・調整できるうえ、専門家への相談機能も搭載。お互いの合意を得ながら、トラブルなく冷静に養育の協力関係を続けるためのアプリとして、大きな注目を集めています。
アジア諸国に比べ離婚率が高いとされる欧米圏ですが、イギリスの国家統計局調査の資料によれば1964年から2019年までの離婚率平均は33.3%となります。最も離婚率が高いのが1987年に結婚したカップルで、43.6%が2017年までに離婚しています。結婚という形式にとらわれずに同居や子育てを行う事実婚カップルも多いため、実質的な子持ち世帯の別離率は50%に届くのでは、ともいわれています。
さらに、コロナ禍によるロックダウン生活で夫婦間の問題が表面化した家庭も多いようで、その結果、世界的に離婚申請の数が増加しました。イギリスでも同様の現象が起こり、2020年12月にはオンライン上で「迅速な離婚」というキーワード検索数が前年比235%と増え、「離婚届」や「最寄りの離婚弁護士」の検索数も2倍に跳ね上がりました。
離婚がそれほど珍しくなくなったとはいえ、伴って生じるストレスが減るわけではありません。離婚には裁判が必要で、日本より煩雑なステップを踏まなくてはならないイギリスでは、精神面に加え費用面での負担も大きくなります。また宗教的な理由で離婚できない場合でも、法的手続きを経て別居という形で実質的な別離を成立させるなど、複雑でさまざまなケースが見られます。
円満離婚のためのデジタル・サービスを提供するアミカブル社は、離婚や別居手続きに伴う、財産分与などのアドバイスや合意をサポートするスタートアップ企業です。弁護士では対応しきれない細やかな相談について専門家のアドバイスが得られ、離婚にかかわる出費も軽減できるアプリを開発し、注目を集めてきました。そんな会社が今年ローンチしたのが、離婚後の子育てや意見の相違に伴うトラブルを解消してくれる共同養育アプリ「アミカブル・コー・ペアレンティング(amicable co-parenting app)」です。
スケジュールなどをアプリで共有
子どもがいると、離婚後も元パートナーと連絡を取り合う機会が多くあります。このため、相手との関係があまり良好でない場合は、神経がすり減ってしまうことも珍しくありません。しかし、アミカブル・コー・ペアレンティングを介せば、お互いのコミュニケーションにワンクッション置くことで感情的になるのを防ぐことができ、必要な情報だけを共有できるため、精神的に大きな助けになります。
イギリスでは治安面などから、小学5年生ぐらいになるまで保護者が子どもを学校に送り迎えをするのが一般的。このため同居・別居にかかわらず、朝夕2回の送迎スケジュール調整は親の毎日の義務となります。しかし養育パートナー間でコミュニケーションがうまくいかず、さらなるトラブルを招いたり、相手への不信感が募ったりするケースも多いのです。
このアプリでは、まず個人プロフィールを作成したうえでパートナーを招待し、アプリ上でコミュニケーションをとることに合意します。ここでは学校の送迎や行事参加、食事内容、誕生日パーティーのプラン、スクリーンタイムや就寝時間などについて共同の子育てゴールを設定し、必要な情報やスケジュールを共有します。困った時はカウンセラーなどの専門家に相談できるコーチングセッションの予約も可能。
細かい話し合いはアプリ上で相手と直接メッセージ交換ができるようになっていて、送信時間がわかるタイムスタンプが装備されています。メッセージ内容が削除できない仕組みを取り入れ、お互いが「言った・言わない」のトラブルを防げるなど、細やかな工夫がされています。
アミカブル社ではロックダウンの影響で離婚件数が増えたことを受け、この共同養育アプリの30日間無料トライアルを始めました。トライアル後は月額9.99ポンド(約1500円)か、年間99.99ポンド(約1万5000円)のサブスクリプション契約でサービスを利用できるようになっています。
子どものストレスも軽減
これまで、電話やメッセージアプリやカレンダーアプリなどを総動員させて奮闘してきた共同子育てが、アプリ1つで済むようになるのは、多くの離婚者にとって朗報です。ユーザーからは「わかりやすくて使いやすい」「スケジュール調整と話し合いに苦労してきたが、お互い別の視点から物事を見ることができるようになった」といったコメントが寄せられています。不要なストレスに振り回されず、新生活への一歩を踏み出す手助けをしてくれる、心強いアプリといえるでしょう。
個人としては互いに別々の道を進むことになっても、子育ては一生もの。感情的にならずに協力関係を結び、子どもの希望やニーズを満たすことで、自分たちだけでなく子どものストレスも軽減することができます。ライフスタイルの多様化が進めば進むほど、このようなデジタル・コミュニケーションツールの需要も増えていくかもしれません。
執筆者/ネモ・ロバーツ