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2021/4/9 6:00

あれ、何しに来たんだっけ? ドアを開けた瞬間にド忘れする本当の理由

何かをしようと思って違う部屋に行ったはずなのに、途端にその目的を忘れてしまうことって、よくありますよね。そんなド忘れの現象には「ドアウェイ効果」という名前が付けられているのですが、オーストラリアの心理学者が最近この効果を検証したところ、従来とは異なる意外な結果が出ました。

↑あー忘れた

 

ついさっきまで覚えていたのに、部屋を移動した瞬間に忘れてしまう現象について、米国・ノートルダム大学の心理学教授が2011年に「ドアウェイ効果」と名付けて脚光を浴びました。この心理学者は「別の部屋のドアを通り抜けることで、最初にいた部屋での記憶が古くなり、脳がリフレッシュされる」と説明しました。

 

オーストラリアのボンド大学の心理学者は、このドアウェイ効果が起きているときの脳の状態を調べようと、その現象について4つの実験を行いました。まず実験1ではVRを利用し、被験者は仮想空間のなかで複数の部屋を移動して、各部屋のテーブルに置かれた青いコーンや黄色の十字架の物体を記憶し、それを別のテーブルに移動するタスクを行います。この結果、ほとんどドアウェイ効果は見られず、別の部屋に移動しても記憶に影響を受けることはありませんでした。

 

そこで実験2では、ランダムに表示される数字を6つ覚える記憶力テストを行ってから同様のタスクを課し、記憶力に負荷をかけた状態で行いました。この結果は、実験1に比べると別の部屋に移動することで被験者の記憶力の低下が見られましたが、それでもドアウェイ効果と言えるほどの目立った変化は観察されませんでした。

 

実験を行った研究者は、このような結果になったのは、実験1と2で使われた部屋がどれも見た目が同じように作られたものだったことが関係すると考え、もっとリアルに近いシチュエーションで実験を行うことにしました。例えばデパートのなかでの移動を考えると、似たような作りの別のフロアをエレベーターで移動するより、デパートの売り場と駐車場のように、見た目がまったく異なる空間へ移動することで、ドアウェイ効果が現れるのではないかと考えたのです。

 

そこで、実験3では廊下にカーテンを設置して、被験者にはVRでなく、別の人がその廊下を歩いているビデオを見ながらテストを行い、実験4ではカーテンが設置された廊下を被験者が実際に歩き、記憶力がどのように影響を受けるのかを観察しました。その結果、実験3と4でも、カーテンをくぐることで記憶力が薄れるようなドアウェイ効果は見られなかったのです。

 

先行研究では、さまざまな状況でドアウェイ効果が観察されたことが報告されていましたが、今回の実験では記憶に明らかな影響を与えるようなドアウェイ効果は観察されないという結果になったのです。

 

このことから、記憶についてさまざまなことが考えられます。人間は1つのことに集中していると忘れにくいが、たくさんのことをしていたり考えていたりすると、忘れやすくなる。また、記憶は背景とも関連しており、部屋の環境がガラッと異なる場所へ移動したときは、記憶が影響を受けやすい様子。これらの点に気をつければ、ドアを開けた瞬間にド忘れすることも少なくなるかもしれません。

 

【出典】McFadyen, J., Nolan, C., Pinocy, E. et al. Doorways do not always cause forgetting: a multimodal investigation. BMC Psychology 9, 41 (2021). https://doi.org/10.1186/s40359-021-00536-3