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2021/5/4 5:30

役割分担すら不要! 遊ぶように育児をする「キウイDAD」とは?

ニュージーランドでは、妊娠や出産で大きな負担を受けた女性をねぎらうため、自ら育休を取って積極的に育児参加する男性が増えています。そんな父親たちは国鳥のキウイになぞらえ、「キウイDAD」と呼ばれることもしばしば。そんなパパがいるニュージーランドの文化や社会保障制度はどうなっているのでしょうか? キウイDADのストレス解消方法と合わせて見てみましょう。

 

さすが、世界一早く男女同権を実現した国

↑キウイDADは背中で語るだけではない

 

ニュージーランドでの子育ては、夫婦共同作業が基本です。日本のように専業主婦だけが家事や育児を担当するワンオペはもちろん、夫婦間での役割分担という考え方さえ、そもそもありません。産前産後の女性に代わって、買い物をしたり、料理を作ったり、積極的に家事をするのがニュージーランドの男性の特徴です。

 

意外と知られていないかもしれませんが、ニュージーランドは1893年に世界でもっとも早く男女同権を成し遂げた国です。政治の分野を見れば、現職のジャシンダ・アーダーン首相を含め、3人の女性が首相に選出されてきました。かいがいしく子育てに参加するキウイDADには、このような歴史的背景もあります。

 

それは言葉にも反映されており、ニュージーランドの産休や育休は「Parental Leave(ペアレンタルリーブ)」と呼ばれ、父親も母親同様に取得する権利があるなど“父権”が守られています。また、マタニティクラス(母親学級)という言葉も、ニュージーランドでは父親もそのような勉強会に参加するのが当然なので、「Parental class(ペアレンタルクラス)」と呼ばれています。

 

男性の育児休暇取得率が低い日本と異なり、ニュージーランドでは、仕事より家族を優先する同僚や、育児に理解のある上司も多いため、育休を取りやすい職場環境が父権の後押しをしているように見えます。

 

産休や育休など子育てを支えるニュージーランドの社会保障制度も見逃せないポイント。例えば、妊娠期間中は「ミッドワイフ」という専属の助産師によるサポートが得られます。ミッドワイフは単なる分娩の助産師ではなく、妊娠中の健診から出産までトータルに伴走してくれる頼もしい存在です。また、産後は「プランケット」という育児支援団体から派遣される看護師が家庭を訪問し、新生児の育児に関するノウハウを教えてくれます。妊娠・出産にかかる費用は無料で、一定の条件を満たせば日本人でも受けることが可能です。

 

さらにニュージーランドでは、子どもが3歳になると、幼稚園や保育園から無料で育児を支援してもらうこともできます。それまでの期間、父親は保育所を活用しながら、母親の職場復帰をサポートしたり、育休を活用しながら子どもと遊んだり、夫婦二人三脚で子育てに励みます。ニュージーランドの義務教育は6歳の誕生日から16歳の誕生日までとなっており、その間の公立学校での授業料は無料。また、5歳になった子どもには小学校に行く権利が発生し、希望すれば5歳から授業料なしで小学校に通うことができます。しかも日本と異なり、ニュージーランドの公立小学校は一斉入学ではないので、親は子どもの成長に合わせて入学時期を決めます。

 

親心より遊び心

↑育児も楽しんだ者勝ち

 

ニュージーランドは豊かな自然に恵まれたスポーツ王国で、バイク、ラグビー、釣り、キャンピング、山歩きなど、さまざまなアウトドアライフを満喫できます。赤ちゃんをマウンテンバイクに乗せてジョギングしたり、子どもを乗せたトレイラーをバイクに連結して走ったりと、アウトドアスポーツで気分を発散。普段から身体を動かすことが好きなキウイDADたちは、一人で気分転換やストレス解消をするのではなく、子どもと一緒にスポーツを楽しみたいと思っているようです。

 

筆者もある日、子ども用スケートリンクで自転車の練習をさせていたキウイDADを見かけました。わずか5分の間に慣れた手つきで娘の顔に日除けクリームを塗り、怪我しないように長いスパッツをはかせ、膝とひじにサポーターを装着して、ヘルメットを被せていました。とても手際よく、常日頃から子どもと遊び慣れている様子。「子育てで大切なことは?」と声をかけると、「Take it easy!(あまり深刻に考えないことさ)」と笑顔で答えてくれました。

 

アウトドアスポーツに限らず、就学前の3歳から5歳ぐらいまでの、活発になってきた子どもとの遊びは、父親が本領を発揮する場面かもしれません。自分でツリーハウスを作ったり、庭でガーデニングを教えたり、ギターを弾いたり。自由奔放に好きなことをやらせてくれるキウイDADの育児参加は、幼稚園でも家庭でも大いに歓迎されているようです。

 

また、パブも赤ちゃんや子連れOKなところが多いため、スナックを片手に美味しい地ビールを楽しむこともストレス解消法のひとつ。父親仲間のサークルで歓談するのもよいでしょう。

 

コミュニティに必ず存在する「プレイセンター」では、母親同様に父親も、子ども同伴で楽しんでいます。学び合う親たちの自主運営活動なので、各プレイセンターによって違いはありますが、遊具などを使った外遊びをメインに、工作やお絵描き、知育遊びなどを子どもたちが自由に選んで楽しみます。

 

キウイDADには、ユーモア好きで遊びの達人が多い傾向にありますが、どうやって子どもと遊んでよいかわからないという父親には、ニュージーランド発の育児オンラインチャンネル「How to DAD」がおすすめ。 これを立ち上げたJordan Watson氏は、チャンネル登録者数 104万人の人気YouTuberで、ビーチサンダルに短パン・Tシャツといった典型的キウイDADスタイルで、ユーモアたっぷりに子育てアイデアを紹介してくれます。赤ちゃんの抱き方や寝かせ方はもちろん、幼児に野菜を食べさせたり、ダンスを踊ったりするほか、キャンプやお出かけ編も必見。パパ目線で育児をするとこんなに遊べるのか、とパパだけでなくママも開眼するかもしれません。

 

コロナ対策をうまく成功させたニュージーランドは、学校や幼稚園などで子どもたちが社会参加する機会をいち早く再開しました。コロナ禍でのオンライン学習も便利でしたが、人と接したり自然のなかで遊んだり、のびのび育ってほしいと願うのは親だけではありません。ニュージーランド政府もコマーシャルなどを通して、海外の観光客がいないときこそ、国民に子どもとのキャンプやネイチャーツアーといった国内旅行をしてほしい、と訴えています。

 

ニュージーランド在住の筆者も、この国は社会制度が充実し、子育てしやすい国だ、とつくづく感じてきました。子育ては夫婦でやるのが当たり前というニュージーランドの文化や、家事・育児を楽しむキウイDADの存在は、結婚生活や出産に伴う女性の大きなストレスを軽減してくれる心強い味方と言えそうです。

 

執筆/ハドソン知子