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2021/4/12 16:00

ガーナ版Suicaが誕生? アフリカの社会課題解決を押し進める若き起業家たちを応援【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は途上国の起業家を育成するプラットフォーム「プロジェクト NINJA」の活動の一環として行われたビジネスコンテスト「アフリカ新興テック ピッチ決勝戦」について取り上げます。

↑「アフリカ新興テック ピッチ決勝戦」で事業をプレゼンするスタートアップ起業家たち(写真上右、上左、提供:Nikkei Inc.)。決勝戦に進出した南アフリカのAnd Africaが取り組むIoTロッカー活用事業(左下)。途上国の若い起業家たちを支援する「プロジェクトNINJA」のロゴ(右下)

 

日本企業とアフリカのスタートアップ企業をマッチング

アフリカでは、デジタル技術で事業を変革させる「DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)」が急速に進行しています。そんなDXを推進するスタートアップ企業は、アフリカの課題解決に向けた立役者としても大きな期待が寄せられています。

 

JICAは、途上国の国づくりを支えるため、ビジネスとして社会課題の解決を図り、質の高い雇用創出のきっかけとなる起業家の育成に向けたプラットフォーム「プロジェクト NINJA(Next Innovation with Japan)」を2020年から始動。その活動の一環として、2月にビジネスコンテスト「アフリカ新興テック ピッチ決勝戦(JICAと日本経済新聞社の共催)」を開催しました。

 

日本企業とアフリカのスタートアップ企業のマッチングを図るこのイベントでは、日本の交通系ICカードを参考にしたキャッシュレス決済サービス、アプリを使って医薬品の在庫管理を行うシステムやドローンを使った農業支援サービスといったアイデアが提案され、今後、日本の企業との連携も期待されています。

 

非接触型ICカードの利用は、さまざまな課題解決につながる

イベントで提案された注目事業の一つが、ガーナのTranSoniCaによる非接触型ICカードを使ったキャッシュレス決済サービスです。

 

TranSoniCaの創業者でCEOのダニエル・エリオット・クワントウィさんは、アフリカの若者たちに日本の大学院教育と日本企業でのインターンシップを同時に提供するJICAの産業人材育成プログラム「ABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」により東京大学で学び、今春、大学院修士課程を終了しました。ダニエルさんが初めて来日したときに使用した交通系カードのSuicaを、「アフリカにも持ち帰りたい!」と考えたのがこの事業の始まりです。

↑TranSoniCaのダニエル・エリオット・クワントウィCEO(左)とTranSoniCaカード(右)

 

「アフリカでは、交通機関や商店での現金支払いに時間がかかり、長い待ち時間や行列が発生することが頻繁にあります。また、近年では、新型コロナの感染予防のため、非接触の決済サービスのニーズが高まっています。店舗側でも現金は窃盗の心配や売上管理が煩雑といった問題を抱えています。TranSoniCaのサービスを使えば、それらの課題をすべて解決できるのです」と、ダニエルさんは話します。「まずはガーナで導入したあと、他のアフリカ諸国にも広げていきたいと思っています」とその成長計画と夢を語ります。

 

アフリカでのビジネスチャンスに日本企業も注目

アフリカのスタートアップ企業と日本企業を結びつけた今回のビジネスコンテストは、アフリカ地域19カ国2,713社もの応募から最終選考に選ばれた10社が、それぞれの事業についてプレゼンテーションで競う決勝イベント。審査に参加した日本企業からは、投資、事業提携やメンタリングサービスの提供など具体的な協力として「特別賞」も贈られました。

 

TranSoniCaへの協力を決めた楽天ヨーロッパ・アフリカ担当の山中翔大郎さんは「キャッシュレスカードによる安全な決済サービスの提供は、アフリカでの社会的意義が大きいと考えました。楽天も様々なフィンテック関連サービスを提供しているので、その知見も活用してTranSoniCaをサポートできると思います」と、その選考理由を述べています。

 

その他、南アフリカでIoTロッカーを使った配送サービスを提供するAnd Africa、スマート水道メーターを使って水資源管理を行うケニアのUpepo Technologyなども特別賞を受賞しました。

視聴者投票で決まる優秀スタートアップ賞には、医療機関のない村落でも妊婦の診察を実現する装置とビジネスモデルを開発した、ウガンダのMobile Scan Solutions(M-SCAN)による「携帯型超音波診断装置」が選ばれています。

↑優秀スタートアップ賞を受賞した、M-SCANのメンヨ・イノセントCEO(左)と、M-SCANが提供している携帯型超音波診断装置(右)

 

日本企業とアフリカの起業家が連携し、Win-Winの関係を

今回のイベントでは、事業のプレゼンテーションに加え、有識者によるパネル討論も行われ、起業家へのエールが送られました。Project NINJAの推進役である不破直伸JICAスタートアップ・エコシステム構築専門家は、「1万人に起業トレーニングをして、そのうち1パーセントの100人が起業をし、各企業が5人の雇用を生み出してくれる、といった成長モデルを目指しています。持続可能なかたちで雇用が創出されていくことが、インフラ開発や社会課題の解決など、アフリカの自立的な開発につながります」と、スタートアップ企業支援の未来像を語ります。

また、JICA経済開発部の片井啓司参事役は、「各社とも才能にあふれ、エキサイティングな気持ちになりました。JICAが日本企業と途上国のスタートアップ企業との接点を作ることで、Win-Winの関係を展開していければと思います」と述べ、途上国の若い起業家に対する期待を述べました。