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2021/9/29 6:00

3000年前の頭蓋骨が語る「格差社会と暴力」のゾッとする関係

農耕や牧畜が始まった新石器時代。それまでの狩猟採集の生活から、人々の暮らしは大きく変わりましたが、そんな過渡期でも人間は協力し合いながら平和に暮らしていた……と思われるかもしれません。しかし実際には、ときには相手を死に至らしめるほどの暴力的な行為が行われていたことが、最近判明しました。

↑美しい景色を誇るアタカマ砂漠の裏には残虐な歴史があった

 

新石器時代に移行する激動の時代に、どのような社会が形成されていたのか? この問題を調べるため、チリのタラパカ大学の人類学者たちは、同国北部のアタカマ砂漠にあるアザパ渓谷から採取された194人の成人の人骨を調査しました。この人骨は紀元前1000年から紀元後600年までの新石器時代への移行期に暮らしていた人々のもの。アタカマ砂漠は地球上、最も乾燥している砂漠地帯と言われており、そのためか、採取された人骨の保存状態はとてもよく、およそ3000年前のものなのに、骨以外の軟部組織や髪の毛が残っているものもあったそうです。

 

残された頭蓋骨や身体の骨を丹念に調査した結果、194人のうち40人から、対人による暴力の外傷が見つかり、そのうち20人は致命的な外傷だったことがわかりました。また、死の直前に頭蓋骨骨折があった人は14人にものぼり、頭蓋骨の一部に穴が開いたものなども見つかりました。

 

研究チームによると、これらの外傷は人による意図的な暴力行為によって起きたものであり、木の棒や吹き矢などの武器が使われたと考えられるとのこと。正面から攻撃されたケースと、背後から襲われたケースの両方があるようです。

↑丸と三角の部分が傷の痕跡(画像提供/Vivien Standenなど)

 

さらに、同研究チームは人骨中の「ストロンチウム」と呼ばれる元素の同位体組成を解析。その地域の土地にあるストロンチウム同位体組成と比べることで、この暴力がコミュニティー内で起きたものなのか、それとも外部の人間によるものなのかがわかります。その結果、これらの暴力は外部の人間によるものではなく、同じ地域で暮らすコミュニティー内で起きた可能性が高いことが明らかになりました。

 

資源を巡る仁義なき戦い

今回の人骨が採取されたアザパ渓谷は、かつて肥沃な土地だった場所。しかし農業のスキルや道具を持っていない3000年前の人々にとって、乾燥した砂漠地帯という過酷な環境下で農業を始めるということは、かなり困難な挑戦だったでしょう。

 

さらに、農耕や牧畜が始まるとそれらの技術に優れた人とそうでない人が現れ、水や土地などの資源と食料を得ることに格差や社会的不平等が生まれていった可能性がある、と同研究チームは推測しています。そのような中で、人々は大きなストレスを抱え、争いが生じ、ときには残酷な暴力行為が行われるケースもあったと考えられるのです。

 

研究チームのリーダーは「海や水辺から離れ、砂漠に移動することは、生きるために必要な水や資源のない不毛な地に直面するということ。その中で農耕を始めようとする新しい生活は、社会的緊張を高め、当時の人々の間で紛争や暴力を引き起こすきっかけになった可能性がある」と指摘しています。

 

【出典】Vivien G. Standen, et al. (2021). Violence among the first horticulturists in the atacama desert (1000 BCE – 600 CE), Journal of Anthropological Archaeology, 63(101324). https://doi.org/10.1016/j.jaa.2021.101324