最近、英国ではキノコの人気が上昇中です。キノコは栽培時に排出される環境ガスも少なく、サステナビリティの面からも優秀な食材。ユニークな食品が登場したり、話題のビーガンレザーの原料に使われたり、その出番が増えています。ウェルネスとエシカルを象徴する存在になったキノコについて、英国からレポートします。
ファンタジーの世界へ
英国のキノコブームは初めてのことではなく、これまでもキノコはファッションモチーフや健康食品として大人気になったことがあります。今日のブームのきっかけは新型コロナウイルスのパンデミックで、2020年にはインテリア・アイテムとしてもキノコ型ランプがブームになりました。イギリス人にはキノコがかわいらしく幻想的に見えるようで、家にこもりがちな人々の心に癒しを与えてくれたのでしょう。
イギリス人を含むヨーロッパ人がキノコと聞いてよくイメージするのは、深い森や子どもの頃に聞いたおとぎ話です。森の中にひっそりと生えている不思議な様子から、妖精と関連づけて語られることもあります。「ピーターラビット」の生みの親、ビアトリクス・ポターもキノコに魅せられた人の1人。絵本を出版する前はキノコの研究に熱中していた彼女は、細部まで丁寧に描かれたキノコのイラストをたくさん残しています。
また、キノコ人気は、若い世代で広がっている「ロマンティックな田舎暮らしを楽しむ」というコンセプトを持つ「コテージコア(cottagecore)」の流行ともつながっています。英国ではロックダウン中でも楽しめる森林ウォークやキノコ狩り、自宅でできるキノコ栽培キットなどに注目が集まりました。
実利たっぷり
しかし、現在キノコが注目を浴びている大きな理由は、そのエコで万能な性質です。キノコの成分が解明されるにつれ、サステナブルの面から利用されるようになりました。
キノコは低カロリーで、さまざまな健康成分を含んでいますが、なかでも白い珊瑚のような形をしたライオンズ・メイン(和名:ヤマブシタケ)は、免疫力を上げるサプリメントの原料として認知度が一気に高まりました。
キノコは、学習能力や記憶ネットワークなど脳機能を活性化させるヘリセノン、免疫力の向上やアレルギー緩和に役立つベータグルカンを含んでいます。しかし、スーパーでは手に入りにくいため、キノコそのものではなく、大多数の人はライオンズ・メインが原料のサプリメントを利用しています。
一方、動物性素材を使わないビーガンブームの高まりによって生まれた、新素材の「マッシュルーム・レザー」も注目されています。
石油から作られる合成皮革と異なり、キノコを原料とする人工レザーは生分解性を持ち、環境に優しいうえ、上質な質感が特徴。ランウェイでの毛皮使用をいち早く中止し、サステナブルファッションにも積極的な英国ブランド「ステラ・マッカートニー」、高級ブランド「エルメス」、プラスチックゼロを目指す「アディダス」、ヨガファッションの人気ブランド「ルルレモン」などの新作に採用され、一躍脚光を浴びています。
英国ではキノコを使った飲み物も登場しました。クリスマス明けの1月に英国で行われる禁酒月間「ドライ・ジャニュアリー(Dry January)」に合わせて、2021年冬にリリースされた「Fungtn」は、ノンアルコールのクラフトビール。抗酸化に優れたチャーガ(カバノアナタケ)、生薬としても知られるレイシ、そして前述のライオンズ・メインの3種がブレンドされています。
また、近年では、第5の味と言われる「旨み(Umami)」という日本語が英語圏で流行しており、2022年もそのトレンドは続いています。干し椎茸などのキノコの粉末をかくし味に加えるシェフや料理家が増え、スーパーでもキノコの粉末が「ウマミ・パウダー」として商品化されています。
そのほか、英国で古くから親しまれている、キノコのタンパク質を発酵させたマイコプロテインを使った代替肉ブランド「クオーン」も、キノコの再評価によって人気が拡大しています。
キノコブームは英国以外の国でも起きているようで、例えば、米国のニューヨークタイムズ紙は食用から産業利用、医薬品まで、キノコが2022年のトレンドになると予測しています。新型コロナウイルスや気候変動といった問題を抱える現代社会は混沌としていますが、だからこそキノコは一種の「救世主」として期待を集めているのかもしれません。
執筆/ネモ・ロバーツ