小さい頃からお金の価値や管理に関する意識を持つことを重視するアメリカでは最近、子ども向けのマネー教育サービス「Greenlight(グリーンライト)」が人気を集めています。子どもが使えるデビットカードと親子それぞれが管理できる専用アプリを組み合わせたもので、キャッシュレス拡大も追い風となり利用者が増加中。寄付や投資ができる機能も備えた最先端のサービス内容を、アメリカの社会背景も盛り込みながら紹介します。
キャッシュレス化が進んでいるアメリカではクレジットカードやオンラインでの決済がほとんどで、現金がなくても基本的にどこでも買い物ができます。一方で、クレジットカードによる自己破産が大きな問題になるなど、子どもの頃からお金に対して正しい知識を持つことが求められています。
アメリカではその人の社会的信用を示す指標として、クレジットカードの利用履歴や返済額、借金の有無など個人資産の管理状況を示す「クレジットスコア」があります。この結果に応じて就職時の採用判断や、家やクルマのローン利息優遇措置なども変わりますが、クレジットスコアは、「クレジットカードの支払いが期日通りに行われているか」といった積み重ねによって上昇します。そのため一般的にアメリカでは18歳になるとクレジットカードを作り、多くの人は信用情報源となるスコアを上げるために、たとえ少額であってもクレジットカードで決済するのです。
ただ、そこで困るのが、18歳に満たない中高生の子どもたちのお金の管理。親のクレジットカードを持たせるのはリスクがあるのに加え、アメリカの多くの銀行では13歳以下の子ども名義で口座を開設することができず、デビットカードを作ることもできません。キャッスレス化が進んでいることから、親が自宅に余分な現金を置いておくという習慣も減っています。
このようなマネー事情があるアメリカで、子どもが自分でお金を管理できるうえ親もチェックが可能で、防犯性にも優れているというメリットを持っているサービスがGreenlightなのです。子どもに早期から実践的な金融リテラシーを学ばせたいというニーズに応えたものと言えるでしょう。
Greenlightは「親が管理できるアプリ」と「子ども用デビットカード」を合わせたもので、2017年のサービス開始以来、2022年現在でアメリカ国内の500万人以上が利用登録しています。料金は利用サービス別に3つに分かれていますが、基本使用料は月々4.99ドル(約632円※)で家族5人分までデビットカードを作ることができます。
※1ドル=約126.6円で換算(2022年4月18日現在。以下同様)
アプリでは親用の管理画面を通じ、デビットカードの残高や履歴など、登録した複数の子どもたちの利用状況をすべて確認することが可能であるのに対して、子ども用の画面では本人の情報のみを閲覧することができます。
アプリ内にはデビットカードを直接オンまたはオフにできる機能があり、最大25万ドル(約3160万円)のFDIC(連邦預金保険公社)保険やマスターカードの「Zero Liability Protection(カードが不正利用されても保有者が保護されるポリシー)」を付帯するなど、安全や防犯の面でも安心といえます。
主な機能5つ
Greenlightでは、主に次の5つのことができます。
① お金を使う
親が自分の銀行口座と紐付ければ即座に送金でき、子どもは実際のデビットカードと同じように支払いに使えます。決済が行われるとアプリ経由でリアルタイムに通知が届くうえ、スーパーやガソリンスタンド、いつも利用する店舗のみなど利用先を指定することも可能です。
親が送金した以上の金額は使えず、残金がない場合は利用しようとしても「Decline(決済不能)」となります。このような経験を通じ、子どもは何にお金を使うか、自分はいくら使えるのかを考えるようになります。
② 稼ぐ
アメリカの家庭では、芝刈りや洗車、家事の手伝いなどを仕事として子どもに依頼します。料金や曜日などを細かく設定でき、親は子どもがその仕事をしたかどうかを確認後、仕事に応じた料金を送金。単にお金をもらう小遣いとは違い、自分の労働の対価としてお金を稼ぐということは、大人になるのに役立つ経験となります。
③ 貯める
自転車や携帯電話など欲しくてもすぐには買えないものを手に入れるために、目標設定して貯金することができます。自分が持っている残金を貯めておけば、利息がついてお金が増えます。毎年2%の利息が付くオプションプランもあり、目標に向けてコツコツ貯めることや複利の重要性などを学ぶことができます。
④ 寄付する
アメリカでは州により税制優遇が受けられることもあり、寄付は一般的な行為です。「他者のために寄付をすることが人生を豊かにする」ということを小さい頃から学ぶことができるのもGreenlightの大事な特徴の1つ。寄付先については、動物愛護団体や自然保護団体など子ども自身がアプリ上で選べるようになっています。
⑤ 投資する
オプションプランではありますが、投資先を選び、それを親が承認すると実際に株やファンドに投資することができます。自分が労働して稼ぐことだけでなく、お金を運用して稼ぐことをアプリで実際に経験できるのは、最先端のお金の教育といえるでしょう。
このように、Greenlightは単に支払い機能のあるアプリというだけでなく、金融教育をまんべんなく網羅したサービスとなっているのです。
プラグマティックな存在
「子どもにデビットカードを持たせるのは早過ぎる」と思っていた筆者。しかし、アメリカではマネーリテラシーやビジネスマインドを育てる教育が重要視され、小学校で金融教育が始まっています。そのため、小さな頃からお金に興味を持つ子どもが多く、7歳の息子も先日友人と初めてレモネードスタンド(玄関先でレモネードを売る)を経験し、ビジネスに興味を持ち始めているようです。
世界的に見ても、今後の主な決済方法がキャッシュレスから現金に戻るとは考えられません。次世代を生きる子どもたちにとって、彼らのライフスタイルに合わせた金融教育やサービスを家庭や学校に導入することは、プラグマティック(現実的かつ実用的)な選択と言えるでしょう。今後のマネー教育およびツールの進化・発展に注目していきたいと思います。