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2022/5/12 6:30

道に迷うのは育った環境のせい? 欧州の共同研究で示唆

道を覚えようと努力しているのに、なかなかそれができないと悩んでいる人は少なくないかもしれません。一体それはなぜ起きるのでしょうか?  最近、欧州の研究で「空間ナビゲーション能力(空間認知能力)」は、育った環境と関連性があることが明らかにされました。

↑なんで道に迷うのだろう?

 

これまでの研究で、環境が人間の認知機能やメンタルヘルスに深い影響を与えることがわかっていますが、生まれ育った環境が認知能力に与える影響については、あまり明らかにされていません。では、空間ナビゲーション能力は生まれ育った環境と何か関係があるのでしょうか? この疑問に対する答えを導くため、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイースト・アングリア大学、フランスのリヨン大学の共同研究チームが実験を行いました。

 

この実験で使用したのは、モバイルゲームの『シー・ヒーロー・クエスト(SEA HERO QUEST)』。このゲームはドイツテレコムや英国アルツハイマー研究所などが、アルツハイマーの研究のために共同で開発したもの。認知症によって父が喪失した記憶を取り戻すために息子が海を冒険するという内容の同ゲームで、プレイヤーはボートに乗って、地図上のチェックポイントを見つけながら進んでいきます。

 

これまでに400万人以上が遊んだとされる同ゲームのプレイヤーの中から、今回の実験では38か国・約40万人のデータを収集し、ゲームの成績とプレイヤーの出身地を比較したのです。

 

その結果、ニューヨークやシカゴのように碁盤の目状に道路が整備された大都会で育った人は同ゲームが苦手でした。また、プラハ(ニューヨークのように道路が整備されていないものの、統一された街並みを持つチェコの首都)で育った人たちのゲームの成績も、田舎育ちの人たちより少し悪かったとのこと。

 

この共同研究チームは、以前に空間ナビゲーション能力が年齢とともに低下し、その衰退は20歳前後から始まることを突き止めましたが、今回の研究では、碁盤の目のような都市で育った人の同能力は、5歳上の田舎育ちの人のそれと同等であることが判明。地域によって両者の差は変わるようですが、田舎育ちの人でもこの能力は年齢を重ねるほど衰えるとすると、ここからは、都会育ちの人の空間ナビゲーション能力が、田舎育ちの人より早く弱くなる、またはその発展が早く止まると考えることができます。

 

道路が複雑に入り乱れた地域で育つと、何度も道を曲がる必要があり、こまめに方角や現在地を把握する必要がありますが、だからこそ道路や目印を覚えるスキルが自然と身に付く可能性がある、とこの共同研究チームは考察しています。

 

便利さの代償

今日の社会では、場所や通信環境にもよりますが、知らない土地であってもスマートフォンなどの地図アプリで現在地を確認しながら移動できるもの。その代わり、現代人はだんだん道やその名前、景色などをだんだん覚えられなくなっていると言われます。規則的に整備された道路は美しく、カーナビなどの技術はとても便利ですが、私たちを取り巻く環境は、人間の認知能力の発達に思いもよらない影響を与えている模様。さらなる研究が待たれます。

 

【出典】Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104–110 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04486-7

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