自然が豊かな場所では、都会に比べて空気がおいしく感じるもの。しかし、それは錯覚かもしれません。先日、WHO(世界保健機関)が「世界の人口の99%は不健康な空気を吸っている」と発表したのです。一体どういうことでしょうか?
WHOは2011年から、日本を含む世界117か国6000以上の都市で、二酸化窒素(NO2)、PM10(直径10マイクロメートル以下の粒子状物質)、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質)の年平均濃度を観測し、大気の質に関するデータベース(『Air Quality Database』)を3年ごとに発表しています。最近、その2022年版が公開されました。
まず、二酸化窒素から見てみましょう。二酸化窒素とは、空気中の酸素と反応してオゾンを生成する物質で、PM10やPM2.5と同じように都市部で多く観測されている大気汚染物質。約4000の都市や地域がこのデータを収集していますが、WHOの大気質ガイドラインの数値(air quality guideline levels)を達成している国は全体のわずか23%しかありませんでした。国の所得によって大きな差は見られなかったとのこと。
次に、PM10とPM2.5に関しては、WHOの基準を下回る国が、特に所得の低い国で多数あることがわかりました。低・中所得国で基準を満たすのは全体のわずか1%未満。それに対して、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの高所得の国では、83%が基準を満たしていました。低・中所得国のPM10とPM2.5の量は、高所得国の約3倍にもなります。
これらの結果から、WHOは世界の人口の約99%が「汚染された不健康な空気を吸っている」と警鐘を鳴らしたのです。「約99%」の算出方法は不明ですが、2020年の世界の人口を約77.6億人(出典:世界銀行)とすると、約76.8億人が該当。特に所得の低い国の人々は、大気汚染によりさらされているのが現状のようです。
WHOは、大気汚染によって亡くなる人が毎年世界で700万人にのぼると報告しています。大気汚染がさらに進むと、これまで以上に多くの人々が病気で苦しむことになりかねません。コロナ禍で世界中の人々が自宅にとどまった期間、クルマの排気ガスなどの量が減ったことで、空気がきれいになったことが複数の都市で報告されました。再び空気が汚れてしまわないように、各国が大気汚染のガイドラインを刷新し、それに合わせた対策を講じるべきだ、とWHOは述べています。