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2022/10/17 6:00

イタリア版「祇園祭」が再開! 約400年続く「聖ロザリーアのフェスティーノ」は奇跡的だった

2022年7月、イタリア・シチリア島の都市パレルモで、疫病退散を願う「聖ロザリーアのフェスティーノ」祝祭が3年ぶりに開催されました。世界中から20万人もの人々が集まり、伝統の行列に連なりました。ペストの流行からパレルモを救った守護聖人・サンタロザリーアを崇拝するこのお祭りは、京都の祇園祭に通じるものがあります。コロナ禍の中断を経て再開したシチリアの伝統文化を紹介しましょう。

↑聖ロザリーアのフェスティーノに登場するシチリアの象徴「カッロ」

 

パレルモと聖ロザリーア万歳!

聖ロザリーアのフェスティーノは 、2022年で398回目を迎えたシチリアの伝統的祭礼。400年前のペスト大流行を一瞬で消滅させた奇跡を祝うもので、開催期間は7月1日から15日までおよそ半月に及びます。18世紀の貴族の館が立ち並ぶパレルモ旧市街では、宗教行事やパレード、演奏会、演劇などのさまざまな催し物が行われますが、祭りの熱気が最高潮に高まるクライマックスは14日の前夜祭。疫病終息の奇跡の行列を再現したパレードが、イルミネーションに彩られた市街を練り歩き、世界遺産のパレルモ大聖堂ではミサが行われます。

 

また、「カッロ」と呼ばれる豪華な山車の行進もこのお祭りの大切なイベント。シチリア文化を象徴するカッロは、ノルマンニ宮殿から海までの旧市街を一直線に結ぶヴィットーリオ・エマヌエーレ通り(Vittorio Emanuele)を進みます。2022年のお祭りでは、生演奏で盛り上がる雰囲気の中、カッロやパレードは次のように進みました。

 

第1停留所:ヌオーヴァ門より20時半カッロが出発

第2停留所:カトリック教会神学校にて、パレルモ教区最高位聖職者のコッラード・ロレフィチェ大司教がカッロに搭乗して聖ロザリーアの像を祝福

第3停留所:世界遺産のパレルモ大聖堂にて、名門マッシモ劇場の児童聖歌隊とユースオーケストラによるコンサート

第4停留所:旧市街にある代表的な交差点クアットロ・カンティにて、ロベルト・ラガッラ市長がカッロに登り「Viva Palermo e Santa Rosalia!(パレルモと聖ロザリーア万歳!)」と叫びました。

第5停留所のローマ通り、第6停留所のカッティーベの城壁、第7停留所のフェリーチェ門、第8停留所の音楽堂記念碑、第9停留所のギリシャ門と、名高い観光名所を次々に通過した行列は海に到着。深夜0時にフィナーレの花火があげられました。

 

聖ロザリーアの奇跡

↑聖ロザリーアのフェスティーノのポスター(右側に描かれているのが聖ロザリーア)

 

お祭りの“主人公”である聖ロザリーアは12世紀を生きた地元出身の聖女で、カトリック教会によりパレルモ守護聖人として認められています。ローマ皇帝だったカール大帝の末裔であるノルマン貴族の家系に生まれますが、神を愛し、祈りの生活を送るためペッレグリーノ山の洞窟で隠者として暮らし、若くして洞窟内で亡くなったと言い伝えられています。

 

しかし、それから約450年後、1624年にパレルモに疫病ペストが流行していたころ、ロザリーアはある病気の女性の夢枕に、続いて猟師の夢枕に現れ、自分の遺骸の在り処を啓示しました。そして、ペッレグリーノ山の洞窟からパレルモ市街までの間で行列を作り、遺骨を運ぶように言います。その猟師が洞窟でロザリーアの遺骨を見つけ、言われた通りにしたところ、たちまち病人は癒され、疫病の流行は終息したそうです。

 

ロザリーアはパレルモの守護聖人として地元で深く愛されるようになり、遺骸が発見された7月15日を記念して、行列を再現するようになりました。これが聖ロザリーアのフェスティーノの起源です。宗教的にも重要な行事として後世に受け継がれてきた一方、ペッレグリーノ山の洞窟には教会が建てられ、パレルモの街と海を見渡せる風光明媚な名所かつ癒しの祈りの場所として、世界中から多くの巡礼客が集って来ます。

 

祇園祭と類似

↑市民や観光客で賑わうヴィットーリオ・エマヌエーレ通り

 

新型コロナウイルスの蔓延によって2年間、開催中止を余儀なくされた聖ロザリーアのフェスティーノですが、再開にあたり、コッラード・ロレフィチェパレルモ大司教は次のように述べました。「パンデミックが引き起こした心理的、人間的、経済的、社会的な要因が、フェスティーノの衰退と人間疎外の原因になってはなりません。そうならないようにすることにこそ祝祭の真の目的があるのです。ロザリーアに愛された私たちの街の解放と再生をともに賛美しましょう」

 

ほぼ同時期に、遠く離れた日本の京都でも、コロナ禍で2年間中止されていた祇園祭の再開を巡り、門川大作市長から似たような言葉が発せられていました。疫病がまん延した平安時代初期に、疫神や怨霊を鎮める祈りを捧げる行事として生まれたのが祇園祭です。京都警察によると、2022年の祇園祭山鉾巡行の沿道にはおよそ14万人が見物に訪れたとのこと。「動く美術館」と称される祇園祭の山鉾は、日本各地の祭りに見られる山車の原型になったとされていますが、「動く劇場」とも言えるパレルモのカッロを連想せずにはいられません。

 

洋の東西を問わず、見えない疫病を鎮めるためのお祭りは、長い歴史の中で人類が魂を込めて営んできた一大伝統行事。太陽の恵み溢れるパレルモの聖ロザリーアのフェスティーノには、人々が抱える不安を鎮め、元気づけてくれる力があります。筆者も当時の景観が保全された旧市街を練り歩く群衆に加わってみましたが、実際に疫病退散の奇跡を目の当たりにしたかのような気持ちになりました。

 

コロナ禍は社会に深い影響を与えていますが、だからこそ、伝統的なお祭りが持つ「人々を精神的に癒しながら、結びつける」という目に見えない価値は、今後も継承されるだろうと思います。