年末年始は贈り物の季節。大切な人へのプレゼントは丁寧に包んで渡したいと思う人は少なくないでしょう。そこで考えてみたいのが風呂敷。日本国内の歴史的資料や芸術作品にも頻繁に登場してきたこの布は、実用品や贈答品として、さまざまな用途で使われてきました。この伝統文化は時代に合わせて変化しており、今日ではその価値が国内外で見直されているのです。
そもそも日本人は古くから包み物を大切にしてきました。勅撰の歴史書『続日本紀』には「天下百姓右襟」とあり、養老3年(719年)に衣服の袷の方向が法令で定められたのです。着物の着方が法律で定まり、それを基にしながら、包みの方向が慶事は右包み、弔事は左包みと定着していきました。縁起を重視した日本人の伝統や風習は、無言の志として相手を思いやる気持ちが表現されていますが、慶弔や贈答における包み方の作法は現代でも受け継がれています。
「風呂敷」の名称は、戦国から江戸時代にかけて、特に銭湯における湯具としての風呂敷包みから広まったと言われています。江戸時代の文学人、井原西鶴の作品にも度々登場していますが、当時の木綿風呂敷は、徳川家康の遺産目録にも(包み物ではなく風呂の敷物として)含まれていた高級品でした。大名をはじめとする限られた人々に愛用された風呂敷は、この時代に大衆の間でも爆発的に普及していきます。その後、明治時代に平民が苗字や家紋を持つことを許されてからは、各家の紋章デザイン文化が隆盛し、さらに長寿や子孫繁栄の象徴とされる唐草文様の風呂敷が大衆に人気を博しました。
現在でも風呂敷を見かける頻度が高い場所は京都でしょう。京都には歴史のある風呂敷メーカーや加工業者が多数存在しており、風呂敷文化の復活と普及を目的とした日本風呂敷協会が本部を構えています。包み方教室やデザインコンペを定期的に実施するなど、同協会はさまざまな取り組みを行なってきました(なお、この協会の会長は宮井株式会社の宮井宏明社長が務めています)。
確かに生活習慣の欧米化により、風呂敷を日常生活で使う日本人は多くないでしょう。しかし、近年では環境保護や大量廃棄といったグローバルな問題を背景に、サステナビリティの観点から風呂敷が国内外で脚光を集めるようになりました。実際、海外では風呂敷の活用方法を知るためのワークショップが開催されています。風呂敷が持つ運搬具としての柔軟性やスペースを取らない簡易性など、機能性の高さに驚いた人もいると思われますが、その一方で、外国人の中には風呂敷をスカーフとして身に纏う人もいるそう。外国人だからこその発想と言えますが、風呂敷には普遍性があるのです。
このように、風呂敷には長い歴史があり、その価値は世界的に再発見されつつあります。風呂敷の中には、時代に合わせて新しいデザインを取り入れるものもあれば(例:1枚目の画像の「をどりをどり」)、ずっと変わらないロングセラーもあります(例:3枚目の画像の「荒磯」)。不易流行を体現した風呂敷は、日本文化の金字塔なのです。今度のプレゼントは風呂敷で包んでみてはいかがでしょうか?
取材協力/宮井株式会社(https://www.miyai-net.co.jp/)