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2022/12/29 11:30

テクノロジーによる管理が浸透! 2022年のサステナビリティ

コロナ禍で3年目を迎えた2022年も、世界各国ではサステナビリティやSDGsの動きが進みました。この1年間取り上げてきたさまざまな記事の中から、北京冬季オリンピックをはじめ、都市再開発やカーシェアリング、フードマイレージの取り組みについて改めて振り返ります。

↑世界はサステナブルになった?

【中国】冬季“グリーン”オリンピックへの挑戦

近年のオリンピック・パラリンピックは環境への配慮だけでなく、大会を通じて持続可能な社会づくりを推進する場となっています。2022年2月に開催された北京冬季オリンピックも、「低炭素エネルギー・低炭素会場・低炭素交通」という三本柱の「グリーン・オリンピック」の実現に挑戦。会場のあちこちで、二酸化炭素排出を抑えるためのさまざまな工夫が見られました。

 

前年の東京オリンピックではメイン会場の国立競技場を建て替えましたが、北京冬季オリンピックでは2008年夏季大会のメイン会場だった「北京国家体育場(通称「鳥の巣」)」を再利用。改装を施しただけで使い、建物の周りに張り巡らされた発電ガラスはソーラーパネルの役割も果たしました。水泳会場も建て替えず、冬はカーリング、夏はプールとして使えるように工夫した改修を行っただけでした。

 

会場の低炭素化への取り組みで特に注目を集めたのが、排出された二酸化炭素を冷却材として再利用できる製氷技術。会場の氷上温度差を常に0.5℃以内にコントロールすることで、選手たちのパフォーマンス効果を上げるように設計されています。

 

敷地内の移動には電気自動車だけでなく1000台以上の水素自動車を投入。北京オリンピックにおける新エネルギー車の利用率は85%以上になるなど、「低炭素交通」の実現にも踏み出しました。

 

【詳しく読む】

中国の大奮闘! 北京冬季オリンピックに見る「低炭素化」への取り組み

 

【都市再開発】ミラノ市のゼロカーボン・ロジェクト

イタリアのミラノ市はサステナブルなまちづくりを目指し、3つの都市再開発プロジェクトに乗り出しました。同プロジェクトの「リネスト」は、旧鉄道の貨物ターミナルだった約7万平方メートルの敷地に約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。再生可能エネルギーで稼働させ、2050年までにゼロカーボン化を目指します。

 

注目を集めているのが「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、CO2吸収に向けて周辺地域面積の60%を緑地化する方針です。

 

旧鉄道エリアに約90戸の集合住宅を建設する「ボスコナヴィリ」プロジェクトは、屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い地熱エネルギーを利用するように設計。住民共有の電動自転車とスクーターを設置することでCO2の排出を抑え、 樹木や植物で敷地を囲みCO2を吸収します。雨水を再利用する自動かんがいシステムも導入される予定。

 

さらに、同地区の旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、2026年に開催される冬季オリンピックの選手村を建設し、大会終了後には学生用公営住宅に変える予定です。

 

イタリア最大の都市再開発プロジェクトとされる「ミラノセスト」は、150万平方メートルの広大な旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させるもので、タワーオフィスや商業施設、ホテル、病院などが建設されます。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方をもとに建物用の資材や原材料を決めているほか、対象地域全体に1万本の木を植える予定。緑地化により年間48トンのCO2が吸収され、歩道橋の上に設置した太陽光発電パネルによって利用量の半分を再生可能エネルギーで賄います。

 

【詳しく読む】

冬季五輪の選手村は学生向け住宅に。ミラノが挑む3つの「サステナブル住宅プロジェクト」

 

【カーシェアリング】ドイツで進む「乗り捨て型」

ドイツでは都市部を中心にカーシェアリングが急速に広がっています。人気の理由は、出発したステーションに返却する必要がない「乗り捨て型システム」。駐車禁止の標識が置かれた場所以外は、市内路上の駐車エリアでの乗り捨てが可能なのです。

 

カーシェアリングのプロバイダーと各自治体が連携したため、路上でなく有料の駐車場に乗り捨てた場合でも料金は無料。環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体が、カーシェアリングを推奨するようになりました。

 

24時間年中無休で月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約13円※)から。数分でも数日でも利用可能で、事前にアプリで予約すれば指定の場所まで届けてくれます。

※1ユーロ=約146.24円で換算(2022年12月16日現在)

 

一般的にドイツ人はエコ意識が高いため、プロバイダーはCO2を排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的。これらのクルマはカーシェアリング市場の23.3%を占め、中でもバッテリー式電気自動車が多く利用されています。このように、乗り捨て型カーシェリングはユーザーの利便性を実現した環境負荷を低減できるものなのです。

 

【詳しく読む】

ドイツのカーシェアリングは「乗り捨て型」が75%! もはや都会暮らしには不可欠の存在に

 

【フードマイレージ】ロンドン発、未来の食料供給法

ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜が注目を集めています。スタートアップ企業がロンドン市内で貨物コンテナを使った未来型の「垂直農園」に着手し、食品輸送で発生する排気ガスの大幅抑制につなげています。

 

「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることができます。レタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗百貨店やミシュラン星レストラン、高級青果店など、多くの高感度ショップへの卸売りを展開。大手スーパーからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、ロンドン市民の関心を集めているようです。

 

【詳しく読む】

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

 

各国における最近のサステナビリティ施策を見ると、新たなシステム運用やAIの活用など、デジタル技術が浸透していることがわかります。その一方で、人が重視する利便性やエコ意識を利用した取り組みも進んでおり、この両輪を活用することが持続可能な社会の実現につながるのだということを改めて感じます。