現在、コロナ禍による社会の構造変化に伴い、ビジネスの世界は大きな変革期を迎えています。私たちの仕事はどう変わりつつあるのでしょうか? 官民協力の国際機関「世界経済フォーラム」の記事を参考にしながら、仕事の近未来について考えてみましょう。
加速する大量退職と世界的IT企業のレイオフ
コロナ禍によるパンデミック終了後、労働者が職場に復帰することが難しくなっているといわれています。日々の生活が「通常」に戻った後、多くの人々が自分のキャリアを再評価し、仕事を辞める選択をするとの予測です。すでに米国では、テック業界とヘルスケア業界を中心に30~45歳のミドルキャリア世代で大量退職がトレンド化。企業にとって大きな痛手となっています。
その一方で、パンデミックに起因する景気減速により雇用が取り消されるなど、これまで成長分野とされていたテクノロジー企業のレイオフ(整理解雇)現象が加速しています。ここ2か月ほどで、世界的なIT企業であるツイッターやアマゾン、メタ(旧フェイスブック)も相次いで大量解雇を発表しました。業界構造やビジネスモデルの変化により、競争力や効率化を高めるために企業再編やビジネス再構築を目指すようになったのです。
新卒ではなく高スキル人材の採用へと舵切り
レイオフを行わない企業においても、従業員の生産性向上を求める動きが急速に高まりました。高度なデジタルスキルを持つ人材は世界的に不足しているため、人材獲得をめぐる競争も激化しています。
企業は競争力や効率化のために大規模な人員削減を実施した後、業界に関係なく、自社の収益に直接貢献できるデジタルスキルを持つ人材の採用を優先。短中期的な結果を出す必要性が増しているため、経験に裏打ちされたスキルがある人材の確保に積極的な姿勢を示しています。
こういった背景から目立ち始めたのが、新卒者の受け入れ減少。多くの企業が新卒者の未知のスキルや可能性に期待する姿勢をとらず、採用基準から学位を排除する動きが加速。熟練したデジタルスキルを持つ人材の評価を重視する採用へと、大きく舵を切りました。
そのため若者は社会に出る前に、現場でデジタルスキルの経験を積むことが必須となったのです。インターンシップや見習いプログラムなど、在学段階で仕事に直結した学習機会を受け入れることが求められています。
根底から変わる雇用形態や人材マネジメント手法
パンデミックによって仕事の形態は大きく変化し、リモートワークを活用すれば業界や国境を越えて働けるようになりました。デジタルテクノロジーの恩恵により、労働者が仕事を掛け持ちしたり、一度に複数の仕事に就いたりすることも可能になったのです。
米国労働統計局の調査によれば、現在点で最も若い労働者は生涯で12〜15の仕事をすると予測されるとのこと。そのため、企業も個人もより広くグローバルな視点で仕事を評価し、キャリアやスキルの流動性を見据えた働き方にシフトする必要があります。
また、ウーバーイーツなどデジタルプラットフォーム企業の台頭は、雇用のルールを根底から変えました。同社は世界中で約500万人のドライバーに仕事の機会を創出しており、同じ様に他社のデジタルプラットフォームを利用して生計を立てるフリーランサーも増加しています。
このように、企業と雇用関係を結ばず自らのスキルと知識で生計を立てる労働者は、今後も増える見込み。企業と労働者が共に支えてきたこれまでの雇用形態は、次第に弱体化していくでしょう。
企業が採用に取り組む手法についても、見直しが進むことが予想されます。従来のように人事部門が従業員を管理するのではなく、「人材」の戦略チームが人事ニーズを満たすといったマネジメント手法にシフトすると言われています。また、仕事のパフォーマンスを測定する分析ツールを活用し、職場が抱える人材の全体像を把握・評価するようになる可能性もあるそう。
もはや多くの企業は従業員がフルタイムでオフィスに戻る必要はないと考えています。パンデミック前の勤務形態が再現されることはなく、柔軟性がありバランスの取れた効率的な働き方が推奨されていきそうです。
デジタルスキルは雇用されるための必須能力に
デジタルテクノロジーの浸透は、仕事の世界に大きな変化をもたらしました。農業や製造、金融、さらにメディアまで、あらゆる分野でテクノロジー企業への転換が進んでいます。
こういった動きからもわかるように、より高い競争力を必要とする企業にとっては、優れたデジタルスキルを有する人材の確保が急務。国際的な流れとして、デジタルスキルは労働者に必須な「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」になりつつあるのです。
これからの時代における「エンプロイアビリティ」は、コミュニケーション力など従来の「ソフトスキル」だけでは足りません。AIやロボット工学、デジタルトランスフォーメーションなどが職場に浸透するにつれて、熟練したデジタルスキルがますます求められるようになるでしょう。
執筆者/渡辺友絵