天気のいい日に洗濯物を干すと、パリッと乾いて気持ちのいいものです。しかし、米国では庭先やベランダに洗濯物が干してある風景はめったに見かけません。今回は、日本ではあまり知られていない米国の「干す権利」にまつわる問題について紹介します。
屋外で洗濯物を干さない理由
米国人が洗濯物を干さない最大の理由は、約80%の家庭が洗濯乾燥機を所有しているため、外に干す必要がないからです。
ただし、理由はそれだけではありません。日本では「洗濯物を干す権利」が当たり前に認められていますが、米国では思った以上に根深い問題として今なお議論が続いています。
米国でも、かつては洗濯物を外に干すことが当たり前でした。しかし、1950年頃に洗濯乾燥機が登場すると、1960年代には中上流家庭に広く普及するようになります。その頃から、不動産に大きな影響力を持っている施設やエリアの管理組合「HOA(Home Owners Association)」や、地主の多くが、「洗濯物を屋外に干す行為は景観を損ない、不動産の資産価値を下げる」として禁止するようになったのです。
米国の不動産では景観が重視され、その良し悪しが不動産価格に直接影響します。美しく整えられた外観を目指すHOAは、庭先やベランダにぶら下がった洗濯物は「洗濯乾燥機を購入できない低所得者のイメージを与える」として排除。他にも、「洗濯物の紐に子どもが絡まって事故に発展する危険性がある」「犯罪を誘発する」といった理由もあるようですが、「不動産の資産価値を守る」というのが一番の理由であることは間違いないでしょう。
今も多くのHOAが洗濯物を屋外に干すことを禁止しており、その影響で米国では洗濯物が干された風景はめったに見られなくなったのです。
なんと複雑な問題
一方で、「自宅で自由に洗濯物を干す権利」を主張する声もあり、この問題は長年議論されてきました。そして2013年、ハワイやフロリダなど19の州で正式に洗濯物を干す権利が保証され、「洗濯物を屋外で干すことを禁止する行為は違法」と規定されました。
また、環境問題の観点から、エネルギーを消費する洗濯乾燥機よりも、自然の力で乾かす方法のほうが好ましいという考えが広がってきています。衣服が傷みにくく、コスト削減にもなるといったメリットも多く、洗濯物を干すという行為が見直されているのです。
しかし、禁止するかどうかを自治体に任せている州もまだまだ多く、「洗濯物を干す行為は法律で禁止されている」と信じている米国人も少なくありません。いまだに「洗濯物を干せない国」である米国。今後どのような変化があるのか、気になるところです。
執筆/長谷川サツキ