首都デリーで5月末、52.9℃の気温を記録したインド。今は雨季に入り気温が下がり始めましたが、それでも容赦ない暑さに見舞われています。そんな同国には何千年もの間、利用されてきた独特の冷却装置があります。
その冷却装置とは、「マトカ」と呼ばれる粘土製の素焼きの壺に水を入れるという方法。粘土は多孔質であるため、その微小な孔から水が壺の外に達すると、暑い外気に触れて蒸発します。水は蒸発するときにエネルギーを消費するため、周囲の空気や壺の中の水から熱を奪い、これによって周囲の空気と壺の水が冷やされる仕組みです。
この原理を利用して、壺をいくつも組み合わせたのが、産業革命以前に利用されていたという冷房装置です。この方法は、粘土製の壺が安価で用意できるうえ、電気を使用しないことが最大の利点。簡単に設置できて、運用コストも抑えられます。この壺の冷却装置を利用して食材を冷やす冷蔵庫もあるそうです。
国内の世帯数が3億以上にもなるインドで、自宅に冷蔵庫を持っている人は3分の1、なんらかの冷却装置を持っているのは4分の1未満。自宅にエアコンを設置している世帯はわずか5%程度と推測されるそうです。そんな国にとって、この伝統的な冷却装置はシンプルな仕組みでコストも低く、まだまだ役に立つと言えるかもしれません。
熱波に見舞われる地域が増えている2024年の夏。冷房に頼るだけではなく、古代から利用されてきた人々の知恵で、周囲を冷やすアイデアに目を向けてみてもいいかもしれません。
【主な参考記事】
Wired. This Ancient Technology Is Helping Millions Stay Cool. July 9 2024