日本列島全体の地殻に大きな影響を与えた2011年の東日本大震災を境に、全国で地震活動が活発化しています。今年4月〜5月に発生した震度3以上の地震回数は昨年と比べ2倍以上となっており、専門家からは、「日本は『大地変動の時代』に入った」という声も聞かれます。
「ここ数年間は北海道から九州までいろいろな場所で地震が起きており、日本列島のどこで地震が起きるかわからない状況です。また、歴史的にみて首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震災害が近い将来に起きることは間違いありません」と語るのは、マンション防災士の釜石 徹さんです。
迫りくる巨大地震を見越して、大切な命を守るために、私たちはどのような備えをするべきなのでしょうか。“死傷者を出さない備え”を柱に減災対策を展開している釜石さんに、自宅で行うべき地震対策について聞きました。
住まいでの地震被害から身を守る上で最も重要なことは?
ジャストシステムが行った「新型コロナウイルスと、地震対策に関する実態調査」(調査期間 2020年6月19日〜21日・調査対象 20歳〜69歳の男女1000名)によると、自宅で何らかの地震対策を行っている人の割合は5割に届かず、43.7%という結果に。では地震対策を行っている人に自宅で実施している地震対策を聞くと、もっとも多かったのが「非常食や飲料水の備蓄」で64.8%、次いで「家具の転倒防止対策」が57.7%、「非常用持ち出し袋・リュックの用意」が51.5%でした(複数回答あり)。
上記の地震対策はどれも大切なことですが、住まいで命を守るために最も大切な対策はどのようなことでしょうか?
「もっとも重要なのは、耐震性のある家に住むことです。せっかく防災対策を備えていたとしても、耐震性のない家が倒壊したら防災対策は何の役にも立ちません。耐震性がない家は、耐震性がある家と比べて揺れが格段に違います。賃貸アパートやマンションの場合、『震度6~7でも倒壊しないこと』という新耐震基準を満たしている建物を選ぶことです。1982年までに建築された建物は要注意です。賃貸契約の前に、必ず『この建物は新耐震基準を満たしていますか?』と聞いて耐震性のある建物を選んでください」(マンション防災士・釜石 徹さん、以下同)
家の中で死傷しないためにまずすべきことは?
次に、家の中ではどのような対策を行うべきなのでしょうか?
「まず、各部屋の家具や家電の転倒・落下防止を行ってください。冷蔵庫や本棚などが頭や胸の上に倒れてくると、頭部打撲や胸部圧迫により重症を負う可能性があるからです。阪神淡路大震災のときには、大型タンス、食器棚、冷蔵庫や書棚の転倒、大型ブラウン管テレビ、パソコン本体やモニター、電子レンジ等の落下、ピアノの暴走衝突もありました。普段の生活の中で、リビングなど長い時間いる場所と寝ている場所に転倒・落下するような家具や家電があれば、そこが危険な場所になります」
また、大型家電や家具の転倒は、震度で決まるものでないと釜石さんは続けます。
「震度4でも10階以上の高層階では家具や家電は転倒・落下します。また、地震の揺れ方や床や台の滑り具合でも変わります。したがって、震度6強くらいの震度でも転倒落下しないように固定しておくことが必要になります。家電の転倒・落下防止以外にも、食器棚などガラスを使った家具へのガラス飛散防止フィルム貼付、冷蔵庫など開き扉への耐震ラッチの設置、ガラス照明などの非ガラス化などの対策が重要です」
首都直下地震では家具が跳ね上がる!?
首都直下地震は、緊急地震速報が鳴ったと同時か鳴る前に、突然大きな揺れが襲ってきます。
「首都直下地震の揺れはとても激しいもので、自分の身を守ることで精一杯となるでしょう。そして停電、断水、ガス停止などがいっせいに起こると思われます。揺れがおさまれば家の中はグチャグチャとなり、足の踏み場もない状態になっているでしょう。さらに首都直下のような巨大地震では、テレビや家庭用プリンタ、電子レンジなどが飛び跳ねて、頭に当たれば大けがをします。あるいは体が吹っ飛ばされるかもしれません。一歩も動けずにしゃがみ込むしかできない状態かもしれません。
このため、賃貸物件であっても、家電の転倒・落下防止を中心とした、家の中の地震対策が重要なのです。近頃は賃貸物件でも壁や床、天井を傷つけずに対策できるグッズが充実していますので、そういったものを使いながら、対策していきましょう」
プロが伝授!具体的な家具の転倒・落下防止対策
ここからは、神奈川県内の7階建賃貸マンションの2階に家族4人で暮らす岡本さんのお宅のキッチン、リビング&ダイニングを例に挙げ、すべき地震対策について、マンション防災士・釜石さんにポイントを解説いただきながら、必要な家具の転倒・落下防止グッズを紹介します。グッズはいずれも、部屋を傷めずに使えるものです。
●キッチン
旦那さんが転勤族ということもあり、自宅の地震対策はほとんどしていないと話す岡本さん。まずはキッチンをチェック。釜石さんが最初に目をつけたのが、ガスコンロの背後にある冷蔵庫です。
「大きな地震では冷蔵庫の扉が開き、バランスが悪くなって冷蔵庫本体が倒れてきます。冷蔵庫が倒れると大けがする心配があるだけでなく、食品が飛び出たり、配置によっては通路を塞いだりと、地震後の被災生活にも支障をきたします。そのため、冷蔵庫の転倒防止と冷蔵庫の扉に自動ロックを取り付ける必要があります」
【冷蔵庫の転倒防止対策 1】
家具や天井を傷つけずに設置できる伸縮棒
アイリスオーヤマ「家具転倒防止伸縮棒2本セット(3S~L)」
参考価格1408円~1865円(税込)
「冷蔵庫をはじめ、本棚や食器棚、タンスなど背の高い家具と天井とをガッチリ固定し、転倒を防止します。工具を使わずに簡単に取り付けできますし、天井にも傷がつきにくいので、賃貸でも安心して使えます。使用にあたっては、天井までの距離が100㎝未満であることが条件です。ただし突っ張り棒が長くなれば強度が弱まるため、天井までの距離は、60cm以下であることが望ましいですね」
【冷蔵庫の転倒防止対策 2】
最大300kgに対応!大型家電や大型家具の転倒&滑り防止に
アイディールブレーン「ガムロックNew BB」
実売価格:6050円(税込)
「強粘着ゲル剤が変形し、家電や家具、壁への衝撃を1/4に低減し、転倒を防止します。家具や家電の種類によって選べるガムロックシリーズの中でも、こちらのNew BBは、シリーズ最大の300kg対応で、冷蔵庫のような大型家電に最適です。前述の通り、天井の材質で、冷蔵庫の転倒防止に突っ張り棒が使えないご家庭へもオススメしています」
【冷蔵庫の扉開放防止対策】
地震を感知して自動で扉をロックする耐震ラッチ
リンテック21「ロックヤモリ」
実売価格:1650円(税込)
「大きな揺れで冷蔵庫の扉が開くと、中の食品が一斉に飛び出すのは前述の通りです。それを防ぐために扉開放防止策が必要です。こちらは、震度5以上の地震を感知すると、自動的に扉をロックする耐震ラッチです。強力接着パッドによる設置で、冷蔵庫を傷つける心配なく簡単に取り付けることができます。電源は不要なので、電池切れや停電の心配がいらないのもポイントです。もちろん、通常の開閉で作動することはなく、普段は何の支障もなく使用できます」
次に釜石さんが指摘したのが、シンクの背後にある、食器棚の上に置かれた電子レンジです。
重量もあるので、岡本さんも気になっていたのだとか。「洗い物をしているときに大きく揺れたら、電子レンジが飛び跳ねて頭や体に当たれば、大けがをする危険性があります。ネジを使わない転倒&滑り防止器具による固定が必要です」
【電子レンジの転倒防止対策】
強力接着パッドで簡単に設置!
リンテック21「リンクストッパーT型(4本入り)<LS-484>」
実売価格3080円(税込)
「電子レンジなど家電製品の側面に強力固定し、地震による転倒と落下を防止します。電子レンジのように、底面に隙間がある家電に向いています。電子レンジを置いたキッチンボードや食器棚を固定していても、そこに置いた電子レンジは固定していないというご家庭が見受けられます。必ず両方を固定してください」
電子レンジが置かれた食器棚は、ガラス戸になっています。
「大きな揺れでは、食器棚の中の食器が、食器棚が倒れる前に前面のガラスを破ってガラスと食器の破片が飛散してケガをする可能性があります。ですから、まずは食器棚が倒れないように、壁に固定しましょう。また、食器棚自体は倒れなかったとしても、中の食器が飛び出してケガをする可能性があるので、ガラス面にはガラス飛散防止フィルムを貼ることが大切です」
【食器棚の転倒防止対策】
壁も対象物も傷つけずに転倒を防止!
サンワサプライ「耐震ストッパー(2個入り)<QL-78>」
標準価格3278円
「特殊素材ポリウレタンフォームが振動を吸収し、キャビネットなどの転倒を防止する耐震ストッパーです。ネジなどを使いませんから対象物も壁を傷つけずに転倒
&滑りを防止する設計なので、賃貸にお住まいの方でも安心して使えます。繰り返し使える特殊粘着素材という点もポイントです」
【こちらもおすすめ!】
食器棚専用のガラス飛散防止シート
ニトムズ「食器棚用ガラス飛散防止シート<M6130>」
実売価格638円(税込)
UVをカットしながら地震や台風によるガラスの飛散を防止する、ニトムズのガラス飛散防止シート。5種類のバリエーションがあるうちの、こちらはキャビネットや食器棚のガラス面の幅に合わせやすいサイズの食器棚用です。キレイに貼れる専用ヘラ付きで、初心者でも気泡が入りにくく、キレイに貼れると定評があります。
ほかにも、キッチンで釜石さんが気になった場所があります。
「シンク上、観音扉の作りつけ棚の観音扉ですね。揺れると扉が開いて中のものが飛び出します。特に炊飯器が危険です。最も有効な対策は、耐震ラッチを取り付けて、揺れたらロックがかかり、開かないようにすることです。加えて、使わない炊飯器は処分するか別の場所に移動することをおすすめします」
続いて、リビング&ダイニングをチェックしてみましょう。