戦後、バスクリンは銭湯向けから家庭用にシフト!
ーー芳香浴剤バスクリンは、具体的にどんな成分に変えたのでしょうか。
後藤 当時のバスクリンは主に硫酸ナトリウムと重曹などを有効成分として使用していました。このうち、重曹は石鹸と同じように皮膚の汚れを乳化し、清浄効果があるため採用されたのだと思います。
しばらく銭湯向けに販売されていたバスクリンですが、戦時中はあらゆる業種と同様に販売ができなくなりました。戦後1950年に販売を再開するんですけれど、このときもまだ銭湯向けだったようです。
後藤 しかし、バスクリンを使っている銭湯は、「バスクリン使用」を売りにすることが多かった一方、コストを節約するため、なかなかお風呂のお湯を変えないで営業するところもあったようです。このことに対し「衛生上、問題がある」と保健所からの指摘を受けた時期がありました。
これを契機に津村順天堂では、「銭湯向けよりも、一般家庭向けにシフトしたほうが良いのではないか」と考え始めます。同時期、日本は戦後の復興、経済成長を遂げていた時期で、生活水準も上がり家庭に内風呂が備えつけられるのが一般的になり始めました。日本人の多くの家庭にお風呂が備え始められたその時代にも合致し、バスクリンは一般家庭に広まっていきました。
本物に近いジャスミンの香りに、怒る人が続出!?
ーー以降、香りも様々なものを販売されたようですね。
後藤 初代バスクリンは大ヒットしましたが、「さらに多くの方に喜んでもらえる商品を」ということで、その後、無数の香りの研究を重ねていたようです。特に1960年発売の「バスクリン ジャスミン」という商品は、バスクリンの象徴的な香りになりました。
後藤 このバスクリン ジャスミンは1960年の最初の発売から、24年後の1984年のリニューアルまでいっさい香りを変えないまま販売されました。この間、調香師の技術も向上し、より本物のジャスミンの香りに近づけるよう、リニューアルしたのが1984年のバスクリン ジャスミンだったのですが、ここで問題が起こったそうです。
せっかくより本物に近づけたジャスミンの香りだったのですが、お客さまが1960年発売からの香りに慣れ親しんでいるため「これはジャスミンじゃない!」「ジャスミンの香りがしないじゃないか」と、多くの声をいただいたそうです。つまり、ありがたいお話なのですが、1960年のバスクリン ジャスミンの香りはそれだけ多くの方々に親しまれた商品だったということでもありました。結局その後、元の香りに近づけたバスクリン ジャスミンを再販売するなんていうこともありました。
様々なラインナップのバスクリン
ーーまた、以降は香りだけでなく、様々なタイプの派生商品も多く生まれていきました。現在のバスクリンのラインナップだけを見ても、「薬湯」、「クール」、「フレグランススタイル」、「大人のバスクリン」、「ピュアスキン」などありますね。
後藤 そうですね。バスクリンの当初のコンセプトは「日本の家族を温めたい」というもので、言い換えれば「家族みんなで使ってもらう」ことを考えていました。そこから派生し、今では多様性に対応して女性が好む香りや、大人が贅沢感を感じられるもの、生薬有効成分が配合されたものなど、様々なラインナップを用意しています。
ーーさらに(株)バスクリンでは、「きき湯」「日本の名湯」といった入浴ブランドを発表しています。
後藤 これらは津村順天堂時代からの知見を生かし開発されています。