思わず手に取りたくなるような温もり。軽やかさと重厚感を併せ持つ鈍い輝き。そんな、いままでにない質感をまとった雑貨のシリーズが注目を集めています。そのシリーズは、瓦を使った雑貨の新ブランド「icci KAWARA PRODUCTS(イッチ カワラ プロダクツ ※以降icci)」によるもの。山梨県笛吹市の一ノ瀬瓦工業の社長、一ノ瀬靖博氏が、カリスマ的な人気を誇るメディアクリエイター、hirock(ハイロック)氏をアートディレクターに起用して立ち上げたブランドです。
第1弾の商品は、コースターやトレイ、ボウルなどの日用品から、サイコロやバナナ、りんご、ドルマークといったデザイン性の高いオブジェなど全16種類。当初はオンラインのみでの販売でしたが、7月には早くもSHIPS原宿店で販売が開始され、高感度なモノ好きの熱い注目を集めています。
そんな話題の「icci」ですが、疑問が一つ。メディアクリエイター、ハイロック氏は、瓦とまったく関係がなさそうですが、どうして瓦の雑貨をプロデュースを手掛けることになったのでしょうか? そして、具体的には何をどうプロデュースしたのでしょうか? その点も大いに気になるところです。そこでGetNavi web編集部ではハイロック氏と一ノ瀬瓦工業の社長、一ノ瀬靖博にインタビューを敢行。ハイロック氏がicciでどのような役割を果たしてきたのか、ブランド誕生秘話とともに、たっぷりとうかがってきました。
【この人にインタビュー!】
hirock(ハイロック)
裏原宿系のカリスマブランドとして一世を風靡した「A BATHING APE」のグラフィックデザインを担当。2011年に独立し、表現の場を選ばないメディアクリエイターとしてのキャリアをスタート。ファッション誌「GRIND」での連載をはじめメディア各方面にてグッドデザインアイテム、最新のガジェットを紹介。著書に「I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由」。
一ノ瀬靖博(いちのせ・やすひろ)
幼い頃よりアートの世界に興味を抱く。22歳で一ノ瀬瓦工業に入社。瓦葺士として技術を磨きながら、音楽・絵画などの活動を行う。2007年にイタリア・2008年にオーストラリアに短期留学。日本の文化である瓦を世界に広めるべく2015年にイエール大学の「Japanese Tea Gate Project」に参加。現在は、100年続く瓦カンパニーの代表として瓦の可能性を探求し続けている。
知り合いの頼みでも話が面白くなければ断っていた
――まずは、お二人が出会ったきっかけについて教えてください。
一ノ瀬 元々妻とハイロックさんが昔、同じ職場で働いてた関係で、以前から面識がありまして。今回こういうプロジェクトをやりたいということで、ハイロックさんにお願いを。
ハイロック アートディレクションができる人間はいないかということで、僕のほうに話が来たというのが1年前ですね。
――そのお話が来た時はどのように思いました?
ハイロック 正直言うと、瓦のことってわからないじゃないですか。屋根の上にある、グレーぽい、黒っぽい塊でしょ? くらいしか頭になかったんですよ。ただ、瓦どうこうという前に、プロダクト作りには興味が湧きましたね。
――そんなに知識がなかったからこそ、やる気が出たということですか?
ハイロック それもあるし、僕はあまり原料にこだわりはないんですよ。何か新しいことを生み出すのが面白いのであって。だから、瓦ならOK、瓦だからダメていうところからはスタートしてないですね。
――では、人とのつながりで引き受けたと?
ハイロック いや、それも関係ないですね。話が面白くなかったら、知り合いでも断っていたので。ただ瓦のことをいろいろ勉強させてもらって、これは確実に面白いなというので、OKの返事をしました。
松の葉の煙が作ったシルバーの美しさに惹かれた
――瓦のどこに惹かれたのでしょうか?
ハイロック やっぱり色。シルバーなんですよね。瓦って、黒かグレーの塊だと思ってたんですけど、あれ実はシルバーなんですよ。炭化させることであの色を出すんだよね?
一ノ瀬 そうです。昔は「だるま窯」って言って、土と廃材の瓦を層にして、厚い壁を作って、丸い窯を作るんですよね。そこで、中に焼く前のものを入れてガンガン火をたくじゃないですか。最高温度に達してから松の葉っぱを投入して密閉するんです。そうすると空気が逃げずに煙だけが充満する。その煙が瓦に吸着し、炭化して表面に銀色の皮膜を作るんです。煙でいぶすことで出す銀の輝き、これがいわゆる「いぶし銀」ですね。
――その製法はいつから?
一ノ瀬 1400年前、大陸から伝わったと言われています。昔はもうちょっと黒っぽかったと言われているんですけど。
ハイロック 他の焼き物では、この色はまず出ない。塗料でも出せないし、いわゆる焼き物の上薬、釉薬でも出せない。塗って出した色ではなく、素材から引き出す色がシンプルでわかりやすいというか。そんな瓦独特の美しさに惹かれたんです。
――伝統的な色が、ハイロックさんにとって新しかったということでしょうか?
ハイロック そうですね。あと、基本的にシルバーのプロダクトが好きなんですよ。ニュートラルなポジションにいて、特有のイメージを持たない。それがシルバーの魅力ですね。
――いままでいろいろなプロダクトに関わってきたと思いますが、過去の例との一番の違いはなんですか?
ハイロック 製法がシンプル、端的ということですね。掘ってきた土と水を混ぜて、火で焼いて出来上がるという。もっとも原始的だからこそ、想像力をかき立てられますよね。
簡易的な住宅が増え瓦が使われなくなった
――次に一ノ瀬さんにうかがいます。現在の瓦の市場について教えてください。
一ノ瀬 市場はだいぶ落ちこんでいますね。震災があって、瓦が「屋根材として重いんじゃないか」という誤解を招いたりして、少しずつユーザーが離れていった面もあります。あと、都心の方では住宅が密集した地域だと簡易的な家で済ませてしまい、瓦を使わなくなったというのもありますね。特に都会の人たちは瓦を見たことがない人も多いはずなので、そういう人たちに瓦を知ってもらいたいというテーマでやっています。
――一ノ瀬さん自身は、瓦に対する特別な思いはあったんですか?
一ノ瀬 家は元々、瓦を生業にして今年で100年になるんですけど、100年の歴史の中で、窯元だった歴史のほうが長いんですね。やっぱり土という0の状態から瓦という1の状態にしてきた歴史があるので、瓦そのものを世に届けたいという気持ちが強いんです。
――今回、エクステリア(外装)ではなく、インテリアにした点について、どのような思いがありますか?
一ノ瀬 単純に「いぶし銀」という日本の銀色を知ってもらいたい。和の空間だけでなく、若い方たちが暮らしているところにも、すっと馴染む色なんだなというのを認識してもらいたくて。
ハイロック いままで屋根の上にしかなかったいぶし銀を、見えるところに置いてやろうという意図ですね。極端に言うと、形はなんでも良かったんです。
日本家屋に合うのは当然なので洋風の住宅に合うことを伝えたい
――造形はどちらがご担当されたのですか?
ハイロック 二人で分担してやってますね。それぞれ得意、不得意あったりとか作りたいものが違ったりとか。
一ノ瀬 オブジェはハイロックさんのデザイン。日用品は主に私がデザインして、ハイロックさんとブラッシュアップしました。
――個々のデザインには、どんな意図があるんでしょうか。
ハイロック 単純にアイコンとして可愛いもの。自分が好きで、手元に置いておきたくなるものを考えていきました。色々なアートに取り入れていて、自分のモチーフにもなっているバナナは入れようとか。
――日本の家屋に溶け込むように工夫されたことはありますか?
一ノ瀬 特にしていないですね。元々、この銀色が京都や小京都と呼ばれる和の街並みの景観を守ってきているので。特にこちらが提案しなくても、絶対に馴染むはずだと。
ハイロック そう。色が馴染むのはわかっていました。むしろ、アメリカのビンテージ家具にも合うとか、洋風の住まいにも馴染むということをどう伝えるか。そのプロセスが重要だと思いますね。
世界に目を向けても「いぶし銀」には大きな優位性がある
――では、世界に目を向けてみると、これらの製品はどのような優位性があると思いますか?
一ノ瀬 瓦自体は世界中にあるものですが、やはりこの銀色ですね。この色がなぜ日本で生まれたかは分からないんですが、このしっとり感が日本人の気質に合うというか。だって日本の瓦が、イタリアみたいなオレンジ色だったらちょっと違うなと思いますよね?
ハイロック 確かに。
一ノ瀬 前に出すぎず、奥に入りすぎず、銀色に収まったというのは、日本人ならではですよね。「いぶし銀」(見た目の華やかさはないが実力や魅力があるもの、という意味)とはよく言ったものです。それこそ、日本にしかない「ジャパニーズシルバー」ですね。実際、アメリカなどの海外でも需要があるんですよ。日本建築が好きな建築家が、向こうにたくさんいて、そういう人に呼ばれて施工したことがあります。
――海外では、人気になりつつあるということでしょうか?
ハイロック いや、一般的な人気というより、マニアックな目線だろうね。
一ノ瀬 そうですね。例えば、僕が実際にやったのは、アメリカにあるイエール大学の中の、美術館の敷地内に日本建築を立てるというプロジェクトで。敷地内に東屋のようなものを建て、その屋根に日本瓦を乗せるという。
ハイロック わかっている建築家の遊びだよね。でも、レンガづくりのキャンパスの中にそういうのがあると、やっぱりかっこいいよね。
一ノ瀬 確かに。その建物の周囲には石積みの寮があるんですけど、それをバックにすると、銀色の屋根がものすごく映えるんですよ。不思議な空間でしたね。
面白いことをやっていると周りには自然に輪ができる
――このような新しい試みをすることで、瓦の業界に一石を投じるというような意図はなかったんですか?
一ノ瀬 ちょっと違いますね。業界に対して正面を向いてない感じですかね。業界が盛り上がるかどうかは、屋根の需要とか瓦の需要が増えないと盛り上がらないので。それよりは、瓦を全く知らない方に対して向かっている状況ですね。
――瓦業界の方たちから反発を受けることはないんですか?
ハイロック 淡路の窯元に二人でよく足を運んでるんですけど、瓦業界の人は協力的ですよね。面白がって手伝ってくれて、アドバイスもしてくれますし。
一ノ瀬 その方たちは、瓦の可能性を追求しようとしている人たちだから、というのもありますね。そういう面白いことやっている人たちの周りには、自然に輪ができるんです。一人と知り合うと、その友達も面白いことやってたりとか。一部には僕たちがやってることを「なんだそれ」って思う人もいたかもしれないけど、だんだんと理解して協力してくれるようになっていくのが面白いですね。
――瓦を使ったアートを作ることで、瓦自体のイメージが良くなる効果もあるのでは?
ハイロック それはあると思いますね。こういうことをやっているのは僕らだけじゃないけど、国内でここまでブランディングとディレクションをやっている例はないんじゃないでしょうか。
ハイロックさんの人脈で異業種へアピールできるのも大きい
――ブランディングとディレクションという点について、もう少し詳しくお願いします。
ハイロック 時間と能力を投入した、ということですね。
一ノ瀬 ウチは、ハイロックさんにアートディレクションで入ってもらったうえで、デザイナー、スタイリストなど、プロの方をスタッフとしてつけました。田舎の一企業としてやるのではなく、色々な業界と提携して瓦をがっちりアピールし、ブランディングしています。
――多くの異業種の人も加わっているということですか?
一ノ瀬 そうですね。単にスタッフとして加わってもらうだけでなく、その方々が属する業界にアピールするという意味も大きいです。こうした人と人をつなぐという部分で、ハイロックさんには大きな力になってもらってますね。
――ハイロックさんの人脈が大きいということですか?
一ノ瀬 大きいです。ハイロックさんの力を借り、瓦をファッションとして、クールなものとして、しっかり見せようと動いた結果だと思いますね。
――最初からここまで大きい話にしようと思っていたんですか?
一ノ瀬 はい。だからこそハイロックさんにお願いしました。ハイロックさんじゃないとできないと思って。なんといっても、ファッションのムーブメントを起こした最前線の方ですからね。いまはモノのプロで、最先端のモノから日本の古き良きモノまで把握している。だから、瓦しか知らない僕たちは、いま何が流行っていて、何に注目すべきかを知っているプロに審査して欲しかったんです。
ブランドネームは10秒で決まりロゴは次の日に決まった
――一ノ瀬さんが、ハイロックさんの能力に度肝を抜かれたことはありますか?
一ノ瀬 たくさんありますが……最初は僕も、このブランドとハイロックさんがマッチするのか、不安に思う面もあったんです。でも、実際に話を振ってみると、ことごとく求めたものと合致したんですね。icciというブランド名も、ロゴ自体もハイロックさんがすぐに考えついて。そこからすでに自分では出てこない発想でしたね。特に立ち上げの際は、突き刺さるようなアイデアを見せてもらって、「この人しかいない」と思いました。その立ち上げの時点でicciの方向性は決まりましたよね。
ハイロック そう。1日半くらいで7割くらいの方向性は決まったね。ブランドネームは10秒で決まって、ロゴは次の日に作ったから。
――ハイロックさんのお仕事は、いつもそのような感じなんですか?
ハイロック デザインするときって、最初のインスピレーションでほぼ決まるんです。クライアントに合わせて100個くらいパターンを用意するので、1か月くらいの期間はもらいますけど、結局最初に浮かんだものが一番いいんですよね。だから、そのあとの作業はただのあとづけです。
――ちなみにローンチ後の反響はいかがですか?
一ノ瀬 業界の人たちが反応してくれているので、完璧な立ち上がりだったと思いますね。瓦自体まだ持ったことも見たこともない人がいると思うので、その人たちに少しでも瓦の良さが伝われば。そして露出が増えて、たくさんの人にicciの良さを知ってもらい、実際に使ってもらえればうれしいですね。
いいモノに時代やカテゴリは関係ない
――では、製品についておうかがいします。コースターは面白いですよね。飲食店で外国人に出したら受けるのでは?
ハイロック あと、今回ビジュアルを担当したcafenomaさんが提案してくれたように、全く違う使い方をするのもいいよね。コースターじゃなくてパンの小皿に使うとか。
一ノ瀬 ペン立てをコーヒーフィルター立てに使うアイデアも、みんながオシャレって言ってくれましたよ。
――使い方は自由でいいわけですね。こちらの容器は?
一ノ瀬 キャニスターみたいな感じですね。砂糖でもアクセサリーを入れてもいいし。
――重みもいいですね。あ、このフタにあるのが例の1日で決まったというロゴですね。富士山に雲がかかっている図でしょうか?
ハイロック これはicciの拠点、山梨のシンボルである富士山に太陽が昇って、その中に一ノ瀬の「一」が入っているんですよ。そのモチーフは一ノ瀬くんの名刺に入ってた昔の屋号なんです。これを僕が気に入って。聞いたら、漢字の「一」の字が、瓦をいぶす松の葉を模した枠の中央に描かれているという重要な意味がある。最初はこのままでもいいんじゃない? って思ったほど。そのニュアンスを継承したいと思って、漢字の「一」を貰ったんです。そしてその「一」を英語風に読んで、イッチ(icci)と名づけました。
――ハイロックさんは、古いものもかなりリスペクトしてるんですね。
ハイロック 元々民芸品も好きですし。最新のモノ好きってイメージなんですけど、実はこういうものも興味がありますね。あんまり時代とかジャンルは関係なくて、「いいものはいい」という感じですね。いまは、いいものは何でも取り込んで、生活に落とし込むほうがカッコイイっていうか。だから、「古いからカッコイイ」っていうのもナンセンス。
――ちなみに、icciのターゲット層はどこなんですか?
一ノ瀬 若い女性でしょうか。
ハイロック あれ、僕は若い女性はまったく想像してなかった。男女問わず、30~40代のモノがわかる人かなと思ってたんだけど。社長は真逆ですかね。カットしてもらいます(笑)?
一ノ瀬 大丈夫です(笑)。30~40代はもちろん、汎用性があっていろいろな空間に馴染むから、若い女性に認知してもらうのも意味があると思います。
ゴールは決めずに「成り行きまかせ」がいい
――しかし、お二人でターゲット層を想定していなかったのが驚きですね。
ハイロック 意外と何も相談しないですね。
一ノ瀬 そうですね。それでも意見はぶつけていきますよ。
ハイロック だけど、お互い共有するゴールを作って、そこに向かっていくことはしないですね。成り行きまかせというか、「結果的にこうなった」はあるかもしれないけど、二人で「こうしよう」と固めていったものはないよね。だからターゲット層も決めなかった。全部結果的にうまくいってますしね。そっちのほうが自然なものができますよ。シリーズでムリに統一感を持たせるとかはしてないですし。
一ノ瀬 製品もひとつずつキャラが全然違うんですけど、色のいぶし銀で統一感がありますから。そういう意味では、先を決めずに、少し幅を広げるている感じですね。
ハイロック もっと言えば、予想がつかないですね。瓦で作るのがいままで前例がないので。
「うまいパンを焼く」ために自分の武器は抑える
――最後に、今後の展開について教えてください。
一ノ瀬 数年のスパンで、海外を1つのターゲットとして見ていきたいですね。ファッション業界の方と商談していきながら、日本の若い方のほか、海外の方にアピールしたい。この日本ならではの「いぶし銀」、いわば「ジャパニーズシルバー」を認知してもらえるように押していきたいと思っています。
――ハイロックさんはいかがでしょうか?
ハイロック 僕の中でicciが目指すのは「うまいパンを焼けばお客が来る」、つまり、いいモノを作るっていうところだと思う。例えば、雑誌とかSNSに載せるのは外的要因でしかないんですよ。やっぱり本質はうまいパンを焼き続けることなんで、それが出来なきゃダメ。そのためにも、なるべく僕の武器を出さないほうがいいと思ってる。
――武器を出さないとは、どういうことでしょうか?
ハイロック 自分がメディアさんと話をして、大々的にアピールする手もある。でも、それはモノ自体が見られなくなる危険があるので。やはり、モノが前面に出て売れた方がいい。そこは基礎としてきちんと持ったうえで、それを壊さないように武器を出せていければいいなぁと。
――ハイロックさんの名前が先行すると、商品の良さを壊してしまう恐れがあると?
ハイロック そうですね。ポイントがずれて違うところで流行ってしまうおそれがある。
一ノ瀬 瓦のちゃんとした意味が伝わらないんじゃないか、ということですね。
シーズンごとの違いを楽しんでほしい
ハイロック あと、僕はすごく海外ドラマが好きなんです。海外ドラマって1シーズンごとに完結して、面白いドラマを巻き起こしていくじゃないですか。その要領で、シーズンごとに面白いテーマを投げ込んでいけたら。各シーズンで楽しめるドラマティックなブランドにしたいんです。
――1年ごとに刷新していく形ですか?
ハイロック そうですね。「シーズン2はどうなるんだろう?」と、楽しみにしてもらえるような仕掛けをしたいですね。その場合、「シーズン2つまんなかったな」という声があってもいいと思うんです。万人に受けるとは限らないですからね。
一ノ瀬 逆にいえば、シーズン2にどっぷりハマるファンの方もいるでしょうし。
ハイロック 出てくるだろうね。シーズンごとにファンがついてくれたらいいと思う。
一ノ瀬 みなさんには、その違いを楽しんでほしいですね。
ハイロック あとは、こちらがおいしいパンを焼き続けること。それしかないです。
当初、「クリエイター」というと、「何をやっているかわからない人」という印象があったのですが、インタビューを終えてそのイメージが随分と変わりました。面白そうな素材を見つけ、人を巻き込んで的確なブランドイメージを作っていく。そんな才気を見せる一方で、何よりも製品の質を重視し、自分が前面に出るべきではないと理解している。こうした優れたバランス感覚を持っているからこそ、モノ作りの一線に居続けられるのだと感じました。
そんな作り手が手塩にかけたモノとして、改めてicciの製品を見てみると、やはり圧倒的な存在感があります。造形がシンプルなぶん、質感が際立っていて、「いいモノはいい」と製品そのものが語っているかのようでした。最先端のクリエイターが、日本古来の「いぶし銀」に新たな形を与えた本品。日本の伝統産業が進むべきひとつの道を示した例であり、品質の面でも、個人的には世界に誇れる出来だと思いました。少しでも多くの人の目に触れてほしい、心からそう思える製品です。