※：本記事はネタバレはありませんが、作品内容に一部触れています
大ヒット中の映画「君の名は。」、ご覧になっただろうか？
新海 誠監督作品ほど賛否両論きっぱり別れる映画も珍しいと思うが、今作は私、朝8時に寝ぼけ眼で観たにもかかわらず嗚咽を漏らすほど号泣してしまった。過去の作品をどうも否定的にしか捉えられなかった分（こんな苦しい恋愛したくない、女々しくなりたくない、のオンパレードだから）、鑑賞後の「こういうのが観たかったんだよ！」という喜びは大きかった。
昨今のエンタメ業界を牽引する豪華スタッフ陣が魔法をかけたように、陰鬱として自己陶酔型だった新海ワールドが、核をキラキラっと残したまま一気に大衆ポップ作品に昇華されている。
なかでも特筆したいのは、4つの主題歌を含み、全編RADWIMPSが手がけた音楽だ。新海監督からオファーを受けたバンドが、プロット段階から1年以上かけ生みだしたサウンドトラック（同タイトルで発売中）。映画への寄り添いが素晴らしく、そこには妥協のないやりとりが伺える。ヴォーカルの野田洋次郎はこう振り返る。
《「恋」をこんなに真っ正面に表現したこと自体、本当に珍しいこと。今回も最初はどこか無意識な逃げがあって、新海監督はその部分を見逃さなかった。「とにかくこの物語が貫こうとしているど真ん中を全力で歌って欲しい」と。だからこそ、踏み込めた。》
（映画公式HPアーティストコメントより）
RADとBUMPが表現する世界の違いとは？
さて、RADWIMPSを語る時、引き合いに出されることが多いバンドがBUMP OF CHICKENだ。今回もヴォーカルの声が似ているだとか、2バンドの違いは？ といった声が散見される。（個人的には新海作品にはback numberも似合うと思うが、挙げられるのは世代もスケールも似たRADとBUMPだ）。
なぜ今作を彩るのがRADだったのか。なぜこのコラボレーションは成功したのかそれは新海作品もRADも、丁寧に純粋に「君」と「僕」の関係について描き続けているという共通項があるからだ。新海監督の作品は、「セカイ系」として語られることが多かった。「セカイ系」とは評論家の東 浩紀氏によると
「主人公（ぼく）とヒロイン（きみ）を中心とした小さな関係性（「きみとぼく」）の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」
東 浩紀氏は代表作として新海 誠のアニメ「ほしのこえ」、高橋しんのマンガ「最終兵器彼女」、秋山瑞人の小説「イリヤの空、UFOの夏」の3作を挙げている。このセカイ系の構図は、RADにも通ずるところがある。ヴォーカル野田洋次郎の日記を中心に編集された著書「ラリルレ論」での、恋愛についての記述。
《好きだなぁと思う。好きで好きで、たまらないなぁと思う。とっても愛しくて、他の人に伝えたくなる。でも独り占めしたくなる。相反するようで、矛盾しない。幸せだなぁと思う》
こんなことを綴る彼は、「君」と「僕」が世界のすべてと言わんばかりの切迫したラブソングを紡ぐ。
《君と書いて「恋」と読んで 僕と書いて「愛」と読もう／そうすりゃ離れそうもないでしょう？》“ふたりごと”
一方BUMPは、老若男女問わずに向けた、いわば“みんなのロック”を歌っている。ある人にとってはラブソング、ある人にとっては応援歌として響く“みんなのうた”。昨年末、紅白で歌った詞はこうだ。
《楽しい方がずっといいよ ごまかして笑っていくよ 大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない》“ray”
BUMPももちろん、甘酸っぱい青少年の繊細さとよく似合う。でも結果的に見て、今回野田のあとがきにあるよう《「恋」を真正面から表現する》ならば、よりRADのほうが新海監督とシンクロした。監督が描く女々しいほどの恋心、プリミティブに誰かに恋する気持ちに野田が共鳴したから、「君の名は。」は音楽観点でも大成功をおさめたのだ。
優れたサントラは、映画を私たちの日常に落とし込む力がある。孤独を抱えながら雑踏で聴いても、電車で聴いても、映画のメッセージ“きっとどこかで、たったひとりのあなたと会える”という希望がわいてくる。商業的数字云々ではなく、ストーリーが観客の日常で再び物語として動き出す瞬間。それこそが、映画にとっての成功だろう。
【CD情報】
RADWIMPS
君の名は。
(通常盤)2916円
レーベル: Universal Music
ASIN: B01GJXSQBG
EAN： 4988031167618