ラーメン好きミュージシャンが、一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム━━━
サニーデイ・サービス 田中 貴のラーメン狂走曲「柴崎亭[つつじヶ丘]」
今回はちょっと緊張感のある取材。こちらのお店、店主さんがちょいちょいSNSなどで評論家に食ってかかるため、その人気とは裏腹に評論家選出のランキングには一切登場しない。そんなちょいと厄介な店主が作る、センス溢れるラーメンとはいったい!?
田中 貴
1年がかりで制作しているサニーデイ・
流行りのスタイルとは無縁 独創性に溢れる人気のラーメン
人を感動させる味作り、音作り。それはセンスで決まる。もちろん技術や知識も必要だが、それをどう生かすかが肝なのだ。実際にプロのミュージシャンより早弾きができたり、音楽理論をしっかり学んでいたりする人は大勢いる。しかしプロは、それ以上に、聴く人、観る人を感動させられるツボを知っている。これがセンスというもの。練習や、勉強だけでは身につかない才能だ。
僕が思う、最もセンスのいいラーメンを作るのは、柴崎亭の店主である石郷岡三郎さん。まず、見たことのないくらい美しい麺の盛り付けに息を呑む。基本の中華そばは、2011年の開店時から昨年まで500円、現在は550円で提供。化学調味料を使わない、上品で深みのある味わいでこの価格はちょっと異常である。これをベースに、煮干そば、鶏しおそば、鴨中華そばなど多様なメニューが並び、そのどれもが専門店を凌ぐウマさ。なぜこんなことができるのか。三郎さんは、ラーメンの味づくりにおいて最も重要なものが何かを熟知しているからだ。
スープには、鰹を主体とした魚の節のみを使う。豚も鷄も煮干も使わないスープは、短時間で仕上がる。それに、たっぷりの素材から丁寧に作られた、ねぎ油、煮干油、鴨油などを足す。素材を炊くスープより、香味油で仕上げるほうが、味と香りがダイレクトに伝わる。時間とお金をかける部分、そうじゃなくてもいい部分。手作りにこだわりながら、麺、チャーシューなどすべてに、合理的で効果的な手法を大胆に取り入れる。まさに己のセンスを貫いた、自信がみなぎるラーメンなのである。
ウマい店を知っているのは評論家よりもお客さん
この柴崎亭、メディアにほとんど登場しない。三郎さんは物事をズケズケいう性格で、評論家に敵が多いからだという。あまりに興味があったので、ビビリながら取材をオファーしたが、いやいや想像以上に魅力的で最高に楽しいお方。天才はこうでないと。ジョン・レノンやジミヘンが、気さくでいい人なんかであるわけがないのだ。
柴崎亭は連日の大行列、地方にも系列店が増殖中。純粋にラーメンを評価しているのは、評論家よりもお客さんということである。
これも味わいたい!
この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!
フリッパーズ・ギター「カメラ・トーク」
テクニックよりもセンスが重要ということを教えてくれた、渋谷系を代表する大名盤。なんと三郎さんは、小山田くん、小沢くんと同窓生。当時の話もオモロ過ぎ!
【店舗情報】
柴崎亭
住所:東京都調布市西つつじヶ丘3-25-52
営業時間:[火〜金]11:00〜14:00、18:00〜24:00、[土・日・祝日]11:00〜16:00
定休日:月曜日