街中華業態が抱える悩みのひとつに、後継者不足がある。メニュー数が多く酒も提供、ズッシリとした中華鍋を振り続ける重労働、スープを炊き続けるため厨房は熱気ムンムン。それでいて薄利多売など理由はいくつもあり、継承はおろか若い担い手が新規オープンすることも稀だ。今回はその状況下で輝くレアケース。高円寺の「中華屋 櫂(かい)ちゃん」を紹介したい。
【街中華の名店】チャーハン+カツ+カレー。大衆美食のドリームチームは錦糸町の「生駒」にあり!
名店譲りの「木耳肉」は酒にも飯にも最良のパートナー
店主は本堂 亮さん。修業元は中野富士見町界隈にある「尚(なお)ちゃんラーメン」だ。ここは、ラーメンや街中華ファンの間ではちょっとした有名店。櫂ちゃん同様に、若い店主が営む荻窪の人気店「中華屋 啓ちゃん」は同朋であり、本堂さんは啓ちゃん店主の幸田 啓さんの半年ほど後輩にあたる。
そんな尚ちゃんの名物といえば「木耳肉」。きくらげと肉と卵を炒めた、ムースーローと呼ばれる料理だ。約10年もの間勤務し、体に染みつくほど作った本堂さん。当然にして味もボリュームも、しっかりと受け継がれている。
まずきくらげと玉ねぎを炒め、中華スープでサっと湯通しした豚バラ肉を投入。湯通しは、完成時における全体の食感をなじませるために大切な工程だ。そして卵を加えて味付けへ。オイスターソースやしょうゆをベースに、砂糖で甘みを、にんにくで力強いうまみを、豆板醤で辛味を効かせるのが尚ちゃんから受け継ぐ流儀だ。
ゆえに、味にパンチがあって食べ応えも抜群。特に一般的なムースーローと一線を画していると思えるのが卵の仕上がりだ。中華鍋は豪快に振りつつも、あえて卵が崩れないように炒めるため、まるでしっかりタイプのニラ玉のような厚さに。きくらげはコリっと、豚肉はムチっと。それぞれ強い主張があるものの、卵もブリっとした豊かな弾力があって負けていない。酒のつまみにも、ご飯のお供としても最良のパートナーになっている。