J-POPと言われる音楽。みなさんも一度は耳にしたことがあるだろうし、お気に入りの曲やアーティストもいるだろう。
僕はここ数年、最近の音楽をほとんど聞かなくなってしまった。その理由のひとつが、どれも同じような曲に聞こえることだ。
似たようなコード進行に、似たような歌詞。そんな曲ばかりに思えるので、聞くのは自分が一番音楽を聞いていた80年代、90年代の曲ばかりになってしまっている。
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ヒット曲の4つの法則とは
お笑い芸人であり、「10年目のプロポーズ」というヒット曲も生み出したマキタスポーツが書いた本『すべてのJ-POPはパクリである』(扶桑社・刊)は、自身が研究したJ-POPの方程式や、現代ポップス音楽論、そして現代の日本社会について記された書だ。
本書には、マキタスポーツが研究を重ね導き出したヒット曲の構造分析が掲載されている。ヒット曲の法則は4つあるとのこと。「コード進行」「歌詞」「楽曲構成」「オリジナリティー」だ。
この4つについて、ある法則に則って作っていけば、ヒット曲になるという。それぞれを見ていこう
コード進行については、ほとんどのヒット曲が「カノン進行」が用いられているとのこと。カノン進行とは、「ルート音が順に下がっていく大逆循環コード」のこと。たとえば、山師達郎の「クリスマス・イヴ」、徳永英明の「壊れかけのRadio」、サザンオールスターズの「真夏の果実」などなど、ヒット曲の多くにこのコード進行が使われている。
歌詞については、多用されているフレーズをマキタスポーツが掲げている。定型句としては「翼」「桜」「永遠」「歩き出そう」「大切な日々」などが挙げられている。確かに、最近の曲の歌詞に多く見受けられる。
楽曲構成は、いわゆる、Aメロ、Bメロ、サビといったもの。それぞれのパートを「部品」と考え、それらを組み合わせることで曲が作れるとのこと。これをマキタスポーツは「J-POPは工業製品ではないか」と評している。
最後のオリジナリティだ。これについてマキタスポーツはこう記している。
超個人的なことが意外に普遍性を獲得する
(『すべてのJ-POPはパクリである』より引用)
例として植村花菜の「トイレの神様」が挙げられているが、彼女とおばあちゃんの個人的な思い出を歌ったこの曲、トイレに神様がいたらホラーだが、思い入れたっぷりに歌うことでオリジナリティになっているという。
「自分だけにしか発せられない言葉」「身体性を伴って表現される」もの、「自分が抱えているコンプレックス」などがオリジナリティになり得るということだ。
僕が作った曲にはイカした単語が全然使われていなかった
10代から30代中盤までバンドをやっていた僕は、これらの理論を、今まで自分が作ってきた曲に当てはめてみた。
曲の構成は、まあ普通にJ-POPになっていたと思うし、コード進行も結構ちゃんとしていたと思うのだが(カノン進行も結構使っていた)、一番の問題は歌詞だったように思う。本書に載っているよく使われるフレーズを、僕はほとんど使ったことがないのだ。
僕が作った曲の歌詞に「翼」も「扉」も「桜」も「夢」も「キセキ」も「大切な日々」も使われたことはない。ああ、だから全然ライブハウスで人気出なかったんだなー……。
本書を読むと、音楽は工業製品のようであり、プログラミングのようでもあると感じた。完全文系脳の僕にとって、理系要素が強い音楽というジャンルは、難しかったのかもしれない。
もし、また曲を作ることがあるのなら、この本を参考に、超売れ線の曲を作ってみたいと思う。まあ、そんな機会あんまりないと思うのだが……。
【書籍紹介】
すべてのJ-POPはパクリである
著者:マキタスポーツ
発行:扶桑社
表題の「すべてのJ-POPはパクリである」というセンセーショナルな言葉が議論を呼んだ本書。ヒット曲によく使われている「カノン進行」という言葉も世に知らしめた。だが、本書で書かれていることの幅は単なる「パクリ批判」などの矮小なものでは決してなく、現代社会におけるものづくりの真髄にまで達する。ヒット曲の秘密を知るための音楽批評を超えた、現代社会批評の書。クリエーターのみならず、作品を楽しむ消費者目線でも楽しめる。
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