我々にとって身近な動物「鳥」。しかし、鳥類学者というのはそれほど多くないという。日本鳥学会の会員数は約1200人とのこと。身近な存在だけれども、研究対象として興味を持たれない理由が、比較的人畜無害な動物だから。まあ、確かにそうかもしれない。
そんな希少な鳥類学者の著書が『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(川上和人・著/新潮社・刊)である。なんとも刺激的なタイトルだが、著者の軽快な文章と豊富な雑学知識で、特に鳥類に興味がない人でもすらすら読めてしまう、非常におもしろい書籍だ。
もちろん、鳥に関する豆知識や、実際に鳥の研究のために小笠原諸島で奮闘をする様子、鳥の祖先についてや、現在絶滅が危惧されている鳥についてなど、興味深い内容が盛りだくさん。それらが、軽妙洒脱な文章(+幅広い雑学知識)で綴られている。
鳥以外の知識が豊富
鳥についての話ももちろん興味深いのだが、どうしてもそれ以外のところに注目してしまう。たとえば、前書きにあたる「はじめに」の部分で語れている以下のような文章。
一般に名前が知られている鳥類学者は、ジェームズ・ボンドぐらいであろう。英国秘密情報部勤務に同姓同名がいるが、彼の名は実在の鳥類学者から命名されたのだ。
(『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』より引用)
へえ、そうなんだ。なんで鳥類学者の名前を、007シリーズの主人公の名前にしたのだろう。そんな疑問も湧き上がるが、それについては本書に語られていないので、各自調べるように。
そのほかにも、アニメや映画、お菓子などなど、ちょっと気を抜くと鳥類とは関係ない話題が飛び込んでくるので、「俺はいったい何の本を読んでるんだろう」という気分にさせてくれるのもおもしろいところだ。
カラスが黒いのは隠密行動のためではない
いろいろ興味深いエピソードがあるのだが、鳥の羽の色についての解説が個人的にはおもしろかった。
鳥は主に視覚でコミュニケーションを取る動物。そのため、カラフルな種類が多い。頭が赤かったり、羽根が極彩色だったりするのは、同じ種類であることを認識するためであり、オスがメスへのアピールのために派手な色になるというのだ。
一方、地味な色の鳥も多い。代表的なのはカラス。黒一色だ。しかし、これにも理由がある。この黒はメラニン色素により形成されている。人間の髪の毛や肌の黒さなども、メラニン色素によるもの。
このメラニンは、黒くするだけではなく、羽毛を物理的に強化する働きを持っているとのこと。
身を隠すために植物の茂みに入れば、羽毛は枝葉に鞭打たれて擦り切れる。上空からは燦々と紫外線が降り注ぎ、DNAを傷つけようと虎視眈々とこちらを窺っている。
(『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』より引用)
そのような状態から、メラニンは身体を守ってくれる。黒い羽毛は白い羽毛に比べ擦り切れにくく、紫外線を吸収することで体内への悪影響を回避。そして体温の上昇を防止する。
ただ目立たないために黒であるのではなく、生きるのに有利なように進化した結果、カラスは黒になったということだ。
本書では、なぜかこの後パンのカビについての話が繰り広げられるが、それもまた趣深い。
文章書きが嫉妬するくらいおもしろい文章
著者は、特に鳥類に興味があったわけではないという。大学時代にたまたま野生生物を探索するサークルに入ったのがきっかけ。それも「風の谷のナウシカ」に感動したからという理由からだ。
大学3年生のときに入った鳥類の研究室で小笠原行きを命じられ、そのまま鳥類学の道へ。自分が選んだ道ではないにしても、その後何十年も鳥類研究を続けているというのだから、それも運命だったのかもしれない。
タイトルからも分かる通り、単なる鳥類研究の本ではない。ライターの僕が嫉妬するくらいおもしろい文章&内容なので、ぜひ読んでみていただきたい一冊だ。
【書籍紹介】
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
著者:川上和人
発行:新潮社
「ハチに刺された」「包丁で指を切った」などの小さなアクシデントから、「森でクマに遭遇した」「暴漢に襲われた」といったピンチ、「地震で瓦礫に生き埋め」「飛行機が墜落」といったウルトラ非常事態まで、人生のさまざまな極限シチュエーション別に“生き残るためにはどうすればよいか”というサバイバル・テクニックを解説。さらに具体的かつ役立つ応急処置法も紹介。
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