1か月とか2週間、極端に短いものではわずか4時間で“英語がわかる”あるいは“英会話をマスターできる”ことをうたう広告がある。英語学習は、いつからそんなに簡単になったのだろうか。
英語を学ぶ理由と動機
英語を学ぶ理由とか動機は人それぞれだし、目指す完成度のレベルも数えきれないだろう。英語学習にまつわる、こうしたきわめて基本的な部分について触れた本がある。著者がキャリアを積んだプロの通訳者なので、ちょっと読んでみたくなった。
フリーランスの通訳者が書いた英語学習本
『41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法』(川合亮平・著/アルク・刊)は、長いキャリアを誇る通訳者である著者の川合亮平さんが15年ぶりに本格的に英語を学び直す気持ちを固めた課程について綴られた次のような文章から始まる。
理由は一つではありませんし、平面的なものでもありませんから、なかなか一言では表現できないのですが、あえて簡単に言うと『危機感』になります。
『41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法』より引用
英語学習の再開を決意した理由のリアルさ、ストレートさは川合さん自身の「フリーランスとして思うように仕事が得られない、広がっていかない」という言葉で十分に伝わるだろう。そして川合さんは、現状を打破し、今の形勢を逆転させるためには広い意味で自分の実力を上げていくしかないという結論に至る。
ライフハック的な要素も
本書のコンセプトには、川合さんが『GOTCHA!』というウェブマガジンで持っている2つの連載「通訳者が選んだ学習法」、「通訳者が実践する学習法」の内容がそのまま活かされている。これらの連載の主旨は、川合さんが以下のような質問に率直に答えることだ。
・日本人として、外国語である英語の力を確実に向上させていく具体的ノウハウとは?
・知識ではなく実践で使える英語力をアップさせるために何をどのようにすればいいのか?
本書の第一の目的は英語の運用力向上法について語ることだが、それにライフハック的な要素もリンクされていく。
人のやり方のコピーでは失敗する
目を惹かれたのは、川合さんが挙げる“英語ができるようになった人”の共通点についての考察だ。
まず一つ言えることは、「やり方」ではないということです。やり方、言い換えれば「学習法」は、僕の経験上、人の数ほどバリエーションがありますので共通点はありません。
『41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法』より引用
方法論が結果的に“たまたま”誰かと同じになることはあるだろうが、誰かが効果を上げた方法論をコピーすることを最初から意識するのは、方向性として間違っている可能性が高いのだ。
暗記だけで英語は運用できない
本書の基本的な目的である英語の運用力を上げる方法の模索に関しては、次のような具体例を紹介しておきたい。
「頭に擦り込む」には、同じ語彙・表現に繰り返し、しかもできるだけ自然な形で「出合う」ことが必要不可欠です。その「出合い」の場面や回数をどう演出できるかが、うまく頭に擦り込めるかどうかの分かれ目になる、というのが僕の持論です。
『41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法』より引用
「暗記」は覚えてストックしておくだけの行いだが、「頭に擦り込む」というプロセスには覚えることから発生する能動的なアクションが必要になる。偏った形で単語の暗記に多くの時間を費やしてきた人たちにとっては、これだけでも有益なヒントとなるだろう。
ときめきを感じる教材を見つけよう
本書には「君は心躍る英語に触れているか!」というサブタイトルが付けられている。片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんがキーワードにしている “spark joy”(ときめき)は、英語の学習法と教材にも通用するようだ。
僕は、原因がすてきなら、それに呼応してすてきな結果がもたらされる、と信じています。ですので、英語力アップを図ろうとするとき(英語を学習するとき)、できれば心躍るような英語に触れることをおすすめしたいのです。
『41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法』より引用
“心躍るような英語”は人によってさまざま異なるだろう。ただ、これを見つけることだけに必死になってはいけない。川合さんが語るように、原因がすてきなら、それに呼応してすてきな結果がもたらされるにちがいないのだから。
【書籍紹介】
41歳の通訳者が15年ぶりに本気で取り組んだ英語学習法
著者:川合亮平
発行:アルク
満足するまで学習に終わりはない。いつからでも、続けるための方策がある。通訳・翻訳者で、ベネディクト・カンバーバッチさんやエディ・レッドメインさんなどの通訳や英語インタビューも行う著者が、15年ぶりに本格的な英語学習を再開。そこで得た成果と、それまでの20年以上にわたる経験で培った「英語力アップ」のノウハウを教えます。「英語」のみならず、大人の「学びと向上」に対する多くのヒントも得られる一冊です。