日本にやって来た外国の友達、とりわけアメリカ人やヨーロッパ人に「何を食べたい?」と聞くと、「日本料理!」という答えが返ってきます。では「何がいい? お寿司? 天ぷら? すき焼き?」と聞くと、「まずはカツカレー!!」「そう私も!!」「カツカレー! カツカレー!!」というのです。
どうやら、欧米では「日本風のカツカレー」が大人気の様なのです。けれども、カツカレーって日本料理でしたっけ? 疑問に思って、聞いてみると、彼らにとって、カツカレーはインド料理のいわゆるカレーとは別の料理だというのです。そういえば、ロンドンでは今、カツカレーが大人気ですが、日本料理のチェーン店がその発信の源だそうです。なるほどね。
カレーとひとくちに言ってもそこには様々な顔があるようです。そんなことを思いながら『インドカレー伝』(リジー・コリンガム・著/河出書房新社・刊)を読みました。そもそもカレーとは何か?よくわかっていない自分に気づいたからです。
イギリスとインド料理の関係は深い
著者リジー・コリンガムは、フリーの研究者であり著述家でもあります。イギリスの名門・ウォーリック大学で歴史を講じたあと、ケンブリッジ大学の研究員となります。
インドにおけるイギリスの組織について研究していた彼女ですが、インドでの調査を続けるうち、イギリスとインドの食べ物との関係にも魅力を感じるようになりました。そして、できあがったのが『インドカレー伝』です。
イギリスはインドの宗主国であったこともあり、実に多くのインド料理レストランがあります。私もイギリスで「何が食べたい?」と聞かれたとき、「インド料理」と答えたことがあります。種類も豊富で、美味しく、それほど高価ではないため、頼みやすいのです。
インド料理の注文は苦手
インド料理が好きな私ですが、注文は苦手です。料理名も難しいし、いろいろ考えるのが面倒で、定食を頼んでしまうこともあります。
けれども、『インドカレー伝』を読むと、料理の一つ一つが、頭に刻み込まれ、血と肉となっていくような気持ちになります。
ひとつひとつの料理が、歴史的背景を含めてかなり詳しく記されているからです。
今まで私が知らなかった料理のルーツや、ヨーロッパ人がどうやってそれらのレシピを本国へ持ち帰ったか等など、興味深い記述が続きます。
『インドカレー伝』は文庫版で449ページと厚い本です。研究者が書いただけに、本格的で、綿密で、最初はちょっと怖じ気づいてしまいました。けれども、料理ごとに一つずつ丹念に読めば、インド料理レストランの椅子に座って、美味しい料理を注文し、それを待っているような気持ちになるでしょう。
インド料理屋のメニューさながら
『インドカレー伝』は10章からできています。
第1章 チキンティッカ・マサラ
第2章 ビリヤーニー
第3章 ヴィンダルー
第4章 コルマ
第5章 マドラス・カレー
第6章 カレー粉
第7章 コールドミート・カツレツ
第8章 チャイ
第9章 カレーとフライドポテト
第10章 カレーは世界を巡る
まるで、どれを食べようか迷うインド料理屋のメニューのようではありませんか。どれから読もうか、迷うでしょう?
魅力的なレシピも載っています
『インドカレー伝』を読むとカレーが食べたくなります。日本人はそれでなくてもカレーライスが好きです。一人当たり、週に一回以上は食べている計算になるという統計もあるといいます。
我が家の食卓にも頻繁に登場します。ただし、私が作るのはいわゆる日本のカレーライス……。インド風のカレーも挑戦したことはありますが、なんとなくうまくいきません。やはりレストランへ行き、プロの料理をいただく方がいいなと思います。ただ、この本にのっているレシピは試してみたくなります。
マサラチャイはいかが?
参考までに「レベッカのマサラチャイ」のレシピを紹介しておきましょう。実際に作って見ましたが、簡単で美味しく、なぜかとても元気が出ます。
【材料(6人分)】
水:950ml
カルダモン(ホール)少しつぶす:16個
シナモン・スティック:2本
牛乳:120㏄
濃く出る紅茶の葉:75g
蜂蜜または砂糖【作り方】
・大鍋で湯をわかして沸騰させ、カルダモンとシナモン・スティックを入れる。15~20分間煮立てる
・別の鍋で牛乳を沸騰する直前まで温め、火から下ろす
・紅茶の葉を先の熱湯に入れ、火から下ろし、3~5分蒸らす
・葉と香辛料を漉して、牛乳と蜂蜜または砂糖を入れて甘くする。すぐに注ぎ分ける。『インドカレー伝』より抜粋
暖かなマサラティーを飲むと幸福な気持ちになります。癖になりそうでしょう?
【書籍紹介】
インドカレー伝
著者:リジー・コリンガム
発行:河出書房新社
カレーはさまざまな外国文化が融合して生まれた! ヴァスコ・ダ・ガマによるインド航路の開拓とそれに続く西洋列強の進出、ムガル帝国の皇帝バーブルによる北方からの侵略という二つの事件が、四世紀にわたりインドの食べ物に影響を及ぼした。日本人にもなじみ深いカレー料理を通して、知られざるインド食文化を物語る!