日本のウイスキー業界がかかえる悩みといえば、人気の高さゆえに原酒がなくて売れないというジレンマ。熟成が欠かせないウイスキーは、つくってもすぐ出荷することはできません。それもあって、新商品が出たとしても多くは数量限定で希少な存在に。
ところが今春、その定説をくつがえすまさかの新ブランド「キリンウイスキー 陸」が誕生、発売されました。しかもそのプロダクトは、新時代のウイスキーともいえる画期的な試みに満ちあふれたもの。本稿ではその新しさと味わいを中心に紹介していきます。
グレーンウイスキーの大家、キリンディスティラリー
「キリンウイスキー 陸」はキリンの商品ですが、同社のお酒といえばビールや缶チューハイのイメージが強いかもしれません。しかしウイスキーづくりにも長い歴史をもち、拠点は1973年に稼働した富士御殿場蒸溜所。世界的に高い評価も受けています。特に有名なのはグレーンウイスキー。これは麦が原料のモルトウイスキーとともにブレンデッドウイスキーに欠かせない原酒のことで、グレーンウイスキーはとうもろこし、ライ麦、小麦などの穀類を主原料とします。
グレーンウイスキーが名高い理由に、この蒸溜所がもつふたつの大きな特性が挙げられます。ひとつは、モルトとグレーン両方の原酒をつくれる世界的にもまれな設備を有していること。もうひとつは、香味の異なる3種のグレーン原酒をつくれることです。
前置きが長くなりましたが、「キリンウイスキー 陸」にはやはりキリンの卓越したグレーンウイスキーづくりの知見がふんだんに盛り込まれており、だからこそ生み出すことができた一本なのです。
サイレントスピリッツでも「うまさ濃い口」を実現
最終的な味わいを調整するべく少量のモルト原酒を使っているため、カテゴリーとしてはブレンデッドウイスキーである「キリンウイスキー 陸」。ただラベルにはブレンデッドウイスキーとは表記されていません。これも同商品の“新しさ”や“自由”につながっていると思います。
同時に、ウイスキーの可能性や楽しさを広げるという想いが込められている同商品。ということで、味わいや製法の芯部に迫っていきます。特徴をひと言で表すなら、「うまさ濃い口」であること。モルトウイスキーに比べてやさしい香味であるグレーンウイスキーを主軸にしながらも、数種の原酒を巧みにブレンドし、素材の魅力を逃さずに生かす製法で、力強いテイストを実現しています。
そのうえで製法のキーとなっているのが、少量のモルトを使うこと、アルコール度数を50%にしつつバランスを整えること、そして冷却ろ過ではない「ノンチルフィルタード製法」を採用することで自然な香味成分を残すこと、など。濃く、伸びの良い味わいに仕上げることで、どんな飲み方・割り方でもおいしく楽しめるように設計されているのです。
鬼頭さんは「多くの方それぞれの好みに合う自由な飲み方に寄り添うには、おそらく従来のモルト主体のウイスキーではなく、私たちの持ち味である多彩なグレーン原酒を中心にブレンドしたほうがよいのでは、と考えました」とのこと。