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2020/8/20 17:00

噂のソニーEVコンセプト「VISION-S」に同乗試乗してみた!

ソニーは今年1月、米国ラスベガスで開催されたIT家電ショー「CES 2020」に4人乗りのEVコンセプト「VISION-S」を出展し、大きな注目を浴びました。その際、「次年度中に公道での実証実験を予定」とも説明されていましたが、それから8か月。その車両がついに日本国内で報道関係者に公開され、試乗体験もできることになったのです。

↑ソニー本社の敷地内を走るEVコンセプト「VISION-S」

 

「VISION-S」は実車化されるのか?

VISION-Sのボディサイズは、全長4895×全幅1900×全高1450mmとなっていて、ホイールベースは3000mmとメルセデスベンツ「Sクラス」並み。車格としてはかなりハイクラスを意識した造りとも言えます。パワートレーンは200kWのモーターを前後にそれぞれ1基ずつ配置した4WDのEVで、乗車定員は2+2の4名。フロントシート前方には横長の大型ディスプレイを配置し、タッチ操作や音声認識を活用することで、直観的な操作で様々なエンタテイメント系コンテンツを楽しめます。

↑完全独立の2+2の4人乗り。それぞれが独立してエンタテイメントが楽しめる

 

また、ソニーが競争領域としているセンサーも数多く搭載しました。車内外の人や物体を検知・認識して高度な運転支援を実現するために、車載向けCMOSイメージセンサーをはじめ合計33個を配置。特にセンサーの一つであるLiDARは自動運転の実現に向けて今後の普及が期待されているもので、ソニーとしてもこのVISION-Sを通してこの分野に新参入することをCES 2020で明らかにしています。

↑ソニーが新規参入するLiDARはフロントグリル内にその一つが装着されていた

 

このVISION-S、製造を担当したのは、自動車部品の大手サプライヤーであるマグナ・インターナショナルの子会社である「マグナ・シュタイア」です。この会社は委託に応じて自動車の開発や組み立てソリューションを提供しており、トヨタの「GRスープラ」もここで開発・製造されたことでも知られます。ソニーはオリジナルのデザインを反映させながら、ここに製造を委託することで公道走行を目指す初のEVコンセプトを開発したのです。

↑パワートレーン系はマグナ・シュタイアが用意するプラットフォームを活用したという

 

では、ソニーがVISION-S EVコンセプトを開発した目的はどこにあるのでしょうか。ソニーの執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西 泉さんは、「センサーでクルマの安全性を担保するには厳しい条件をクリアしなければなりません。VISION-Sを投入することで、実際にクルマを走らせてそのメカニズムを知っていくことが(ソニーにとって)メリットとなるのです」とコメントしました。つまり、VISION-Sでデバイスの信頼性を高めることで、自動車メーカーやサプライヤーなどへ自社技術をソニーとしてアピールしやすくなる。そんな思いがVISION-Sには込められているとみていいでしょう。

↑VISION-Sの統括責任者であるソニーの執行役員 AIロボティクスビジネス担当 川西 泉さん

 

さて、VISION-Sの体験会は、東京・品川にあるソニー本社の敷地内で行われました。車両を前にまず説明されたのはVISION-Sのデザインテーマ。その最大のポイントは、ボディから車内に至るまですべてが「OVAL(楕円)」で統一されているということです。たとえば、フロントグリルを中心にリアコンビランプにまで至るイルミラインは、スマホでドアロックを開閉すると同時に光が走る仕組みとなっていて、収納式ドアハンドルもそれに応じて動作します。このボディ全体を光のOVALで取り囲むことはソニーのデザイナーのこだわりだったそうです。

 

スマホでドアロックを解除すると、ボディ全体を包むイルミラインの光が走る

 

車内に入ってもOVALデザインのコンセプトは広がります。左右に広がるダッシュボードにはパノラミックスクリーンと呼ばれる高精細ディスプレイが乗員を包み込むようにレイアウト。各表示は必要に応じて左右へ移動してカスタマイズでき、目的地までのルート設定を助手席側でしたい時でも指先で左右へ画面をフリックすればOKです。また、走行中に動画コンテンツを見たいときでも、運転席からは見えにくい助手席側へとその映像を移動させられるのです。

↑VISION-Sの前席周り。車内は高品質感が隅々から伝わってくる造り込みがされていた

 

↑ルームミラーを含めミラーはすべてデジタル化され、夜間でも明るくして視認性を高めている

 

前席周囲ではダッシュボードのディスプレイが乗員を取り囲むように配置されている

 

オーディオについても車載用として初めて実装した「360 Reality Audio」がサウンドとしてOVALを表現しています。特にこの技術で驚くのは単なるサラウンドではなく、臨場感を伴いながらボーカルや楽器など演奏者の存在を明確にしていることです。しかも、これは各シートごとに再現されますから、乗員すべてが同じ条件で音楽を楽しめるのです。かつてソニーはウォークマンで音楽を聴くスタイルを変えたように、ソニーは再びドライブ中の音楽の聴き方を変えようとしているのではないでしょうか。

↑家庭用のサウンドボードやヘッドホンなどで展開する「360 Reality Audio」を車載用として初搭載した

 

そして、いよいよ試乗。この日はナンバーが取得できていないためにソニー本社の敷地内で実施されました。走行した場所は石畳が続いており、走る条件としてはプロトタイプの車両には少々きつい条件。それでもVISION-SはEVらしくスムーズにスタートし、ステアリングを切ってもしっかりとした感じが伝わってきました。一方で、ドアを閉める音や走行中に各所から響いてくるギシギシ音はプロトタイプであることを実感させましたが、内装の造り込みは半端じゃなく上質。それだけでの居心地の良さを感じさせてくれるものでした。

↑天井はガラスルーフが天井全体に広がり、車内の色彩とも相まってかなり明るい雰囲気だ

 

これまで世の中にないものを数多く生み出してソニーは多くのユーザーを魅了してきました。それだけに、ソニーに対して期待する声は大きく、「このクルマなら欲しい!」という人もいるのではないでしょうか。そう思って川西さんに訊ねると「今のところ販売予定はない」と残念な返事。ただ、プロトタイプを発表したことで自動車メーカーや自動車部品サプライヤーから問い合わせは数多く、ソニーの技術に対する期待値がかなり高いことは実感している様子です。

↑プロトタイプとはいえ、フルEVであることでスムーズに発進して敷地内を周回した

 

わずか数分ではあったが、日本国内でVISION-Sの初同乗試乗

 

そして最後に川西さんからは新たな情報がもたらされました。それはVISION-Sはこの1台で終わるのではなく、日米欧で公道試乗するために試作車両をマグナ・シュタイアに追加で依頼済みだというのです。VISION-Sを単なる思いつきではなく、真剣にクルマに関わり続けていく。川西さんの話からはそんな力強いソニーの思いを感じ取ることができました。ソニーが得意とするIT技術を結集し、21世紀に相応しい、アッと驚くようなクルマが登場することを期待したいと思います。

 

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