〜〜東海・関西圏を走った私鉄電車のその後5〜〜
譲渡車両紹介の最終回は、東海・関西圏から他の鉄道会社へ移籍した電車を見ていくことにしよう。
東海・関西圏を走った電車の譲渡例は意外に少なめ。少ないものの、かなり個性的な車両が揃う。本家ではすでに引退し、他社で第二の人生を送る電車も目立つ。そろそろ引退が近い電車も表れつつあり、気になる存在となっている。
【関連記事】
今も各地を働き続ける「譲渡車両」8選—元西武電車の場合
【注目の譲渡車両①】今や大井川鐵道だけに残った関西の“名優”
◆静岡県 大井川鐵道21000系(元南海21000系)
大井川鐵道を走る21000系は、元は南海電気鉄道の21000系(登場時は21001系)である。南海高野線の急勾配を上り下りする急行・特急用に造られた。 “ズームカー”、または“丸ズーム”の愛称で親しまれた電車で、製造開始は1958(昭和33)年のこと。誕生してからすでに60年以上となる。
正面は、国鉄80系を彷彿させる“湘南タイプ”の典型的な姿形。その後の車両よりも、運転席の窓が小さめ、窓の中央には太めの仕切りがある。湘南タイプの後年に生まれた車両にくらべれば、運転席からの視界があまり良くなさそうだ。
南海では1997(平成9)年で引退、大井川鐵道へは1994(平成6)年と1997年に2両×2編成が譲渡された。一畑電車にも譲渡されたが、こちらは2017年に引退している。21000系は大井川鐵道に残った車両のみとなっている。
さて、大井川鐵道に“後輩”となる車両の搬入が最近あった。
大井川鐵道に搬入されたのは南海の6000系2両である。南海6000系は運行開始が1962(昭和37)年のこと。東急車輌製造が米バッド社のライセンス供与により最初に製造したオールステンレス車体の東急7000系(初代)と同じ年に、東急車両製造が造った電車だった。ちなみに7000系は車体が18m、南海6000系はオールステンレス製20m車として国内初の電車でもあった。
オールステンレスの車体は、東急7000系の例もあるように、老朽化の度合が鋼製車両に比べて低く、長く使える利点がある。大井川鐵道では、しばらく改造などに時間をかけてから登場となるだろうが、この後に紹介する元近鉄の電車に変って走ることになりそうである。
かつて同じ高野線を走った電車が、他の鉄道会社で再び顔を合わせる。鉄道ファンとしてはなかなか興味深い光景に出会えそうだ。
【注目の譲渡車両②】近鉄の特急オリジナル色がここでは健在!
◆静岡県 大井川鐵道16000系(元近鉄16000系)
大井川鐵道の旅客輸送を長年、支えてきたのが元南海の21000系とともに、16000系である。16000系は元近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)の16000系にあたる。近鉄16000系は、狭軌幅の南大阪線・吉野線向けに造られた電車で、同線初の特急用電車でもあった。1965(昭和40)年3月から走り始めている。
計9編成20両が増備され、南大阪線・吉野線の特急として長年、活躍し続けてきた。車体更新が行われ、今も一部の編成が残り、走り続けている。
大井川鐵道へやってきたのは、初期に製造されたタイプで、1997(平成9)年に第1・第2編成が、さらに2002(平成14)年に第3編成が譲渡された。すでに第1編成は引退、第2編成が休車となっている。第3編成のみが現役で、南海の6000系は、休車となっている第2編成に代わって走り出すとされる。
本家の近鉄16000系は近年に大規模な車体更新が行われ、同時に車体カラーも一新されつつある。近鉄の伝統だったオレンジ色と紺色の特急色で塗られた車両が消えつつある。大井川鐵道の16000系は、そうした近鉄の伝統を残した貴重な車両となりつつある。