「サステナビリティ」や「SDGs(持続可能な開発目標)」は、現代のキーワードとして日本社会にもかなり浸透しました。2020年もサステナビリティに関するさまざまな記事を取り上げてきましたが、本稿ではアパレル・食品・容器包装・モビリティの4分野から注目すべき動向を振り返ってみます。
①【アパレル】再生可能な天然素材が流行り
化学製品を使わず再生可能な素材を活用することは、アパレル業界でも盛んになっています。ポール・マッカートニーの娘でイギリスのデザイナーであるステラ・マッカートニーは、自身のブランドで生分解可能なデニムを使ったストレッチジーンズを発表しました。ストレッチデニムの伸縮性は天然素材のコットンだけでは不十分で、石油由来の弾性素材が必要です。
しかし、イタリアの老舗ジーンズメーカーが天然の弾力素材を織り込んだ伸縮性の高い生地を開発したため、ステラはこの生地を使用。染料についても、オランダ企業が開発した生分解可能な天然由来の染料が用いられました。化学製品などの代用品としてキノコや海藻からの抽出成分を利用した結果、このジーンズは100%生分解が可能となったのです。
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一方、意外な果物を使った繊維も開発されています。高級な繊維として知られるシルクは絹糸生成段階で大量の水が使われ、二酸化炭素が発生することが課題でした。エコな代替品が求められているなか、オレンジの皮から作ったオレンジファイバーが登場したのです。
素材の開発と販売を手掛けているのは、オレンジ産地として知られるイタリア・シチリア島の企業です。オレンジジュースの製造過程で年間70万~100万トン出る大量の皮の生ごみは、現地で悩みの種になっていました。オレンジの皮を繊維に加工できないかと考えたシチリア出身の研究者たちが、ミラノの大学と共同で皮からセルロースを抽出する技術を開発。生地の手触りはまさにシルクのようになめらかで、フェラガモ社をはじめアパレル関係者から高く評価されており、大手ファストファッションのH&Mもオレンジファイバー素材を用いたサステナブル商品を以前に発表しています。
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②【食品】食品廃棄物を活用した結婚式
食品廃棄もSDGsの重要課題のひとつ。欧州では若い世代がこの問題の解決に向けて活動しています。イタリアでは若者たちがNPOを立ち上げ、家庭やレストラン、食品店などで余った食料を必要な人にすぐ届ける取り組みを始めました。目を付けたのが、イタリア独特の派手な結婚式で膨大に余るご馳走です。
まずは結婚式が決まったカップルから事前連絡をもらい、段取りを決めます。パーティーが終わるとスタッフが安全できれいな食べ物をまとめて、見た目も整え、食料を必要とする近隣家庭に約30分で届けます。最近はこの活動が広く知られるようになり、若いカップルが結婚式を挙げる時には参加することが当たり前になってきました。
結婚式だけでなく洗礼式でも同じ活動が行われ、クリスマスや復活祭でも食料やお菓子が提供されて賞味期限とともにNPOの公式サイトやFacebookに掲載されます。さらに、食料品店の閉店15分前に賞味期限ぎりぎりの食材を回収し、必要な家庭に届けています。
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イギリスでも食品廃棄に対する国民の意識が年々高まっています。2018年に湖水地方で結婚式を挙げたカップルは、国内初の「食品廃棄物ウェディング」で一躍有名になりました。賞味期限が迫った食べ物や、スーパーに断わられた形の悪い野菜や果物を卸業者などから集めて販売するチェーン店が食料の調達に協力。
披露宴のご馳走はとても豪華で、招待客はすべて食品廃棄物から作られていたことにまったく気付かなかったそうです。この結婚式を機にイギリスでは「食品廃棄物ウェディング」を希望するカップルが増え、食の新しい価値観が生まれているようです。
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③【容器包装】海藻を使えば容器も食べられる時代に
ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチックの量を削減するために、イギリスのNotpla社は「食べられる包装材」を開発しました。「オーホ」と名づけたこの包装材はそのまま食べられ、捨てても4~6週間で自然分解されます。原料はフランス北部で養殖されている海藻で、乾燥させて粉状にしたあとに独自の方法で粘着性の液体に変化させ、さらに乾燥させるとプラスチックに似た物質になります。1日に最大1メートルも成長し養殖には肥料なども不要なため、原料不足になる心配もありません。
2019年のロンドン・マラソンではランナーに提供する飲料の容器に使用し、3万個以上を配布しました。同社は2020年にサントリーの子会社と提携し、ドリンクが入ったオーホの自動販売機を開発。スポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントで活用しています。
新型コロナウイルスの影響でテイクアウトが増加し、プラスチック廃棄物も増えています。食べられる容器は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。
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④【モビリティ】公共交通機関の無償化は成功するか?
欧州の小国ルクセンブルクはドイツやフランスなどからの越境労働者が多く、夕方4時を過ぎると至るところで渋滞が見られます。排ガスによる大気汚染の観点からEUから何度も是正を促され、国としては初となる「公共交通機関の無償化」を導入しました。同国では自動車通勤の人が確定申告をすると、通勤距離に応じた金額が還付される制度があります。これを変更もしくは廃止して、その財源を公共交通機関の無償化に充当し、自動車利用の抑制につなげるという仕組みです。
ただ、ルクセンブルクの公共交通機関は本数が少なく移動が不便ということもあり、無償化後も渋滞が大きく緩和された様子は見受けられません。政府も今後はより利便性の高い交通サービスを提供していくことが必要と発言しています。
都市単位では欧州を中心に約100都市で同様のモビリティ施策が導入されていて、公共交通機関の全面無償化に踏み切ったフランスの都市ダンケルクやエストニアの首都タリンでは利用者数の増加など一定の効果が表れています。CO2削減策の1つになりうる可能性もあるといえるでしょう。
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このように、限りある資源を未来の世代に残す活動は今年も活発に行われてきました。上記の取り組みはすべて欧米から生まれていますが、生活に密着したサステナビリティは日本でもさらに広がっていく可能性があります。そこで鍵を握るのは、イタリアの事例が示すように若い世代でしょう。新しい価値観をどんどん生み出す若者に2021年も注目です。