月や火星で大量のロボットが自律的に活動してインフラを構築する。そんなSF映画のようなビジョンを実際に実現させようとしているスタートアップ企業があります。それがアメリカのOffWorld(オフワールド)。同社の共同創業者でCEOを勤めるJim Keravala氏が、ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」に登壇し、未来の宇宙開発の形について話しました。ワイルドなビジョンの裏には一体どんな考えがあるのでしょうか?
OffWorldが描く未来の野望は、月や火星などの惑星にAIを搭載したロボットを何百台も大量に送り込み、人間の監視下のもとで採掘などの作業を行い、そこにインフラを構築すること。これによって地球以外の惑星まで文明を拡張し、地球の生態系のバランスをとることにも役立つと考えているのです。
ロボットは元来、危険な場所での作業や人間が近づけない場所での作業を行うために開発された一面があります。それと同じように、同社では「人間がまだ訪れたことのない未知の場所にロボットを送り、そこで何百万台ものロボットのプラットフォームを構築し、採掘・飲み水の生成、電気エネルギーの生産などを行うことをビジョンとしている」とKeravala氏は語り、その舞台となるのが月や火星などの惑星なのです。
これまでにも月や火星の調査にはロボットが活用されていますが、OffWorldが目指すロボット編隊によるインフラ構築がなぜ必要なのか? 同社ウェブサイトにはその理由が3つ挙げられています。
1つ目は人類が拠点とする地球を守るため。昨今、注目が高まっている地球環境問題をはじめ、宇宙で発生し得るさまざまなリスクなど、地球での暮らしが絶対的に安全と言えるわけではありません。なので、地球外でも私たちを守るための準備をする必要があると同社は考えています。
2つ目は地球上の環境負荷を軽減すること(同社はこれをサステナブルな発展と言っています)。宇宙でエネルギーインフラを構築できれば、そのエネルギー源を地球に届けることが可能になるかもしれません。そして3つ目は探求心。かつて人類は、山を超え、海を超え、知られざる地を開拓してきました。そして次なる未知の場所(ニューフロンティア)が宇宙になるのです。人類が宇宙に惹かれるのは「未知なる場所や物事を知りたい」という私たちの知的好奇心が背中を押しているからでしょう。
同社が開発を進めているロボットは、大きさは30×60×20cmで、重さは53㎏の小型サイズ。地球上はもちろん、月や火星などで自律式で活動できるよう設計され、ソーラーシステムを標準装備し活動します。そんなロボットを活用する最大のメリットは「宇宙に行くことのコストを下げられることだ」とKeravala氏は言います。「ロボットによって、従来なら人を介して行っていた組み立てなどの複雑な作業を宇宙で行えるようになり、インフラ構築に必要な生産コストを大幅に下げることができる」
そしてAIが搭載されており、ロボット同士の共同作業や現在開発中のマシンインテリジェンスによって、「将来的には人間がほとんど介入しなくてもロボット自身が学習して、次にどんな作業をすべきか判断し活動できるようになる」とKeravala氏は述べています。
世界の人口問題の究極の解決策?
映画のワンシーンのようで突飛に思えるKeravala氏の構想は、10代のときに読んだトーマス・ロバート・マルサス著の人口論がきっかけなんだとか。この本は、過剰人口によって食糧不足は避けられなくなり、その結果、飢饉や貧困などが起き、人口の増加は道徳的な観点から抑制すべきであると論じていますが、Keravala氏はそれを自分なりに解釈し、人類を地球外に連れていけば、この問題は解決できるのではないかと考えたのかもしれません。
そんなKeravala氏は、あるインタビューによると、近い将来の目標として2024年のNASAのアルテミス計画への参画に期待を寄せているそう。壮大かつ明確なビジョンを持つOffWorldが、どこまで計画を実現できるのか注目です。