文房具
2021/7/8 13:00

完成度が高かった初代機をどう超えたのか? 新「クアデルノ」の魅力をCOO竹田弘康さんに直撃

なかなか収束の気配を見せない新型コロナウイルスは、良くも悪くもビジネスの在り方を変えた。世界経済へのマイナス打撃は枚挙にいとまがないが、「これって結構いいんじゃないか?」というプラスの影響もあった。それは、「加速度的な働き方改革の実現」だ。テレワークやオンラインミーティングが一般的になるなど、世の中の仕事環境がある意味強制的にアップデートされたといえるだろう。

 

きっとこれはワクチンが浸透してコロナ禍が収まったのちも、継続される「働き方のニュースタンダード」になるはずだ。顔を突き合わせての会議や満員電車での通勤、究極的には物理的なオフィス空間など、本当に必要だったのかとビジネスパーソン全員が「当たり前」を疑い、より働きやすい世の中の実現へ、手探りで進んでいるのが現状だ。

 

パソコンの企画・開発を主業とする富士通クライアントコンピューティング(以下FCCL)も、ほかの企業同様に、大きく働き方を変えた。だが、FCCLで「クアデルノ」事業を推進するCOO竹田弘康副社長は、まだ現状に満足していないという。

 

「働き方は変わりつつあります。だが、もう一つの理想がある。私はオフィスから紙をなくしたいのです」

 

それを実現しうるツールが、電子ペーパーの新「クアデルノ」だ。2018年末より日本市場デビューを果たした電子ペーパーの第二世代機がついに発売される。果たしてどこが変わったのか。本当に真のペーパーレス時代を叶える乾坤一擲の一撃となりうるのか。

 

竹田弘康副社長に、その意気込みと将来のビジョンをうかがった。

 

――FCCLにおけるコア・コンピタンスは、いうまでもなく「パソコン」だと思います。そのなかで、ある意味キーボードと相容れないツールである「クアデルノ」の立ち位置・役割はどんなものでしょうか。

「おっしゃるとおり、働き方改革に連なり、デジタル・トランスフォーメーションが急速に進むなかで、FCCLのパソコンは市場にとってより重要な位置に置かれています。仕事のやり方がデジタライズしていくなかで、パソコンはとても大きな役割を担っていますが、一方で、ビジネスパーソンの方は、より自分に身近で、感覚的に扱えるツールで仕事をしたい場合がたくさんあると考えています。弊社でも会議などにはみんなパソコンを持って参加するのが当然になりましたが、多くのメンバーは紙のノートも持ってきます。これはやはり、『ちょっとしたメモは手書きで残したい』『手で書くことでアイデアが生まれる』ということだと思うのです。『クアデルノ』は、そんな思考・感覚のアウトプットをサポートするツールであり、パソコンとは役割が違うものと考えています」

 

――竹田さんご自身も「クアデルノ」を愛用されているとのことですが、会議や打ち合わせの在り方に変化はありましたか?

「そうですね。私はもちろんFCCLの役員陣は全員クアデルノを使っているのですが、いまはもう皆、手放せなくなっています。会議や打ち合わせの本質は、『コミュニケーション』ですよね。人と人の間にパソコンを挟んでの対話も珍しくなくなりましたが、話をしながらキーボードを打つというのはやはり対話に集中していない印象になってしまい、場合によってはコミュニケーションの質を下げることにも繋がりうる。その意味で、顔を見ながら書き込めるノートツールの役割は大きいものがあると考えます。ただ、紙のツールにはデメリットもあるのです。環境問題に加え、情報のセキュリティ面での脆弱性が高い。リモートワークが当たり前の時代、自宅やカフェで仕事をする際、情報が詰まった紙のノートなどを持ち歩くのは大変にリスクが大きいと思います」

 

↑インタビューはFCCLのオフィスのプレゼンルームで実施。こうした場所でも、紙資料などが配られるケースは激減しているという

 

――資源を無駄にしない、情報漏洩リスクを制御できる、という二点で、デジタルツールである利点が大きい、ということですね。

「その通りです。また『クアデルノ』は、パソコンを否定するようなものではなく、一緒に使うことを前提として設計されています。PDFファイルを自在に行き来させられますし、手書きの文字を自動で同期保存させることもできます。手書きメモを加えた資料を、パソコンからメールで送付、もしくはクラウドにアップ、というようなことが簡単に行える。手書きのフィーリングを残したまま、デジタルガジェットとしての実力も高い。いわば、『手書きの思考過程』と『パソコンでのアウトプット』を橋渡しするようなツールであると考えています」

 

――2020年から発生した新型コロナウイルス禍が、「クアデルノ」のビジネスに影響を与えた、というようなことはありますか?

「やはり新型コロナウイルスは、『ペーパーレス化』を加速させたと感じています。人が集まる会議は少なくなりテレワークが進むにつれ、パソコンを使った仕事が基本となり、弊社でも会議などで紙資料を配るシーンはほとんどなくなりました。とはいえ、日本の企業においてもテレワーク化が進行したとはいえ、その浸透度はまだ2~3割程度かと感じます。これからもペーパーレス化はまだまだ進むはず。それはすなわち、電子ペーパーにとって、大きな市場性が創出されうる、といえます」

 

――では、2年半ぶりの刷新となった、ニューモデルのことをお聞きします。率直に、新モデルのセールスポイントはどこになりますか?

「まず、コントラストの向上による見やすさの改善、各種操作に対するレスポンスの良化など、基本性能のアップがベースになります。しかし、進化点としてもっともわかりやすいのは『新型ペン』の採用です。ペンが使いやすいかどうかの基準には、大きく3つのポイントがあります。ひとつは『レイテンシ(筆記遅延)』、そして『書き味(摩擦性)』、最後が『視差(ペン先と線のズレ)』です。この3点をアナログの紙とペンの感覚にいかに近づけるかが課題なわけですが、新モデルでは、文教用タブレットで長くご一緒しているワコムさんとタッグを組みました。その最大のポイントが『ワコム デジタイザ』の新搭載です。これにより、素早く、そしてなめらかな線を自在に描けるようになったのです」

 

↑新モデルのタグラインは「A part of your brain」。「アウトプットに至るまでの『思考過程』をサポートするツールだと考えています」(竹田さん)

 

――具体的に、初代モデルとどのような違いが出るのでしょうか。

「初代機は、書きやすさを大きく左右する『視差』を初期設定でチューニングしていたのですが、これだと『クアデルノ』を反対に回転させて描くと、視差がより大きくなるような課題があったのです。実際の紙とペンでは、そのようなことありえませんよね? この改善のためにどうしてもデジタイザが必要でした。加えて、斜めの線もガタつくことなくまっすぐ描けるようになりました。初号機でも、文字は十分きれいに書けました。しかし新モデルでは、図や簡単なイラストなどもストレスなく描けるようになっています。初代が国語のノートだとしたら新モデルは理科のノートに進化した、と想像してもらうとわかりやすいかもしれませんね」

 

――この新「スタイラスペン」は、もう一つ大きな進化ポイントとして、充電が不要になりましたね。

「初号機ユーザーから、その点のリクエストはいただいておりました。やはりペンが人の思考と『クアデルノ』をつなぐポイントであるので、今回は、書き味、使い勝手、ユーザーインターフェイスに相当こだわりましたね。また、こだわりという意味では、新モデルではオプション品として、ドイツの人気筆記具ブランドLAMYさんとのコラボペンも発売します。さらには、リッチな質感を持つ専用カバーもA4、A5それぞれ各2色ご用意しました。これはいわば、『クアデルノ』に機能以上の価値を感じてほしいという思いが込められています。我々が扱っているパソコンは、あくまでツールであり、機能以上の価値を与えづらい。しかし『クアデルノ』は、ペンやカバーで個人の『嗜好性』を満たすことができるはずです。今回はまずLAMYさんとのコラボですが、その先の広がりもちろんイメージしています。電子ペーパーユーザーのなかには、『自分らしいデジタルのペンを持ちたい』と思いを馳せている人が、きっと多いと思います」

 

↑「LAMYさんには、いまの『クアデルノ』にもっともマッチするブランドとしてパートナーになっていただきました。この独特のスタイルに憧れるユーザーはたくさんいると信じています」(竹田さん)

 

――「価格」や「機能」の価値に加え、「感性」へ訴えかける価値も、新モデルでは得られるということですね。反響が楽しみですが、さらにその先、電子ペーパーの未来を竹田副社長はどう見据えていらっしゃいますか。

「元々は、ビジネスユースのペーパーレス化がターゲットの原点だったのですが、初号機は『個人ユース』で新しい発見も多くありました。お母さんがお子さんの勉強ドリルに活用している、という声もいただきましたし、音楽をやっている方が、『楽譜』を『クアデルノ』に入れて持ち運ぶという需要も想像以上にありました。また、私個人も木工家具づくりが趣味なのですが、家具のデザインが思い浮かぶとすぐにラフスケッチを描いておくようになりました。自分自身も仕事以外で『クアデルノ』を使い出しているわけです。すなわち、『書く・読む』という視点だけでも、このように多彩なニーズが広がっています。私たちは、『クアデルノ』単体でネットにつなぐなど、多機能化していく方向は考えていません。掘り下げるべきは『書く・読む』。特に『ペンで書く』という作業に、さらなる深みを与えようと、いま開発を進めています。現時点で詳しくは言えませんが、今回の新モデルは、ファームアップなどで、その点を徐々に進化させていきたい。『書く』という作業が、人の感情を表現できるほど『深さ』を手に入れたとき、はじめて『筆記』のデジタル・トランスフォーメーションが達成されると信じています。ご期待ください」

 

↑竹田副社長が自作したという「クアデルノ」のディスプレイスタンド。ナラ材を切り出し、ロゴを刻印した本格仕様。こちらの販売もFCCLには期待したい

 

富士通クライアントコンピューティング株式会社

執行役員副社長/COO

竹田弘康さん

 

【商品情報】

QUADERNO(Gen.2)

A5サイズ FMVDP51

A4サイズ FMVDP41

ともにオープン価格

 

本物の紙とペンのような「書きやすさ」と「読みやすさ」を実現した、超軽量・薄型電子ペーパーのニューモデル。膨大な資料の取り込み・閲覧、手書きメモやPDFへの書き込みなどが行えるうえ、手書きメモのコピー&ペーストや検索機能などを備え、アナログの良さとデジタルの利便性を両立している。新モデルは「書きやすさ」「読みやすさ」が向上し、さらにそのスマートなルックスも進化した。『クアデルノ』と一緒に使えるアクセサリーも拡充し、より快適なペーパーレスライフを実現する。

 

公式サイト:https://www.fmworld.net/digital-paper/top.html

ECサイト:https://www.fujitsu-webmart.com/pc/webmart/ui3211.jsp#item

 

撮影/村田 卓