ソニーがウォークマンの新製品「NW-A300」を発売します。スマホでいつでも音楽を聴ける時代において、Wi-Fiストリーミング再生対応のウォークマンの魅力はどこにあるのでしょうか?
ストリーミングウォークマンの新しい入門機が登場
ソニーのウォークマンといえば、カセットテープにCD/MDなど、外出先で音楽を持ち歩きながら聴ける記憶メディアとともに進化してきたポータブルメディアプレーヤーです。
現在のラインナップにはAndroid OSやWi-Fi機能の搭載により、インターネットに直接つながって、音楽サービスなどのストリーミングメディア再生を楽しめるモデルが充実しています。その中で、NW-A300はストリーミング対応ウォークマンの新しいエントリーモデルです。
シリーズの中でのラインナップは、内蔵ストレージの容量が64GBの「NW-A307」と、32GBの「NW-A306」があります。カラーバリエーションは同じで、グレー/ブルー/ブラックの3色。価格はオープンですが、オンラインのソニーストアではNW-A306が4万6200円(税込)、NW-A307が5万7200円(税込)で予約販売されています。
ストレージはmicroSDカードを装着して容量を足すこともできるので、本体価格が1万1000円ほど安価なNW-A306の方を選ぶのがひとつの手かもしれません。
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上位モデルの高音質化技術を継承
NW-A300にはソニーが独自に開発するフルデジタルアンプの「S-Master HX」が搭載されているので、さまざまな有線・無線接続のイヤホン・ヘッドホンをとてもパワフルに鳴らせます。
さらに、上位モデルのウォークマン「WM1シリーズ」「ZXシリーズ」に採用する高音質パーツを、エントリーグレードのAシリーズにも載せるなど、技術の最適化にも力を入れてきました。内部の基板や部品を溶接する「はんだ」といった、細部の部品にもこだわり抜いたことで音の解像度と広がり感を高め、まるでライブ会場やコンサートホールで聴く音楽に近い体験を、ポータブルサイズのプレーヤーで実現しています。
なお、NW-A300は「ハイレゾ対応」のウォークマンですが、その実力がわかるのはハイレゾ音源の再生時に限りません。いつもはスマホやパソコンで聴いているサウンドが、NW-A300で再生すると、さらに良い音に感じられると思います。その理由のひとつが本機に搭載された、さまざまな音源を高音質化する「DSEE Ultimate」というソニーの独自技術です。
DSEE Ultimateは、ソニーが膨大な数の楽曲データを学習させて作り上げたAIエンジン。圧縮された音源ファイルや、音楽ストリーミングサービスの再生時にDSEE Ultimateをオンにすると、AIエンジンが楽曲に含まれる人の声やさまざまな楽器の音色、リズムや音場をリアルタイムに解析して、ハイレゾ級の音質に変換処理(アップスケーリング)します。
その処理がとてもスムーズで、違和感のないリアルなリスニング感が得られるところに、AIを活用するDSEE Ultimateの真価があります。効果はウォークマンに有線・無線、どちらのタイプのイヤホン・ヘッドホンを接続した場合にも同様に働き、また音楽だけでなく動画やゲームアプリの音声も高音質化します。
Apple Musicのハイレゾロスレスもウォークマンだとシンプルに再生できる
一般的な音楽ストリーミングサービスのひとつであるApple Musicには、CDの音質を超えるハイレゾロスレス音質で配信する楽曲が数多くあります。ただ、iPhoneでApple Musicのハイレゾロスレス再生を楽しむためには、別途ハイレゾに対応するDAC内蔵ヘッドホンアンプなど、外付けオーディオ機器が必要です。
その点ウォークマンの場合、本体の3.5mmヘッドホンジャックにハイレゾ対応のイヤホン・ヘッドホンを接続して聴くだけと、ハイレゾロスレスの再生方法がシンプルです。
試しに、ウォークマンにAndroid版Apple Musicアプリをインストールしてハイレゾロスレス配信の楽曲を聴いてみたところ、ボーカルの声、楽器のサウンドがとても濃厚かつ新鮮です。音の輪郭が力強く描かれ、リズムの躍動感も際立っています。ボーカルやギターの高音域には透明感があり、ベースやドラムスが奏でる低音域には温かさと深みがあります。ウォークマンでコンテンツを再生すると、スマホでは再現しきれない音の幅広さと厚みが発見できます。
また、DSEE Ultimateの効果をオンにするとサウンドの情報量がグンと増える手応えが感じられるでしょう。たとえばクラシックの弦楽四重奏を聴くと、各音域を担当する楽器のそれぞれの音色が際立ち、音の幅の広がりが豊かになることがとてもよくわかると思います。弓に弾かれる弦が小刻みにふるえる様子まで浮かび上がってくるような、細やかなディティールを描き切れるところも、DSEE Ultimateをオンにしたウォークマンの特徴です。
同じ曲をiPhone 14 ProとAirPods Proの組み合わせで聴き比べてみました。この組み合わせではハイレゾ再生やロスレス再生ができないため、やはりサウンドの情報量に如何ともしがたい差が現れます。AirPods Proも高音から低音までバランスの良いサウンドを聴かせる良質なイヤホンですが、リズムの抑揚とスピード感、音像の彫りの深さはウォークマンで聴くサウンドの方が真に迫る実感があります。
ハイレゾワイヤレス再生のスマホもあるけど、専用プレーヤーとしての底力が違う
なおDSEE Ultimateの効果は、YouTubeの動画再生にもわかりやすく表れます。サウンドが活き活きとして、音場の見晴らしが格段に向上するからです。人の声によるナレーションがグンと近くに感じられるような生々しさがあります。
また、ハイレゾロスレス楽曲の試聴は有線のイヤホンでしたが、ウォークマンはソニー独自のBluetoothオーディオのコーデックであるLDACと、クアルコムのaptX HDによるハイレゾワイヤレス再生にも対応。たとえばLDACをサポートするソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」で聴くと、スピーカー再生のように豊かな音の広がりが感じられます。
現在はLDACやaptX Adaptiveなどのハイレゾワイヤレス再生に対応するスマホが増えています。ですが、ウォークマンAシリーズはパーツや設計の高音質化にもこだわり抜いた専用プレーヤーであるからこそ、「底力」が違うと言えます。
スマホと「2台持ち」、オススメの理由と懸念点は?
スマホなら1台で簡潔にできることを、あえてウォークマンとの2台持ちにするとしたら、メリットは「音が良くなる」ことのほかにもあるのでしょうか。
約113gのNW-A300シリーズには、音楽ストリーミングサービスアプリを使用で最大26時間の連続再生を楽しめる(端末にファイルを一時ダウンロードして聴くオフライン再生の場合)バッテリーが内蔵されています。あらかじめウォークマンにコンテンツをダウンロードして、移動中の再生はウォークマンに任せてしまえばスマホのバッテリーが節約できます。スマホの充電用にモバイルバッテリーを持ち歩くことを考えれば、ウォークマンとの2台持ちは大きな負担に感じられないと思います。
一方でウォークマンにはセルラー通信機能がなく、外出時に音楽・動画のストリーミング視聴を楽しむ際には、一緒に持ち歩くスマホでテザリングしたり、Wi-Fiスポットを利用したりしなければなりません。最近はスマホで大容量のデータを使えるプランの価格がこなれてきたので、テザリングによる通信量は気にならないかもしれませんが、スマホのテザリングを起動して、ウォークマンをWi-Fiでつないで……といった手間をかけることは筆者も面倒に感じます。
ソニーには「外付けセルラー通信ユニット」のような専用アクセサリーなどを企画してもらいたいです。
パソコンと組み合わせて使うのも◎
最後に、NW-A300シリーズには、MacやWindowsのパソコンとUSBケーブルで接続してUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプとして使える機能があります。
アップルのパソコンは最近のMacBook ProやMac Studioが最大96kHz/24bitのハイレゾ対応DACを搭載するほか、抵抗値の高い高級ヘッドホンも力強く鳴らせるアンプを内蔵しているので、パソコン単体でもパワフルなサウンドを再現できます。そこにウォークマンをつなぐと、DSEE Ultimateでさまざまな音源をハイレゾ級の音質に変換したり、イコライザーを使って好みのバランスにカスタマイズしたりもできます。
新しいウォークマンを購入したら、ぜひUSB-DAC機能も使ってみてください。
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