“We got down from the car and went inside.”
“He made a party to celebrate his son’s birthday.”
米・フロリダ国際大学のフィリップ・M・カーター准教授によると、米国のフロリダ州南部で新しい方言が生まれつつあるそうです。それが「スパングリッシュ(Spanglish)」。上記の二文はその例です。標準英語との違いは後述しますが、この方言はスペイン語と英語の話者が接触を続けてきた結果できつつあると言います。
1959年に起きたキューバ革命以降、何十万のキューバ人が南フロリダに渡り、スペイン語と英語の言語接触(※)が起きていました。
※2つ以上の異なる言語が地理的に近接していたり、政治的、経済的理由により接触すると、片方がもう片方にさまざまな影響を与えること(参考:大修館書店『英語教育用語辞典』)
フロリダ州の人口の多数はバイリンガルです。例えば、同州のマイアミ・デイド郡では、65%以上の人口が自分のアイデンティティーをヒスパニックまたはラテンアメリカ人としています。同州のドラルやハイアリアといった都市では、その人口はそれぞれ80%と95%に達するとのこと。キューバ系米国人の中では、第2世代以降、スペイン語が話せなくなった子孫もいますが、今日でもマイアミでは英語と同様にスペイン語がかなりたくさん話されているのです。
この言語接触によって作られつつある方言は、専門用語で「翻訳借用/カルク(calque)」と言います。この用語は、ある言語が外国語の語を借り入れて用いるとき、その外国語の元の意味をなぞり、翻訳して取り入れることを指します(例:“airport”は「空港」〔air→空 port→港〕)。これは大昔からさまざまな場所、さまざまな言語で起きてきました。
ここでは、現在マイアミで起きている翻訳借用(スパングリッシュ)を具体的に3つ見てみましょう。
【例1】
標準英語:”get out of the car”(クルマから降りる)
マイアミのスパングリッシュ:”get down from the car”
借り入れ元のスペイン語は”bajar del carro”。これを英語に訳すと”get out of the car”になりますが、スペイン語の”bajar”は、英語で”to get down”を意味します。だから、多くのマイアミ人にとってクルマから「降りる」は、”getting out”ではなく、”getting down”と解釈してOKとなるのです。
【例2】
標準英語:”married to“(〜と結婚する)
マイアミのスパングリッシュ:”married with”
こうなる理由は、スペイン語で「〜と結婚する」を指す”casarse con”は、英語に訳すと”married with”となるからです。
【例3】
標準英語:”give/have/hold a party”(パーティーを開く)
マイアミのスパングリッシュ:”make a party”
スペイン語で「パーティーを開く」は”hacer una fiesta”で、これを英語に訳すと”make a party”となります。
このように、キューバ人の米国への移民によって、英語では新しい語法が生まれています。英語は昔から他の言語の影響を受けてきましたが、いま特にスペイン語の影響が顕著になっているようです。
【出典】
Phillip M. Carter. Linguists have identified a new English dialect that’s emerging in South Florida. The Conversation. June 12 2023