コロナ禍の香港を舞台に、都会の片隅で懸命に生きる人々の日常を描いた『星くずの片隅で』が7月14日(金)より公開します。ヒロイン・キャンディを演じるアンジェラ・ユンさんは、本作で香港の数々の映画賞で最優秀主演女優賞にノミネートされました。日本でもVaundyの「Tokimeki」のMVにも出演するなど、“香港で今、最も注目されている女優”であるアンジェラさんが、『星くずの片隅で』に懸けた思いを伺いました。
【アンジェラ・ユンさん撮り下ろし写真】
毎日のように起こるトラブルや問題を、どのようにして乗り越えていくか
──『星くずの片隅で』の出演経緯を教えてください。
アンジェラ この映画の企画を最初に聞いたとき、私はこれまでの香港映画とちょっと違うことに興味を持ちました。キャンディという女性は、このコロナ禍で、何とか生き抜こうとしているシングルマザーで、複雑な環境の中、日々いろいろと葛藤している。今まで演じたことのない役柄だったので、ぜひ出演したいと思い、オーディションを受けました。
──本作の脚本を読んだときの感想は?
アンジェラ 3度にわたるオーディションでキャンディ役に選ばれた後に、脚本を読んだのですが、企画を聞いたときに、私が思っていた悲劇のヒロインとはちょっと違う印象を持ちました。彼女が大変な環境にいるのは間違いないのですが、ちょっと客観的に、別の角度から見ると、「毎日のように起こるトラブルや問題を、どのようにして乗り越えていくか」ということを一生懸命考えているたくましい女性に見えたのです。
本当の母娘というより姉妹に見えるように心がけました
──そんなヒロイン・キャンディの役作りについて教えてください。
アンジェラ 私は未婚で、シングルマザーでもありませんが、身近にいるシングルマザーの方から話を聞いたり、観察して、キャンディのキャラクターを作っていきました。脚本を読み込んで、一番大変そうだと思ったのは、娘のジューとの関係性です。キャンディは、ちょっと変わった教育方針で子育てしているように見えるかもしれませんが、ジューをとても大切にしているんです。
──ちなみに、ジューを演じる子役・トン・オンナーさんは本作が映画初出演だったそうですね。
アンジェラ とにかく彼女との距離を縮めるため、撮影現場を離れても、まるで友だちのように一緒に遊んだり、会話をしたりして、本当の母娘というより姉妹に見えるように心がけました。あと、キャンディは日本のアニメを意識したコスプレ好きという設定なので、ときどき日本語を話す設定になっているんです。私はプライベートでもよく来日して、下北沢に行くので、それに関しては全く問題ありませんでした(笑)。
神様のような存在の是枝裕和監督とお会いして嬉しかったです!
──コロナ禍の日常を描く作品を、コロナ禍に撮影されるうえで苦労された点は?
アンジェラ 企画段階ではコロナ禍の設定ではありませんでしたが、2次オーディションの頃にコロナ禍になり、脚本にコロナ禍における日常が取り入れられました。例えば、香港らしいにぎやかさが消え、誰もいない路地や街並みに変更になりました。それから、子供たちが学校に行けなくなり、公園のような公共の場所も立ち入り禁止になりました。撮影はとても大変でしたが、コロナ禍という設定を取り入れたことで、リアリティに溢れたドラマチックな映画になりました。
──本作でのアンジェラさんの演技は高く評価され、昨年度の台湾アカデミー賞(金馬奨)と香港アカデミー賞(金像奨)において、最優秀主演女優にノミネートされました。
アンジェラ これまで自分の演技を評価されることがなかったので、信じられないことでしたし、本当にすごく嬉しかったです! 金馬奨の授賞式では、どこかソワソワしていたのですが、ずっと憧れだった是枝裕和監督にお会いして、ご挨拶することもできました。神様のような存在の監督と同じ場所にいることが、とても不思議な感覚でした。反対に、金像奨の授賞式は知り合いばかりだったこともあり、どこか実家に帰ってきたようなホッとした気分でした。
──いつも現場に持っていくモノ・アイテムを教えてください。
アンジェラ 今、現場に必ず持っていくような私物は特にないです。実はキャンディのキャラを分析や解釈するためのノートを常に持ち歩いていましたが、それをなくしてしまって落ち込んでいるんです。なので、今後はスマホに書き込むことに決めました(笑)。
星くずの片隅で
7月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ポレポレ東中野ほか全国ロードショー
(STAFF&CAST)
監督:ラム・サム
脚本:フィアン・チョン
出演:ルイス・チョン、アンジェラ・ユン
パトラ・アウ、トン・オンナー
(STORY)
2020年、コロナ禍で静まり返った香港。「ピーターパンクリーニング」の経営者ザク(ルイス・チョン)は、車の修理代や品薄の洗剤に頭を悩ませながら、消毒作業に追われる日々を送っている。リウマチを患う母(パトラ・アウ)は、憎まれ口をたたきながらも、たまに看病にくるルイスのことを心配している。
ある日、ザクの元にド派手な服装の若いシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)が職を求めてやってくる。まともな仕事をしたことがなさそうなキャンディだったが、娘ジュー(トン・オンナー)のために慣れない清掃の仕事を頑張り始める。しかしキャンディがジューのために子供用のマスクを客の家から盗んでしまい、ザクは大事な顧客を失ってしまう……。
(C)mm2 Studios Hong Kong
撮影/映美 取材・文/くれい響