本・書籍
2024/6/1 6:30

ちょっ、光源氏ってただのモテ男じゃないの? 大河ドラマと合わせて読みたい『傷だらけの光源氏』

みなさんは『源氏物語』と聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 煌びやかな平安時代を描いた美しい作品、モテモテな光源氏が織りなす恋愛作品、日本が誇る古典文学といったところでしょうか。今年度のNHK大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を主人公にしたものということもあり、書店でも『源氏物語』や紫式部に関連した書籍が多く並んでいますよね。

 

今回ご紹介する『傷だらけの光源氏』(大塚ひかり・著/辰巳出版・刊)は、何度「えっ?」と言ったかわからないほど、『源氏物語』への新しい解釈を与えてくれる一冊でした。『源氏物語』を読んでう〜んと唸った方、大河ドラマから『源氏物語』を読み返し満足している方……、もっと光源氏について知りたくありませんか?

 

『源氏物語』はリアリティを描いた革命的な小説だった!

今回ご紹介する『傷だらけの光源氏』ですが、できれば『源氏物語』を読んでから読むことをおすすめしたい! 登場人物も多いですし、「あ〜モテ男の話か」くらいのレベルだとこの本の面白さを堪能できないからです。

 

学習マンガや小説、教育番組できちんと『源氏物語』のあらすじを把握してから読んでみてください。私も高校生ぶりに源氏物語を読み返してみたのですが、光源氏ってクズでしたね〜(笑)。ただ、大人になってから読む『源氏物語』は最高でした! 平安時代にSNSや週刊誌があったら面白かったのに……とちょっぴり下世話な妄想もしてしまった次第です。

 

ちなみに、『源氏物語』はどんな時代に生まれた小説なのかってご存知でしょうか? 著者の大塚さんは以下のように記しています。

 

『源氏物語』以前の物語の主人公は、天人や動物のパワーを身につけ、文字通りの「超人的な活躍をする」といった設定が主流だったのだ。

だから、彼らは衰えないし、基本的に死にもしない。『古事記』『日本書紀』といった記紀神話は、「歴史書」という建て前で書かれているから、歴代天皇は死んでいくが、「死ぬ」とは言わずに「神になる」と表現している。初期の天皇などは、百二十歳や百四十歳という、べらぼうな長寿とされるケースも多い。

こういう物語を見慣れた当時の人にとって、年もとれば死にもする、奇跡も起こさぬ源氏は、「生身の体」をもった画期的な主人公として、共感を呼んだはずなのである。

(『傷だらけの光源氏』より引用)

 

今でこそ当たり前のことですが、平安時代にこの発想ができた紫式部ってすごすぎる……。当時を思うと、光源氏の恋愛を通じてあーだ、こーだ言うのがきっと楽しかったんだろうなぁとも想像しますが、もしも紫式部が『源氏物語』を書いていなかったら、歴史は大きく変わっていたかもしれませんよね。

 

紫式部が現代にいたらこんな人!

『傷だらけの光源氏』の第一章は「感じるエロス」というタイトルで、源氏物語ではどのようなエロスが描かれていたかが紹介されています。また第二章では、平安時代のリアリティがどんなものであったかが探究されており、時代背景も含めて源氏物語の魅力を掘り下げていくことができます。読み進めていくと「紫式部ってどんな人だったのだろうか?」というのも気になってくるんですよね。その中で思わず笑ってしまったのが、第三章に登場するこの文章でした。

 

こういう記述を見ていると、『紫式部日記』とは、どういう日記なんだろう。紫式部とは、どんな性格の女なのだろう。と不気味に思う。彼女のやっていることというのは、

「私が勤める会社には、こんなに美人がいるんですよ」

と、同僚の女性社員の容姿を詳しくあげつらったうえで、

「でも、彼女たちのほとんどは男性社員とデキているのよね。みんなこっそりやっているから知られずにいるけれど、この私は知っているんだよね」

と日記やブログに書くようなもの。こんなようなことをしている女子社員というのは、ちょっと怖い。

(『傷だらけの光源氏』より引用)

 

現代にもいそう……(笑)。

 

よく紫式部はネガティブだったとかネクラだったと言われていますが、大塚さんのこの表現ですごく合点がいきました。そんな紫式部が書いた『源氏物語』、どんどん読みたくなってきますよね? まだ読んでいない方、今からでも間に合います! 『源氏物語』を読んで、『傷だらけの光源氏』で理解を深めていきましょう。

 

本当に光源氏はいたのでは? と思える不思議

ネタバレも何もないのでお伝えしてしまいますが、美男子として生まれた光源氏は、たくさんの女性と恋をしていきますが、誰かひとりと人生を添い遂げるような感じではなく、後悔ばかりしながらひとりぼっちで暗い晩年を過ごします。これだけ聞くと「辛い恋愛だったのね〜」と同情してしまいますが、『傷だらけの光源氏』を読むことでなぜ、そんな主人公にしたのか? 登場する女性たちに託されたものや、紫式部が抱えてきた思いについても深く知ることができます。

 

今まで「『源氏物語』は平安時代に創作された恋愛小説」と思っていましたが、『傷だらけの光源氏』を読んでからは「平安時代のリアルを詰め込んだ恋愛ドラマ」と思うようになりました。光源氏も実在したのでは? と思ってしまうし、紫式部が描きたかったこともより理解が深まりました。

 

大河ドラマで紫式部に感情移入しつつ、どんな時代背景で『源氏物語』を書いていたのか、より詳しく知りたい人には『傷だらけの光源氏』が本当におすすめです。個人的にはゴシップ好きな人にも源氏物語と合わせて読んでほしい……(笑)。当時の恋愛模様がリアリティをもって感じられるはずですよ!

 

【書籍紹介】

傷だらけの光源氏

著者:大塚ひかり
発行:辰巳出版

2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公・紫式部が生み出した、日本古典文学の傑作「源氏物語」。本書は、「源氏物語」の全訳本も刊行し、『本当はエロかった昔の日本』『女系図でみる驚きの日本史』『くそじじいとくそばばあの日本史』といったヒット作品も多く執筆している古典エッセイスト・大塚ひかり氏による“源氏物語”論になります。 登場人物の「カラダ」と「ココロ」に着目し、あふれるストレス死、モノのように扱われるカラダ、拒食に走る女性、モラハラ男とホモソーシャル社会…といった現代社会にも通じるリアルな世界として「源氏物語」を捉え直していきます。『光る君へ』がより楽しくなるのはもちろん、新しい視点で「源氏物語」を楽しむことができる一冊です。

※本書は、2002年に刊行されたちくま文庫『カラダで感じる源氏物語』を改題のうえ、大幅加筆修正したものになります。

楽天ブックスで詳しく見る
楽天koboで詳しく見る
Amazonで詳しく見る