もう「中古」とは呼ばせない!家電リファービッシュ工場で感じたパナソニックの揺るぎない自信

ink_pen 2025/8/3
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もう「中古」とは呼ばせない!家電リファービッシュ工場で感じたパナソニックの揺るぎない自信
倉本 春
くらもとはる
倉本 春

テクニカル・フリーランスライターとして、家電製品の紹介と解説を中心に執筆。PC誌編集経験を生かし、テクニカル面からの製品紹介を得意とするほか、カフェのオーナーシェフの経験を生かした調理家電の使いこなし術やレシピ提案も得意とする。

家電を使い終わったあと、それがどこへ行くかを意識したことがあるでしょうか? 故障や返品、モデルチェンジによって役目を終えた家電たち。これらの製品は意外な形で「第二の人生」を歩んでいるかもしれません。

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(以下、パナソニック)は、2022年4月からリファービッシュ事業「Panasonic Factory Refresh(パナソニックファクトリーリフレッシュ)」をスタート。リファービッシュとはメーカーや販売業者が回収した製品を、整備して再販・再利用することです。とはいえ、一度人の手に渡った家電は不安という人も多いでしょう。そこで、今回はパナソニックのリファービッシュ事業拠点である宇都宮工場を取材。メーカーに返された家電を再検査・修理・クリーニングする様子を見学してきました。

↑リファービッシュの現場であるパナソニックの宇都宮拠点。リファービッシュ事業以外に家庭用ロボット「NICOBO」などもここで生産。手前の植栽はよく見るとNICOBOの形。

家電の再生現場であるパナソニックの宇都宮工場へ

物価高騰や地球環境問題が叫ばれるなか、パナソニックが2024年4月からスタートしたのが、回収した製品を自社で再生して販売、あるいは定額利用サービスに活用する「Panasonic Factory Refresh」という取り組みです。現在パナソニックがリファービッシュ事業で手掛ける家電ジャンルは13カテゴリー。今回見学する栃木の宇都宮工場では、なかでも洗濯機/テレビ/ブルーレイディスクレコーダー/ポータブルテレビ/一眼カメラ/食器洗い乾燥機/次亜塩素酸 空間除菌脱臭機の7品目を取り扱っています。どの家電もこのリファービッシュ工場で機器の状態を検査し、不良箇所を修理。さらに外観の磨き直しや徹底したクリーニングを行ったあと、最終検査を経て「再生品」として再出荷されます。

↑工場入り口にはドラム式洗濯機を分解したものを展示。1台で約700〜800点ものパーツがあり「壊れた→捨てる」ではあまりにももったいない!

テレビは「パナソニックが想定している色」になっているか?

最初に見学したのはテレビのリファービッシュ工程。まずは回収されたテレビの不具合をチェック。実はこの宇都宮工場はもともとテレビを主に生産する工場だったため、テレビ生産に関する高い技術をもっています。しかし、リファービッシュとなると持ち込まれる製品のサイズも型番も年代もバラバラ。しかも、製品ごとに故障個所が異なるため、量産ラインとは異なる一台ごとの対応が求められます。

↑リファービッシュ工場に集められたテレビ。現在は約2年前までのテレビに対応。今後は対応できるモデルも増やしたいとのことでした。

作業者はまず、電源が入るかどうか、音が正常に出ているか、HDMIなどの入出力端子が正しく動作しているかといった基本動作を確認。そのうえで、必要に応じて部品の交換や、外装のクリーニング、パネルの細かな傷のチェックなどを行います。現場ではテスト用の映像を再生しながら画面のムラやにじみなどを目視で確認していく様子も見られました。

↑持ち込まれたテレビの液晶パネルチェック光景。不具合がわかりやすい特殊な画像を次々と再生。一度に複数の画面がチェックできるようになっています。

パナソニックの強みは、生産メーカーだけに純正部品が入手しやすいこと。また、一般的な修理現場では壊れた部品を交換するのが主流ですが、ここでは基板単位での修理対応も可能です。不具合の原因によっては、熟練の技術者が必要に応じて基板上の電子部品とはんだを除去し、再度クリーニング・取り付けまでができるのです。

↑LSIを外した状態の基板。一般的な修理現場では、ここまでの修理はなかなかできません。
↑製品によってはテレビ画面表面のフィルムを削って新しく貼りかえる工程も。ここまでくると新品を生産したほうが楽そうですが、「使える資源を無駄にしない」というパナソニックの強い意思を感じます。

修理後のテレビは、全ての製品が生産工場と同レベルの検査を通したあとに出荷。検査のなかには暗室を使ったホワイトバランス調整といった本格的なものまであります。これはテレビで表示される白色が「パナソニックが想定している色」であるかをチェックする項目。テレビが「故障していない」のではなく、パナソニックの考える「高い品質で映る」ところまでを保証しているのです。

↑暗幕のなかではテレビで再生した色が「パナソニックが考える色」であるかを一台ずつチェック。光の影響を排除することで、微細な違いも見逃しません。

製品ごとに異なる「リファービッシュ」のアプローチ

ここまでテレビの再生現場を紹介しましたが、もちろん製品カテゴリーが異なればリファービッシュの工程も変わります。

たとえば、一眼カメラのリファービッシュにおいては、カメラとして正常に動くかといった基本性能以外の調整が重要です。清掃の際は、見た目にかかわる外装だけではなく、センサーやレンズ内部までチェック。レンズ内にホコリひとつ入っても不良となるため、カメラ内部の掃除には気圧を調整したクリーンルームまで用意し、熟練の作業者が顕微鏡や専用機器を使って作業をします。

↑こちらはカメラレンズの光軸確認などを行うブース。レンズの焦点距離が異なっても検査できるように、カメラを吊り下げて移動できる特殊な構造を採用。幅広いモデルに対応できる検査環境もリファービッシュならではです。

一方、ドラム式洗濯機や食洗器といったカテゴリーは、経年使用による劣化への対応を重視しているのが特徴です。このため、消耗部品の交換や内部清掃が重要になります。たとえば、ドラム式洗濯乾燥機は乾燥回数が増えると乾燥効率が落ちやすくなります。その原因となるのが、ヒートポンプに付着するホコリなどの汚れ。リファービッシュ工程では、家庭では掃除が難しいヒートポンプを取り出して専用ツールで清掃します。そのほか、汚れやすい経路まですべて清掃したら、機械で乾燥効率が回復していることをチェック。最終的に量産品並みのクオリティになるように整備します。

↑本体内からヒートポンプを取り出して物理的にブラシで洗浄。汚れによってさまざまな洗剤を使い分けています。
↑水を使う製品だけに、水漏れや漏電などの安全検査も重要。動作中の消費電力のチェックまで行われていました。

技術力があるからこそ「見せる」再生工場に

筆者はこれまでにも多くの工場を見学してきましたが、リファービッシュの現場となる宇都宮工場は明らかに「一般的な工場」とは違います。まず、建物に一歩入った瞬間に感じる木の香りと、広々とした構造のエントランス。実は、このリファービッシュ工場は「見学される」ことを意識した構造になっているのです。

↑地元栃木県産の木材や建材を贅沢に使用したエントランス。奥にはこのリファービッシュ工場で取り扱っている7ジャンルの家電が並んでいます。見学の予約はこちらから可能です。
↑工場内には一休みできる休憩スペースまで用意されています。

一般的に再生品には「中古」という印象を持たれがち。そこで、パナソニックはメーカーの丁寧な整備を実際に見てもらい、こういったマイナスイメージを払拭してもらうために本工場を見学の受け入れがしやすい設計にしたそうです。この工場の存在こそ、同社のリファービッシュ製品に対する揺るぎない自信の表れともいえます。

↑製品によってはもちろん傷などが消せないものも。そこで、同社は外観・商品の庫内/洗濯槽内など・製造年・使用時間/回数・臭気の5項目に独自基準を設け、総合的に判断してA~Cといったランクを付けて販売しています。

家電メーカーのリファービッシュは、顧客にとっては安価でメーカー1年保証付きの信頼できる製品が手に入り、メーカーにとっては環境貢献とブランド価値の向上につながり、地球にとっては廃棄物削減となるまさに「三方良し」の取り組み。実際「Panasonic Factory Refresh」で取り扱われているリファービッシュ製品は人気が高く、掲載後すぐに売り切れてしまうモデルも多いそう。こうした取り組みがパナソニックのみならず、他メーカーにも波及していくことを期待したいところです。

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