Beats by Dr. Dreから待望の完全ワイヤレスイヤホン「Powerbeats Pro」が発売されます。2014年7月にAppleファミリーの一員になったBeats by Dr. Dre(以下:Beats)が、Appleの最新Bluetoothオーディオ用チップ「Apple H1」を載せて完成させた、初のワイヤレスイヤホンの魅力をプレジデントのルーク・ウッド氏にインタビューしました。
一番人気のワークアウト用イヤホン「Powerbeats」を完全ワイヤレス化した
昨年にアップルの「AirPods」が大ヒットしたことで、左右独立筐体の完全ワイヤレスイヤホンが一段と注目を浴びています。反面、完全ワイヤレスイヤホンは音楽プレーヤーであるスマホとのペアリング方法がわかりづらかったり、ワイヤレス伝送時に音切れやノイズが発生することもあるため扱いが難しいという声も聞こえてきます。また左右の本体を結ぶケーブルがないので装着感が不安定に感じられたり、内蔵するバッテリーを充電する手間がもう少し軽減されてほしいと思うことが筆者もよくあります。Powerbeats ProはApple H1チップを搭載したことで、これらの「完全ワイヤレスイヤホンが持つ弱点」と言われるポイントをことごとく克服しています。
Beatsの新しい完全ワイヤレスイヤホンは、その名前とルックスからもわかる通りワークアウト用イヤホンの人気モデル「Powerbeats」シリーズをベースに開発されています。Beats初の完全ワイヤレスイヤホンが同シリーズから登場することになった背景について、ウッド氏はいま完全ワイヤレスイヤホンが、あるいはワークアウト用イヤホンが世界中で急激に伸びているため「ワークアウト用イヤホンの中でNo1の人気を誇るPowerbeatsシリーズを完全ワイヤレス化する絶好のタイミング」がやってきたためであると述べています。
その外観は一見するとBluetoothワイヤレスイヤホンの「Powerbeats3 Wireless」から、左右の本体をつなぐケーブルを取り除いただけのように見えるかもしれませんが、実は「まったく新しいサウンド、装着感が得られるようにゼロベースで新規開発したイヤホン」なのだとウッド氏が説いています。どこが大きく変わっているのでしょうか。
音が良くなった新開発のドライバーを搭載
まずPowerbeats Proは音質が徹底的に強化されています。本機にはBeatsが新しく開発した「リニア・ピストニック・ドライバー」と名付けた12mm口径の大型ダイナミックドライバーが搭載されています。一般的なイヤホンに多く採用されているポリマー樹脂素材の振動板では難しい、振動板全体に渡って平行で均一なピストンモーションを可能にしたことで、音の歪みにつながる分割振動を排除。広帯域に渡って滑らかで、一体感あふれる力強いサウンドを実現しています。
ハウジング内部はドライバーの動きを正確にコントロールするため、ノズルの根元には小さなベンチレーションホール(小さな空気の通り道)を設けて、さらにハウジング上部には6mmの溝を配置。ドライバーの前面・背面チェンバーのエアフローを最適化しています。これにより安定した力強いピストンモーションを引き出し、特定の帯域に偏ることなくレスポンスと切れ味の良いサウンドを再現します。
筆者もiPhone XRとPowerbeats Proの組み合わせによるサウンドをいち早く体験しました。Beatsが2008年に「Beats Studioオーバーイヤーヘッドホン」を初めて発売して、注目を集めた頃の存在感たっぷりな低音は見違えるほど洗練されています。タイトでスピード感の豊かな低音が音楽の足場を固めて、ボーカルなどミドルレンジは伸びやかに、そしてクリアできめ細かな高域が一体感のあるリアルな音楽を再現します。音場の見晴らしがとても良く、生々しい没入感あふれる演奏にぐいぐいと引き込まれてしまいました。
ウッド氏はPowerbeats Proの音をチューニングする際に意識したポイントについて次のように語っています。
「現在の最先端のオーディオ技術を駆使すれば特定の音域を強調したり、有線イヤホンに負けない解像度の高いサウンドがBluetoothのワイヤレスイヤホンでも実現できます。ただBeatsの場合は技術に依存することなく、あらゆるソースから感動を引き出せる音楽性の豊かなオーディオをつくるコンセプトを最も大切にしています。Powerbeats Proでも、Beatsがモットーとしている録音スタジオの空気感までもリアルに再現する、正確でバランスの良い音づくりを目指しました。」(ウッド氏)
イヤーフックスタイルが安定した装着感と心地よいリスニング感を引き出す
Powerbeats Proも、2010年に誕生したPowerbeatsシリーズのデザインを踏襲するイヤーフックスタイルを採用しています。シリコン製のイヤーフックはしなやかに曲げられる硬さと柔らかさのバランスがとても良く、耳元に心地よく収まるフィット感を実現しています。イヤーフックがとても細身なので、筆者はメガネの上から身に着けても不快に感じませんでした。
ボディの形をPowerbeats3 Wirelessと比べると、Powerbeats Proはボックス部分の形状が緩やかにカーブしています。耳に装着すると優しいフィット感が得られるところが特徴的です。ノズルがやや斜めに傾いているので、イヤーピースを耳の奥深くまで入れてしっかりと固定できます。
Powerbeats Proにはイヤーフックがあるおかげで、体を激しく動かすスポーツシーンで音楽を聴きたい時にも抜群に安定した装着感が得られます。それだけでなく、もう一つ大きなメリットがこのイヤーフックにはあるのだとウッド氏が説きます。
「イヤホンはイヤーピースを付けたノズルを正しい角度で耳に装着した時に、ベストな音楽リスニングが楽しめるように設計されています。耳栓型の完全ワイヤレスイヤホンはコンパクトで持ち運びの面に優れていますが、イヤーフックがあればさらにノズルの角度をいつも最適なリスニングポジションに固定したまま、音楽が聴ける利点が活かせます。」(ウッド氏)
デザインをブラッシュアップする段階では、Appleのエルゴノミクス(人間工学)デザインを研究するチームのノウハウも活かされました。Appleのチームが長年に渡って研究してきた耳型のサンプルデータを元に、コンピューターで最適な形状を解析。Powerbeatsの伝統的なデザインをベースに、20パターンを超える試作が繰り返されました。特にハウジングの形状については、外耳の耳珠の少し上にある「Crus Helix=耳輪脚」と呼ばれる部分にハウジングが当たり続けることによって痛みにつながることが多くあるため、その形状を見直して装着感を高めることに腐心してきたそうです。「さらにBeatsとAppleから参加した多くのスタッフが試着評価試験を繰り返して、完成度を練り上げてきました。その結果、新しいPowerbeats Proは本体に多くのイノベーションを詰め込みながら、従来のモデルよりもイヤホン本体が約17%も軽くなったほか、約23%のサイズダウンを同時に図っています」と、ウッド氏は誇らしげにアピールします。
パッケージに同梱されるイヤーピースも素材や形状にも改良を加えています。エッジの形状に丸みを持たせて薄肉化も行い、装着感を向上させています。イヤーピースが耳の奥まで挿入できることから遮音性も高いのが特徴です。筆者はイヤホンを身に着けている感覚を意識しないですむほど、Powerbeats Proは耳穴にイヤーピースが当たる感覚が大幅に軽減されていると感じました。
接続性がAirPodsと同じぐらい簡単
完全ワイヤレスイヤホンの良し悪しはスマホとのペアリングが簡単にできるかどうかにもかかっています。これはiPhoneやiPadなどのiOSデバイスと簡単にペアリングできるアップルの「AirPods」が、多くのファンに支持されていることが証明しています。
AirPodsの場合、最初のペアリング時にケースのフタを開けて、ケース背面のボタンを長押しすると自動的にペアリング設定が始まります。あとはiPhoneの画面に表示されるアニメーションガイドの指示に従っていくとわずかなステップで接続が確立されます。
Powerbeats Proの場合も手順はAirPodsとまったく一緒。iPhone、iPadとの組み合わせでとても簡単に機器どうしをペアリングできます。各モデルが内蔵するApple H1チップによる革新的に便利な使い勝手は、このほかにもユーザーのiCloudアカウントにひも付けられているiOSデバイスどうしで迅速なペアリング切り替えができたり、リスニング中の音切れやノイズが低く抑えられること、驚くほど遅延の少ない音声信号伝送にまで広く及んでいます。
Apple H1チップを搭載したことで、イヤホンの駆動時消費電力が大幅に効率化されています。Powerbeats Proはイヤホン単体で約9時間、ケースを併用すれば約24時間の連続再生に対応しました。ウッド氏は「この壮大なスケールのバッテリーが、イヤホンの電池切れからユーザーの皆様を解放してくれるはずです」と述べています。
Fast Fuel機能による急速チャージも便利。バッテリーが尽きている状態から約5分間の充電で約1時間半の音楽リスニングが楽しめます。筆者は同機能を備えたワイヤレスイヤホン「BeatsX」を使用していますが、ジムでスポーツを始めたあとにイヤホンの電源が切れることがとても怖いので、毎度少し充電してから出かけるようにしています。出かける前に着替えている時間のあいだ、コンセントにさしておけばバッテリー切れの不安におびえなくて済みます。また、約15分間充電すれば4時間半のリスニングが楽しめるので、通勤・通学の往復時間もカバーできてしまいます。
ユーザーを迷わせないリモコン操作
筆者は物忘れが激しい方なので、完全ワイヤレスイヤホンのリモコン操作を覚えられないこともよくあります。特に多機能なイヤホンが、左右それぞれのイヤホンにボタン操作を振り分けていると覚えきれません。ウッド氏はPowerbeats Proではリモコン操作のインターフェースがユーザーに馴染みやすいように設計することにも力を入れてきたと語っています。
Powerbeats Proの場合、イヤホンの左右両側に配置されているブランドロゴがボタンになっていて、音楽の再生・一時停止、スキップなどのコントロールと通話応答の操作が行えるようになっています。そして筐体の上側には音量のアップダウンを操作するボタンがあります。左右イヤホンのどちら側のボタンをクリックしても同じ操作ができるので迷うことがありません。
本体に内蔵されている光学センサーが耳に触れていることを感知して、着脱の際には自動的に音楽の再生・一時停止と通話の開始と終話をコントロールします。さらに一定時間イヤホンが使用されていないと、内蔵されているモーションセンサーが判別して自動的に省電力モードに切り替わります。
通話品質を高めるため、左右のイヤホンそれぞれに向きを変えて2つのビームフォーミングマイクを載せています。周囲の環境音に含まれるノイズをフィルタリングして、人の声だけをクリアに聞こえるようにアルゴリズムも最適化しているそうです。
カラバリも豊富
Powerbeats Proでは防水・防滴性能をうたっていませんが、アップル独自の厳しい品質基準による耐久テストを行い、激しく体を動かすスポーツシーンで使っても安心の耐汗・防沫性能を実現しています。
カラーバリエーションはブラック/アイボリー/ネイビー/モスの4色。Apple H1チップを搭載する完全ワイヤレスイヤホンにも一気に沢山のカラバリの選択肢が増えて嬉しい限りです。
実機をひとつずつ見てみると、ブラックはやはり安定の高級感です。アイボリーはブラックのブランドロゴが映えて、男性のシックな装いにも意外に合いそう。モスはカーキに近く、カジュアルな装いにマッチするでしょう。そしてかなりブラックに近い深い色のネイビーはいままで完全ワイヤレスイヤホンになかったカラー。スポーツウェアに合わせやすそうです。筆者は発売されたらネイビーかモスを買いたいと思います。
どのカラバリのモデルも充電ケースはブラックに統一されています。そして充電にはLightningケーブルを使います。
Powerbeats ProはAirPodsにとって最強のライバルになる
ウッド氏はBeatsとAppleがそれぞれに積み上げてきたオーディオ開発のテクノロジーとノウハウが、Powerbeats Proでようやく目指してきた高い領域に統合されたことを実感して、とても満足していると語っていました。
「BeatsとAppleのオーディオ開発のプラットフォームを一つに統合するために、4年以上の長い時間をじっくりとかけてきました。R&Dから技術開発、プロダクトデザインや製造の面など様々なチームの仕事がスムーズに連携するように、ワークフローを整えることは簡単ではありませんでしたが、すべては最高の製品を多くの音楽ファンの方々にお届けするため、ひたむきに努力してきました。その甲斐あって、遂に私たちが自信を持ってお届けできる完全ワイヤレスイヤホンが完成しました」(ウッド氏)
ウッド氏は今後もBeatsとして、最も大事にする「最高のサウンド」をブレることなく追求しながら、操作性・機能性・デザインを含めて全ての要素に高いレベルを追い求めていきたいと強く意気込みを語っていました。
筆者は新しく発売されたアップルの「AirPods」も普段良く使っていますが、地下鉄やバスの中で静かな音楽を聴く時にはもう少し遮音性がほしいと感じることがあります。そして、満員電車に乗ってスマホをバッグに入れてしまった後は、音量のコントロールはイヤホン側でしたくなる時があります。人混みの中でHey Siriを起動して音量を調節する勇気をまだ持てません。さらに満員電車の中ではやはり、イヤーフックが付いている完全ワイヤレスイヤホンの方が身に着けていて安心できるし、スポーツシーンでもタイトなフィット感が得られる方が集中力も高めやすくなります。Powerbeats Proはカラフルな色も選べるのでとても楽しみです。
iPhoneとの組み合わせで最強の操作性・機能性を実現するApple H1チップ搭載の完全ワイヤレスイヤホンに、最強の選択肢がまた一つ増えたことを大いに歓迎したいと思います。今年の夏はBeatのロゴを冠した完全ワイヤレスイヤホンを身に着けた多くの音楽ファンが街中にあふれそうですね。