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2019/8/5 21:00

平成を代表する一眼カメラの入門機「EOS Kiss」は令和をどう生き抜く? 最新モデル「EOS Kiss X10」レビュー

平成の時代が終わろうかという2019年4月25日、キヤノンからエントリー一眼レフカメラ「EOS Kiss X10」が発売されました。本機はバリアングル液晶モニター搭載一眼レフで“世界最軽量”(発売時点)となるモデルで、前モデルのEOS Kiss X9よりも高感度や連写に強く、AFも高速。それでいて初心者にも使いやすい操作性をもつという注目機種です。そこで本稿では、平成時代の代表的一眼カメラといえるEOS Kissシリーズの歴史を振り返りつつ、本機の特徴や魅力、さらには、ミラーレスカメラが注目を集める現在にあって、伝統的な一眼レフを選ぶメリットなどについても考えたいと思います。

↑一般に一眼レフはミラーレスカメラに比べると重量や大きさの面では不利になるが、EOS Kiss X10はボディが約449g(バッテリー・カード込み)と軽量で、幅や高さ、厚みも一眼レフとしては抑えた設計になっている。実売価格(税別)は7万7500円(ボディ)、8万7500円(レンズキット)、11万7500円(ダブルズームキット)

25年以上の歴史をもつキヤノン「EOS Kiss」シリーズ

EOS Kissシリーズは実に25年以上の歴史をもつ人気の定番エントリークラスカメラ。時代ごとに新しい技術を一般に広く浸透させてきた名シリーズでもあります。ここからは簡単にその歴史を振り返ります。

 

初代の「EOS Kiss」は1993年(平成5年)の9月に発売されました。当時はまだフィルムカメラの時代で、発売時点では世界最小・最軽量のAF&マルチモードAE搭載の35mm一眼レフカメラでした。親しみやすい「Kiss」という愛称を用いたことで、いわゆるカメラ愛好家ではない、ファミリー層にまで支持されました。

↑初代EOS Kiss。プログラムAE、絞り優先AEやシャッタースピード優先AE、マニュアル露出などを備えたマルチモードAF一眼で、ボディは約370gと非常に軽量。そのためプロの予備機として使われるケースも少なくなかった

 

その後およそ1~2年おきに改良を重ね、AFの高速化や高精度化、多点測距化、測光の高精度化、シーンモードの充実やカスタム機能の搭載など、さまざまな点が進化。2003年(平成15年)には同シリーズ初のデジタル一眼レフ「EOS Kiss Digital」が登場しました。本機は約630万画素のAPS-Cサイズセンサー採用の本格派でありながら、質量560gという軽量ボディとキットレンズ込みで10万円台前半という低価格により人気を博し、デジタル一眼レフを一般に広く普及させました。

↑初代EOS Kiss Digital。当時の上位機種、EOS 10D同様の約630万画素APS-Cサイズセンサーや画像処理エンジン「DIGIC」を採用。APS-Cサイズ専用のEF-Sレンズに初対応し、小型のキットレンズ「EF-S18-55mm F3.5-5.6 USM」も用意された

 

デジタル時代のEOS Kissシリーズは、その後も毎年のように新モデルが登場します。そうしたなか、2012年(平成24年)登場の「EOS Kiss X6i」以降は、機能を重視したEOS Kiss X iシリーズと小型軽量なEOS Kiss Xシリーズに分化。エントリーユーザーはもちろん、中・上級ユーザーまでを対象とした大人気シリーズに成長し、今日に至っています。このほか、2018年(平成30年)には、EOS Kissシリーズ初のミラーレスカメラ、「EOS Kiss M」も登場しています。

↑EOS Kissシリーズ初のミラーレスカメラとして大きな注目を集めた「EOS Kiss M」。ミラーレス構造のため、さらに軽量コンパクトとなっている。実売価格(税別)は6万9500円(ボディ)

 

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さて、ここまでEOS Kissシリーズの歴史を駆け足で見てきましたが、今回の「EOS Kiss X10」は、主にエントリーユーザーを対象としたEOS Kiss Xシリーズの最新モデルで2017年(平成29年)登場の「EOS Kiss X9」の後継機種。“世界でいちばん、小さい、かるい。”という初代EOS Kissのキャッチフレーズを正統的(あるいは伝統的)に引き継いでいることが実感できる、軽快な一眼レフです。

 

EOS Kiss X10の使い勝手をチェック!

ではここからは、EOS Kiss X10の機能や性能、使い勝手などをチェックしていきましょう。

 

まず外観上の特徴は、一眼レフとしては非常に小ぶりなボディながら、背面モニターがバリアングル式である点が挙げられます。これにより、ライブビュー時の撮影アングルが自在であるのはもちろん、軽量ボディを生かしてのセルフィー撮影なども可能。また、動画撮影(本機はKissシリーズの一眼レフとしては初の4K動画撮影にも対応)が行いやすいのもバリアングルモニターの魅力です。

↑背面モニターは、ワイド3型で約104万ドットのバリアングル式を採用。タッチ操作やタッチAF、タッチシャッターにも対応する

 

ボタンなどの配置は、前モデルの「EOS Kiss X9」に準じたシンプルな配置ですが、撮影モードダイヤルの項目数を減らしたり、Wi-Fiボタンを廃止したりするなど、外観上はさらにシンプルな構成になっています。機能的にはタッチパネル採用の背面モニターで機能を呼び出せるぶん、ボタンなどは撮影や画像確認時などに本当に必要なものに絞られている印象で、結果的に操作も行いやすくなっています

 

加えて、背面モニターに撮影モードの解説が表示される「撮影モードガイド」、設定ごとの効果や注意点についてのイラストや解説文が表示される「撮影画面表示」などの「ビジュアルガイド」機能も充実していて、初心者でも快適に、かつ機能の使い方を理解しながら使えるようになっています。

↑ボタンやダイヤルは、MENUとINFOボタン以外は右手側に配置。右手だけの操作で撮影時に必要な操作が行える。ただし、電子ダイヤルを1つしか備えておらず、露出補正などは「ボタン+ダイヤル」の2アクションでの操作が基本。そのためファインダーを覗いたまま操作する場合は、露出補正やISO感度、AFフレーム選択ボタンなどの位置を覚えておくと素早く操作できる

 

↑撮影モードをシャッタースピード優先AEに設定したときの「撮影画面表示」の例。シャッタースピードを遅くした場合(上)の効果や注意点が、テキストで解説されている

 

EOS Kiss X10の撮影性能をチェック!

撮影性能的には、映像エンジンが最新の「DIGIC8」になった影響が大きく、連写時の連続撮影枚数や高感度撮影時の画質が向上しています。また、キヤノン独自の像面位相差AFである「デュアルピクセルCMOS AF」が進化し、ライブビュー撮影時には、実に画面の縦約100%、横約88%の広いエリアでAF撮影が行えるようになりました。

 

連写に関しては、約5コマ/秒である点は従来機同様ですが、連続撮影枚数がRAW+JPEG(ラージ/ファイン)でX9の約6コマから約9コマにアップ。2秒弱(約6コマだと1秒強)の連写が可能になり、動く被写体を捉えやすくなりました。2秒というとかなり短く感じるかもしれませんが、2秒間連写し続けるシーンというのは実際にはあまりなく、1秒弱の連写を繰り返すケースのほうが多いと思います。そうした使い方なら、高速なメモリーカードを使うことで、ほぼ書き込み待ちなしに数秒間は連写できます。それでも足りない場合は、JPEGだけにすればメモリーカードの容量いっぱいまで連写可能です。

↑試しにJPEG/ラージ・ファイン+RAW(CR3)で電車を連写し続けてみた。上の写真は連写を始めて9カット目の写真。その後速度が低下したり不安定になったりしながらも、連写開始4秒後でも約3コマ/秒、6秒後でも約2.5/秒程度で撮れていた

 

高感度性能については、常用で最高ISO25600である点は変わりませんが、ISO12800や25600の超高感度で撮影しても、これまで以上に画質的な破綻なく撮ることができます。AFも十分に高速で、ファインダー撮影時はもちろん、ライブビュー撮影でもピント合わせが遅いと感じることはありませんでした。タッチシャッターもタイムラグがかなり少ないので、瞬間を逃さず撮れるでしょう。

↑ダブルズームキットの望遠ズームを用い、250mmで撮影。絞りを開放のF5.6に設定して、ボケ効果を狙った。Kissシリーズは代々キットレンズも優秀で、このレンズもその価格からは考えられない極めてシャープな写りが得られる。色再現も自然で美しい

 

↑同じく、望遠ズームの250mmで近接撮影。最短約85cmまで近寄れ、0.29倍というマクロレンズ並みの倍率で撮影できる

 

↑露出補正を-1.3にして、蒸気機関車の黒光りするさまを狙った。質感や階調が見事に再現された

 

↑イルカのジャンプシーン。感度をISO12800まで上げることで、F5.6 1/2000秒の高速シャッターで撮影できた。イルカの動きや、水しぶきが止まって写っている

 

↑暗闇で青く照らされるクラゲ。こうした暗いシーンでもISO6400以上の高感度なら十分なシャッター速度が確保でき、ブレなく撮影できる。ISO12800に設定し、F8 1/320秒で撮影

 

いま、ミラーレスではなく一眼レフのEOS Kiss X10を選ぶメリットは?

ここまでで見てきたように、EOS Kiss X10はかなり使いやすく、機能・性能的にも過不足のない優秀な一眼レフカメラといえますが、最近注目を集めているミラーレスカメラが気になる方も多いと思います。特にキヤノンの場合、同じEOS Kissシリーズによりコンパクトなミラーレスカメラ「EOS Kiss M」が存在しています。では今、エントリークラスの一眼レフを選ぶメリットはどういった点にあるのでしょうか?

 

まず考えられるメリットとしては、「適度な大きさである」ことです。ミラーレスカメラはボディを小型化しやすいので携行性は高いのですが、ボディが小さいとグリップなども小さくなり、撮影時に持ちにくくなってしまうことも少なくありません。その点、EOS Kiss X10なら、適度な大きさでグリップもしっかりしていて持ちやすくなっています。

 

次に、一眼レフの最大の特徴である、光学式のファインダーが使える点が挙げられます。ミラーレスカメラの電子ビューファインダー(EVF)も進化は著しいですが、低価格帯のモデルのなかには表示タイムラグが長いものや、画面がクッキリと見えないものもあります。その点、光学式ファインダーなら、少なくともタイムラグの問題はありません。ただし、EVFではホワイトバランスや明るさなどの調整が反映された、撮影画像に近い表示を確認できるというメリットがあるので、これは一長一短があるポイントといえます。

 

そして、同じKissシリーズ内で比べるとするならば、交換レンズの豊富さも大きなメリットでしょう。EOS Kiss X10は同社が長年作り続けてきた豊富な一眼レフ用レンズ(EFレンズやEF-Sレンズ)を使用可能ですが、まだ歴史の浅いミラーレスカメラのEOS Kiss Mの場合、対応する同社の専用レンズ(EF-Mレンズ)は現時点で7本と万全ではありません。ただし、アダプターを使えばEOS Kiss MもEFレンズやEF-Sレンズを使うこともできます。

 

一眼レフのEOS Kiss X10、ミラーレスのEOS Kiss Mそれぞれに利点があるので、購入を検討する際は以下の記事も参考にしてもらえればと思います。

初めての一眼カメラにおすすめなのはどっち?「EOS Kiss X10」と「EOS Kiss M」を比較してみた

 

【まとめ】完成度を高めた“安心の定番モデル”

EOS Kiss X10は、内容的には従来モデルの正常進化機といえますが、連写などの基本性能が高くなっているため、操作性は従来モデルとほぼ同じでも、使い勝手が向上しています。特に連写や高感度、AFは、動く被写体を失敗なく撮るのに重要な性能であり、また一歩、究極のエントリー一眼レフに近づいた印象です。

 

ミラーレスカメラが注目を集めるなかでも、信頼性やトータルコストなどの面で優位性を保つ“安心の定番モデル”といえるでしょう。