先日、遅ればせながら4DXで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観てきました。列車の動きに合わせてシートが動いたり風が吹いたり、刀の振りに合わせて飛沫が舞ったりと、臨場感たっぷりで面白かったです。マスクをしていたのでわからなかったけど、桃の香りなどなども流れるとか。劇場設備が映像として映っているものを劇場の設備があれやこれやと補足してくれました。
というところでふと気づいたんです。
「……もしかして、これに視覚障害者向けに状況を説明してくれる「音声ガイド」をつけたら、言葉と体感で、映像をかなり把握できるのでは……?」
音声ガイドは、スマホのアプリで簡単に手に入ります。いくつか種類がありますが、「HELLOW! MOVIE」というサービスが『鬼滅の刃』のガイドを提供しているので、それを使って今度はMX4Dを観にいってみました。
「HELLOW! MOVIE」の使い方は簡単。まずは自宅でアプリを立ち上げ、目的の映画の音声ガイドをダウンロードしておきます。その後待機画面になるので、そのまま映画館に行きイヤホンをつけるだけ。映画の本編が始まると、自動的にガイドを始めてくれます。
さて私は最初、とにかく音声ガイドが新鮮でした。画面に書いてある文字は「東宝」「アニプレックス」「鬼滅の刃」などとイケボで読み上げてくれます。状況説明は、簡潔&端的です。「林の中」「走る列車、前方に山」「猪之助の鼻息」など、セリフのない瞬間を狙って淡々と補足してくれます。このタイミングはもちろん絶妙だし、音で状況がわかることは説明しないし、後に必要になることや注目するべきポイントを的確にガイドしてくれます。
実際に4Dと音声ガイドの組み合わせは視覚に障がいがある方にはどう感じるのか。弊社「ブラインドライターズ」のメンバーである全盲の西井一博さんにも体験してもらいました。すでに『劇場版 鬼滅』は、音声ガイドなし、通常の映画館では鑑賞済みで2回目の鑑賞となります。
「音声ガイドは4Dの色々な演出と連動しているようにすら感じられました。例えば、シーンが変わるところは、音や登場人物の声が変わることでガイドがなくても理解できます。しかし、鬼が列車の屋根にいることは初回に観たときはわかりませんでした。そこに4Dの演出が加わると、列車の外シーンになると風が吹き、キャラクターがどんな場面にいるのかがわかりやすくなるのです。猪之助が天井を突き破って出てくるシーンも初回は理解していませんでしたが、ガイドの音声とシートの振動によって、何が起こっているのかが具体的にわかりました」(西井さん)
場面の演出以外にも、音声ガイドは回想シーンでも役立ちます。ある回想シーンでは、「隊服の炭治郎。いつもの格好だが木箱は背負っていない」などと説明してくれるのです。これだけで少なくとも通常シーンとは少し状況が違うことがわかりますよね。普段なら見逃してしまうような細かい変化を中心に説明してくれるので、新しい発見がたくさんありました。
音声ガイドを通すことで、初めて知ること発見は他にもあります。刀の部位などいくつか知らない単語が出てきましたし、「東京無限と書いてあるきっぷ。無限の無の字が夢」などと説明されたり。登場人物はすべて名前で呼ばれるので、炭治郎の家族の名前を初めて全員分を認識できました。
「初回にガイドなしで観たときは半分くらいしかわかっていなかったなと思いました。例えばあるシーンでカラスが飛んでいることや、煉獄さんが食べているものは牛鍋弁当だということもガイドがあったから知れたんです」(西井さん)
戦闘シーンになると、音声ガイドのテンポが上がり、起こっていることを端的に解説しつつシートの振動が戦闘の激しさを演出します。
「戦闘シーンは、『金属音がすれば刀と刀で戦っているんだな』などと想像できますが、どちらが優勢かは、シーン終わりの声のトーンなどで判断します。今回は、片方が刀、片方が素手だと初めてわかりました。連打、宙返りなどの説明に合わせて、シートから風が吹いたり、シートが揺れるのもわかりやすかったです。風の強さも状況によって変わるので臨場感が増します。『手に汗握るとはこういうことか』と思いましたね。戦闘シーンでも、シートからドンッ! と背中を叩かれたりして、自分も一緒に攻撃されたような気がしました。面白かったのは、鬼の首が飛ぶときは必ず後ろから首に風が来ること。ヒヤッとしましたね」(西井さん)
「HELLOW! MOVIE」は字幕ガイドもあるので、聴覚障がいのある方も使用できます。文字を認識しづらいディスレクシアの方や、顔の認識が難しい方なども、ガイドを利用すると映画作品の理解が進みそうです。
「4Dと音声ガイドは、非常に相性のいいコラボでした。僕たちは普段、映画を『聴く』だけですが、さまざまな効果によって情景が体に伝わるし、ガイドで頭にもシーンを描くことができるので、実際に鬼滅の刃の世界に入り込んだような気がしました。もう1回観たいなと思っています。今回はMX4Dだったので、次は4DXがいいですね」(西井さん)
障がいの有無にかかわらず、ぜひ「4D+音声ガイド」の組み合わせ