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2023/8/10 11:30

ノイキャンの「静寂」がすごい、ソニー最新イヤホン「WF-1000XM5」発売前レビュー

ソニーが、ノイズキャンセリング機能を搭載する左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンの新製品「WF-1000XM5」を9月1日に発売。人気の「1000X」シリーズ最新モデルの実力を、発売前に先行レポートします。

 

ニーズに応え、順当に進化してきたソニーの1000Xシリーズ

1000Xはソニーのワイヤレスヘッドホン・イヤホンの中でも、最高品質のサウンドとノイズキャンセリング機能を持つ製品だけに与えられるシリーズネームです。左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンは2021年にソニーが発売した「WF-1000XM4」以来、約2年ぶりの新製品。完全ワイヤレスイヤホンは間にM2を飛ばしていますが、2017年に登場した初代のWF-1000Xから順当な進化を続けてきました。

↑WF-1000XM5。製品名末尾のM5は「マーク5」を意味しています

 

完全ワイヤレスイヤホン全体を見渡しても、進化を遂げたり新たなニーズが誕生したりしています。たとえば、耳を物理的に覆う・塞ぐだけでなく、音声信号の電気的な処理によって、音楽リスニングに不要な環境ノイズだけを消去する「アクティブノイズキャンセリング」は、今から10年前だとヘッドホンの特別な機能として注目されていました。

 

現在は完全ワイヤレスイヤホンも、上位クラスのモデルを中心にノイズキャンセリング機能を搭載する製品が普及しています。ソニーの1000Xシリーズやアップルの「AirPods Pro」、ボーズの「QuietComfort Earbuds II」などに代表される人気のモデルを、街中や電車・飛行機で活用しているユーザーを見かける機会も増えました。筆者も手荷物をコンパクトにできるので、最近はもっぱら完全ワイヤレスイヤホンを外出時に持参しています。

↑2017年に発売された初代のWF-1000X

 

↑2019年に発売された“2代目”のWF-1000XM3

 

さらにコロナ禍を経て、ハンズフリー通話にも使えるワイヤレスイヤホンがリモートワークの音声コミュニケーションに欠かせないツールになりました。特に完全ワイヤレスイヤホンはビデオ通話の際に装着したまま動き回ることができますし、見た目も目立ちにくいことから有線イヤホンよりも使いやすく、人気を博しています。

 

こうした背景のもと、2021年の発売以来、ユーザーの音楽リスニングから音声コミュニケーションまで広くサポートしてきたのがWF-1000XM4であり、後継機として最新機種のWF-1000XM5が登場したわけです。

 

では、どのようなアップグレードを果たしたのか、新旧モデルを比べながら紹介します。

 

鳴りっぷりのよい新開発ドライバー。ハイレゾワイヤレス再生の音がひと味違う

最初は音質を比較しました。新旧1000Xシリーズのワイヤレスイヤホンはともに、ソニーが開発した「LDAC(エルダック)」というBluetoothオーディオの伝送技術により、ワイヤレス接続でハイレゾ再生を楽しめます。スマホやオーディオプレーヤーの側もLDACに対応している必要があるので、今回はソニーの「Xperia 1 V」をリファレンスにして聴き比べました。

↑WF-1000XM5とLDACで接続可能なソニーのスマホ、Xperia 1 Vでハイレゾの楽曲を聴きました

 

ソニーはWF-1000XM5のために音の心臓部となるドライバーユニットを新しく設計・開発しました。「ダイナミックドライバーX」と名付けたユニットは、WF-1000XM4のユニットよりも口径サイズが大きくなっています。また振動板の素材や構造も変更。結果、WF-1000XM5はよりパワフルで余裕のある鳴りっぷりが魅力的です。

 

ボーカルの質感はきめ細かく、ピアノやギターの音色は自然な鮮やかさで再現します。リズムは立ち上がりが鋭く、肉付きも充実。ベースやドラムスの低音はWF-1000XM4に比べてスムーズで伸びやかです。Amazon Music Unlimitedなどで配信されているYOASOBIの『祝福』『群青』、上原ひろみのアルバム「Silver Lining Suite」から『ジャンプスタート』などの楽曲を聴くと、WF-1000XM5によるハイレゾワイヤレス再生の懐の広さ、立体感の向上ぶりがよくわかると思います。

 

なお、WF-1000XM5にはLDAC接続に対応していないiPhoneと組み合わせた場合でも、ハイレゾ級の高品位なワイヤレスオーディオ再生を楽しめるアップスケーリング機能「DSEE Extreme」が搭載されています。専用アプリの「Sony | Headphones Connect」から機能をオンにすると、AIによる機械学習をベースにしたリアルタイム解析アルゴリズムにより、ボーカルや楽器などそれぞれの音源に最適なアップスケーリングを行ないます。

 

DSEE Extremeは「音がピカピカに磨かれる」というよりも、「極めてナチュラルな音に包まれる臨場感」といった印象。YouTubeやゲームの音声にも有効なので、いろんなコンテンツでその効果を確かめてみてください。

↑iPhoneとの接続時にはDSEE Extremeをオンにするとハイレゾ級の高音質再生を楽しめます

 

ノイズキャンセリング機能は静寂のクオリティが高い

続いてノイズキャンセリング機能を体験してみます。ソニーは「世界最高のノイズキャンセリング品質」を実現したことが、新しいWF-1000XM5の特徴であるとしています。

 

ノイズキャンセリング機能の出来映えを測る基準は、イヤホン自体の消音性能の「強さ」だけではありません。どんなユーザーの耳にも快適にフィットする装着性能の高さも大事です。

 

その点、新しいWF-1000XM5は、WF-1000XM4から小型・軽量化しています。重さは約20%、体積は約25%もサイズダウンしました。また、イヤホン本体は曲線を活かしたデザインにしたことで、耳にとても心地よくフィットします。ソニー独自設計の「ノイズアイソレーションイヤーピース」も、WF-1000XM4に付属するものから形状をブラッシュアップしたことで装着安定性を向上させました。

↑左がWF-1000XM5、右がWF-1000XM4。イヤホン本体のサイズがかなりコンパクトになりました

 

↑左がWF-1000XM5、右がWF-1000XM4に付属するソニー独自開発のイヤーピース。耳に装着して固定しやすい形状になっています

 

ほかにも内蔵するICチップの改良、環境音を集音するためのマイクの追加、先述したドライバーユニットのパワーアップなど、数々の変更が加えられています。WF-1000XM4と聴き比べるとWF-1000XM5は特に人の話し声のほか、エアコンのファンが回る音や自動車のモーター音など、持続的に響く低い音のノイズがよく抑えられています。

 

さらにWF-1000XM5は、音楽再生時にも自然な消音効果がかかります。ソニーが掲げるノイズキャンセリング性能の「世界最高品質」の意味とは、ほかのノイズキャンセリング機能を搭載するワイヤレスイヤホンに比べて、消音モード時の「静寂のクオリティ」が高いことだと筆者は考えます。クラシックやジャズの静かな楽曲を聴いてみると、WF-1000XM5は全体にノイズが少なく、立体的な音像をシャープに描いてくれるのです。

 

消音効果が単純に強くかかるのではなく、音楽と無音の合間に漂う空気感のようなものも丁寧に存在感を引き立てます。WF-1000XM5でヒラリー・ハーンの『パガニーニ:24の奇想曲 第24番』を聴いてみたところ、生命力あふれるバイオリンの音と、めくるめく表情の変化に圧倒されました。録音された音楽や映画の音声を聴いているのに、まるでコンテンツの中に入り込んで音に包まれているような、生々しい体験に触れられるところに「ソニーのノイキャン」の凄みがあります。

 

疲れない装着感。AIにより通話性能も強化

イヤホンが軽いと、長時間身に着けていても疲れを感じにくくなるため、オンライン会議などハンズフリー通話での使用にも適しています。ただし、イヤホンの装着感は人それぞれに耳の形が異なることを前提として「相性の良し悪し」によって評価する必要もあります。

 

筆者の場合、WF-1000XM4ぐらいの、少し大きめなイヤホンの方が耳穴の中だけでなく、外耳にも触れて安定するので、屋外で移動しながら音楽を聴きたいときに安心感があります。そしてあくまで筆者の印象ですが、曲線を活かしたWF-1000XM5のデザインは柔らかな印象があり、WF-1000XM4まで続いたガジェット的なイメージが一変しています。両者を並べてみるとデザインの好みが割れそうです。

 

WF-1000XM5の購入を真剣検討する段階では、ぜひショップなどに展示されている実機の外観をよく見て、できれば試着してみることをおすすめします。

↑左がWF-1000XM5、右がWF-1000XM4。新機種はケースも含めてよりコンパクトに、柔らかなデザインになっています

 

最後にハンズフリー通話について補足しておきます。WF-1000XM5は内蔵するマイクの改良を図り、さらに集音した音声からAI解析により通話に不要なノイズ成分だけを消す「ボイスピックアップテクノロジー」を搭載しています。試しに、家族にWF-1000XM5とWF-1000XM4を交互に装着してもらい、通話音声を聴き比べてみました。WF-1000XM5の方がノイズに強く、またユーザーの声を拾って力強く伝えるマイク性能を実感できました。

 

通話性能の高さに加えて、たとえばパソコンとスマホのように、同時に2台までのデバイスに接続して待機状態にできるマルチポイントにも対応しているので、WF-1000XM5はビジネスシーンでも使いやすいコミュニケーションツールになると思います。

 

4万円のワイヤレスイヤホンの価値を体験してほしい

WF-1000XM5はソニーが最高品質にこだわった完全ワイヤレスイヤホンです。その分、ソニーストアでの発売時価格は4万1800円(税込)と高価ですが、フラグシップの実力を見れば価格も相応しいと筆者は感じました。いまの完全ワイヤレスイヤホンに求められる最高のクオリティと、思いつく限りの多彩な機能をWF-1000XM5が備えていることを考えると、むしろコスパの高いワイヤレスイヤホンであるとさえ言えます。

 

ソニーにはいま、ノイズキャンセリング機能を搭載する左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンとして、1万円台で買えるエントリークラスの「WF-C700N」や、軽量設計を追求した2万円台のハイエンドモデル「LinkBuds S」もあります。それぞれ用途に最適化したイヤホンたちなので、比較検討をした際に、無理に4万円もかけて1000Xシリーズを選ぶ必要はもちろんありません。

 

ただ、いまお気に入りのワイヤレスイヤホン、ワイヤレスヘッドホンを持っている方も、一度WF-1000XM5の実力を体験する価値はあると思います。

 

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