本・書籍
ビジネス
2015/4/20 0:00

セブンイレブン開発秘話。現代の「味皇」こと鈴木敏文の味覚

食事をコンビニ飯で済ませようと決めたら、私は迷わずセブンイレブンへ向かう。たとえ、ほかのコンビニが「おにぎり全品100円セール」をしていても、私の決意はゆるがない。

 

20150420_1944_01

 

 

もしも、あなたがセブンイレブンで売っている食品を「おいしい」と感じたことがあるなら、それはセブン&アイホールディングス総帥・鈴木敏文会長の味覚による恩恵だ。セブンの食品は、かならず鈴木会長が味見をして、お客が満足できるものかを判断しているという。

 

セブンイレブンの1日の来客数は1000万人以上だ。毎日これだけ多くの人々の舌を満足させている鈴木会長こそ「味皇(あじおう)」の称号にふさわしい。うーまーいーぞー!

 

今いちばん面白いコンビニはセブンイレブン

みんな大好き「ツナマヨネーズおにぎり」は、1983年にセブンイレブンが販売を始めたものだ。1974年に第1号である「豊洲店」をオープンして以来、鈴木敏文ひきいるセブンイレブンはたゆまぬ開発努力によって革新をもたらしてきた。

 

セブンイレブンがマックやスタバに戦いをいどみ「いれたてコーヒーを目当てにしてコンビニへ向かう」という新たな生活習慣を創出したことは記憶に新しい。その後、さらなる攻勢に出たのだから驚かされる。ドーナツ事変だ。いま日本中の人々が、国内市場の覇者であるミスタードーナツに立ち向かうセブンの次なる一手を固唾をのんで見守っている。

 

まさにコンビニエンスストアは劇場であり、セブンイレブンという舞台の上で演じられる驚きと意外性をはらむストーリーは、我々の好奇心をかきたてる。

 

おでんの具について熱い議論を交わす人たち

セブンイレブンの革新的競争力の源泉は、商品開発の現場にある。『セブン‐イレブンおでん部会』(吉岡秀子/著)によれば、おでんをさらに磨き上げるため具材ごとの研究の場をもうけて徹底的に研究しているという。

 

セブンのおでん部会には「水物(こんにゃく・白滝)」「畜肉」「練り物」「きんちゃく」「海産物」「とうふ」の9つもの分科会が存在する。出席しているのはセブンイレブン社員だけではない。食品会社からやってきた専門家たちがメーカーの垣根を超えて、おいしいおでんを作るために切磋琢磨している。

 

そもそも、セブンがおでんにこだわりはじめたのは「ある現象」がきっかけだった。コンビニ店頭でおでんを発売してから90年代初めごろまで、だしつゆの風味は全国共通だった。しかしながら、うどんやそばに関西風や関東風があるように、おなじ日本人でも「だしつゆ」の好みは大きく異なる。

 

「全国共通のだしつゆ」に対していちばん敏感に反応したのは、お客ではなく全国各地のフランチャイズの店主たちだった。毎日お客に接する店主みずから、地元客の好みにあわせて醤油やら昆布だしを加えてアレンジしていたそうだ。そんな状況を目にしたセブン本部はあわてて各地域にふさわしい「だしつゆ」の開発に取り組みはじめたという。

 

ワッフルコーンアイスを作っているのは意外な企業

1年がかりでセブンイレブンの中枢である開発現場に通いつめて書いたという『セブン‐イレブンおでん部会』は、ほかにも様々な事例を紹介している。

 

セブンイレブンのアイスといえば『まるでマンゴーを冷凍したような食感のアイスバー』が口コミで話題になり、新作の『まるで白桃を~』も好評だ。レジ前の一等地には、あの特徴的な「フタをあけなくてもよい冷凍コーナー」が配置されている。いつからセブンイレブンはアイスにこだわりはじめたのだろうか?

 

もなかアイスが大好物な鈴木会長の「アイスは大人のデザートだ」という大号令のもと、ハーゲンダッツよりもおいしいアイスクリームを作るために、セブン開発部はさまざまなメーカーに打診した。

 

有名アイスメーカーには断られた。やがて、赤城乳業という会社が協力してくれることになった。その結果、10年以上のロングセラー記録を更新し続ける『ワッフルコーン』が生まれた。なにを隠そう、赤城乳業は『ガリガリ君』を作っている会社だ。じつはガリガリくんだけでなくバニラ系のアイスを製造していたものの知名度は低かった。赤城のポテンシャルと「ソフトクリームをまき上げる技術」に目をつけたセブンイレブン開発チームは慧眼だったといわざるをえない。

 

おいしいものは飽きる。だから飽きる前にもっとおいしくする

セブン鈴木会長の名言のひとつに「おいしいものは飽きられる」というものがある。私たちを飽きさせないために、セブンイレブンの食品は進化を続けている。

 

たとえば、女性客から絶大なる人気を集めているとろりんシューは「とろりん」具合を毎年変えている。寄せられるお客の感想やデザート動向などを見極めて「とろとろ」「とろり」「とろっ」などのクリーム粘度を専用センサーで測定して、常に改良をおこなっているという。

 

本書は『セブン‐イレブンおでん部会』というタイトルだが、ほかの食品開発史についても詳しい。

 

新潟の老舗企業を説得して作った大ヒット商品「スティックおかき」。日清食品と共同開発した『すみれ』『一風堂』などの名店ラーメンシリーズ秘話。製パンメーカーに拒絶されたので専用工場を作ってしまったサンドイッチやメロンパン。お母さんのおにぎりを再現するために開発された全自動マシン……等々、読み終えたあとにはセブンイレブンに思わず足を運んで、それぞれの味を確かめたくなる1冊だ。

 

(文:忌川タツヤ)

 

【文献紹介】
 
20150420_1944_02
 
セブン‐イレブンおでん部会
著者:吉岡秀子(著)
出版社:朝日新聞出版
 
1974年、1号店出店。2003年、1万店突破。いかにして、セブン‐イレブンは、来客1日1千万人の規模に成長したのか。商品開発者たちの30数年に渡る悪戦苦闘ぶりと、おでんやシーチキンマヨネーズおにぎりなど、お馴染みのヒット商品が出来るまでのプロセスを、日本初の「コンビニ専門記者」が丹念にリポート。コンビニ業界の隠れた消費者戦略が明らかになる。鈴木敏文会長の「おいしさの原点、そしてこれから」と題したロングインタビューも掲載!
 
 
Kindleストアで詳しく見る
 
iBooksで詳しく見る

hontoで詳しく見る
 
紀伊國屋書店ウェブストアで詳しく見る