食事の満足度は主食の食感、味で決まると思う。どんなにおいしい料理を並べても、米飯やパンがまずかったらすべてが台無しになってしまう。
フランスで暮らした時代は、炊き立てのおいしいご飯が食べたくてたまらなかった。日本から送ってもらった新米ですら、使う水の違い、乾燥した空気のせいか、しっとりツヤツヤにはならず、パサパサしたご飯になってしまったのだ。現在は北関東のお米がおいしい地域に暮らしているので毎日おいしいご飯は食べられそれはそれは幸せだ。
そして今は反対に、フランス時代を懐かしく思い、焼き立てのフランスパンが食べたくてたまらなくなる。「まだ熱いから気をつけて持って」とブランジュリーのマダムやムッシュに手渡されたアツアツのバゲッド。店から出ると行儀が悪いが端っこをつまんでよく歩き食べしたものだ。パリパリッとした皮で、中はしっとりのパンは本当においしかった。
家庭用のオーブンでフランスパンを焼くのは無理なのか?
最近では日本にも、フランスブランドのブランジュリーがいくつか入っているので、本格フランスパンを買うことはできる。が、近所にそういうパン屋がなければ焼き立てにはなかなかありつけない。
ならば自分で焼く? でも、ふわふわのブリオッシュは手作りできてもパリパリのフランスパンは無理と私は思っていた。
『おいしい。まぁるい鍋パン』(小黒きみえ・著/学研プラス・刊)の著者・小黒さんはキャリア30年以上のパン・お菓子研究家。その彼女ですら「家庭用オーブンでフランスパンを焼くのは無理」とあきらめていたという。
ところが、ある日フランスのサイトから偶然にも“鍋パン”を見つけたのだそうだ。「Pain en cocotte」=鍋パンは、生地を鍋の中に入れてから、ふたをしてオーブンに入れて焼くパンだ。
おいしいパン屋さんが山ほどあるフランスの家庭で、「鍋パン」を焼く人がたくさんいるなんて驚きでした。さっそく、いつものように仕込んだ生地を鍋に入れ焼いてみてびっくり。オーブンから出したとたん、香ばしくて、クープがきれいに割れて、「パチパチッ」とおいしいそうな音をたてていたのです。見た目、味ともにいままでにないでき上がり。
(『おいしい。まぁるい鍋パン』から引用)
鍋は厚手の鋳物かアルミで
本書は、鍋で焼く丸いフランスパンの数々を紹介したレシピ本。私のように焼き立てのアツアツのパリパリのフランスパンを食べたい!と思っている人は必見だ。
フランスパン生地は、蒸気を入れて焼くことで、のびのよい、薄くてパリッとした皮のパンに仕上がる。しかし、家庭用のオーブンでは蒸気が出ないのでそれは難しいことだった。
そこで登場するのが厚手鍋! 鍋にパン生地を入れて霧を吹き、ふたをして焼くことで鍋の中に蒸気が封じ込められるので、パリッとした皮のパンが焼きあがるというのだ。
鍋はそのままオーブンに入れるので、本体、取っ手、つまみなどのすべてが240℃のオーブン調理可能なものを選ぶ必要がある。
ル・クルーゼやストウブ、バーミキュラといった鋳物ホーローや厚手アルミの鍋は、熱伝導にすぐれ、ふたも重さがあるのでおすすめです。メーカーによっては、樹脂製つまみの耐熱温度を200℃とし、別売りのステンレス製つまみへの交換をすすめている場合もあるので確認を。陶器の鍋はメーカーごとに耐熱温度が異なるので、説明書に従ってください。
(『おいしい。まぁるい鍋パン』から引用)
鍋の大きさは、粉300gでつくるパン生地なら直径22~24cmがベスト。まずは、キッチンに今ある鍋をチェックすることからはじめよう!
フランスパン生地の基本材料はたった5つ
フランスパンの材料はとてもシンプルだ。基本の材料(1個分)は、
準強力粉:300g
イースト:1.2g
塩:5.4g
はちみつ:3g
水:210g
*フランスパンには強力粉に比べてたんぱく質が少なめの準強力粉が向いているそうだ。輸入品、国産品たくさんの種類があり、製菓製パン材料店や輸入食材店で手に入るとのこと。
*イーストは予備発酵がいらず、直接加えることができる細粒状のインスタントドライイーストがおすすめ。
*生地の弾力性を高め、気泡をしっかり包み込み、粘りのもとであるグルテンを引き締めてくれるのが塩。粗塩ではなく顆粒状の塩がよい。本書ではフランス産ゲランドの顆粒タイプの塩を使用しているそうだ。
*フランスパン生地には、イーストの働きに必要な砂糖を入れないのでモルト(麦芽)を加えるのが一般的。はちみつは、そのモルトがわりになる。アカシアなどの純はちみつがおすすめ。
*水は、やや軟水の水道水がよく、日本の水道水の多くはやや軟水のためフランスパンの生地に適しているそうだ。
初心者でも失敗なく焼き上がる
つくり方は、材料を混ぜる → つまんで引っぱり生地をつくる → 一次発酵 → ベンチタイム → 成形 → 二次発酵 → 鍋に入れる → 鍋ごとオーブンで焼き上げる
本書ではひとつひとつの手順を写真付きで丁寧に解説してあるので、パンを焼くのがはじめてという人でも失敗することなくつくれそうだ。
基本を覚えてしまえば、バリエーションも楽しめる。ドライフルーツ入り、ナッツ入り、ごま入り、などなど、フランスのブランジュリーに並ぶあのパン、このパンがどれもパリッと焼き上げられる。
【著書紹介】
おいしい。まぁるい鍋パン
著者:小黒きみえ
出版社:学研プラス
おいしいパン屋さんがたくさんあるフランスでも、家庭でパンを焼く人が増えています。生地を鍋に入れてオーブンで焼くだけで、外はパリッ、中はしっとりの、まぁるいフランスパン「ブール」の出来上がり。フランス流の、そんなおいしい「鍋パン」のレシピ集。