「習慣は、第2の天性」という言葉をご存じだろうか?
生まれつきの天才に恵まれなくても、良い習慣を続けていれば、あとからでも優れた能力を身につけられる。そういう意味だ。
「常識や集中力、勤勉、忍耐のような平凡な資質がいちばん役に立つ」と、『自助論』の著者であるサミュエル・スマイルズは述べている。成功したいなら才能なんて頼りにせず、誰にでもできる「忍耐」や「勤勉」を習慣化したほうが手っ取り早い。
人生の成功者になるために必要なこと
裕福な家庭に生まれた子どもは、はじめから恵まれた暮らしができる。だが、そのあと死ぬまでずっと裕福でいられるとは限らない。カエルの子はすべてカエルになるが、成功者の子が必ずしも成功できるわけではないからだ。
たとえ逆境にあっても、裕福でない家庭に生まれ育っても、立派に成功した人は少なくない。彼らに共通するのは、第2の天性である「良い習慣」を身につけて、毎日毎月毎年それをおこない続けたことだ。
いま格差社会だと言われているが、かつての日本には、どこを見渡しても「裕福でない」人たちばかりという時代があった。
むかしの秀才たちが読んでいた自己啓発書
時は、明治時代にさかのぼる。1871年(明治4年)に『西国立志編』という翻訳書が発売された。内容は、欧米人の成功談や苦労話を集めたもので、わかりやすく言えば豊臣秀吉や二宮金次郎のような人物のエピソードを集めた本だ。およそ40年間で累計100万部が売れたとされており、福沢諭吉の『学問のすゝめ』と並ぶベストセラーだった。
『西国立志編』は漢文体であり、当時の読書人口は現在よりも少ないので、いまなら数百万部の超ベストセラーに相当する。大ヒットの背景には、維新直後の焦燥感と高揚感があった。欧米列強の圧倒的な国力のまえに立ち尽くすしかなかった明治の青年たちは、一刻もはやく欧米列強に伍するため、当の外国の偉人たちから学ぼうとした。数えきれないほどの出世エピソードが収録されているので、封建制から解放された明治の青年たちは夢中になって読んだにちがいない。
漢文体だった『西国立志編』は、現代訳されて『自助論』という名で現在も読み継がれている。これまでに出版されたあらゆる自己啓発書は『思考は現実化する(巨富を築く13の条件)』(ナポレオン・ヒル/著)と『自助論』の焼き直しにすぎないと言う人もいるくらいだ。
幸福さえも習慣にできる。その方法とは
サミュエル・スマイルズ『自助論』の内容を簡潔にまとめるなら、次のようになる。
「自分を敬え。自分を信じよ。自分を鍛えよ。自分を磨け。自分を鼓舞せよ。自分を育てよ」
要約したのは『自分を敬え。超訳・自助論』(学研パブリッシング/刊)の著者である辻秀一さんだ。イギリス人の医師であるサミュエル・スマイルズが書いた『Self-Help』を、わかりやすく翻訳したものだ。
スマイルズが数々の偉人たちを例にあげて述べている「勤勉」や「忍耐」の大切さを、辻さんはつぎのように超訳している。「本当の我慢強さとは、やらなければいけないことがあったとき、それから逃げることなく立ち向かうこと」。
やらなければいけないことは「責任」と言いかえることもできる。責任を果たすためには、何事にもとらわれない心の状態を保つ必要がある。辻さんは、それを「フロー状態」であると定義づけて「ごきげん状態」と言い換えているのには感心した。老若男女問わずに理解できる言い回しであり「超訳」にふさわしい意欲的な試みだ。
成功したければ、まず自分自身を幸福にすべきだ。「自分を敬うことは、ワガママでも自己中心的な考えでもありません。自分を大事にして、自分がご機嫌であったり幸せを感じていたりするからこそ、社会的に積極的に貢献しようと思えるのが人間なのです」と、辻さんは述べている。
まだ遅くない。エッセンスを読むだけで効果があるかも!?
今回ご紹介した『自分を敬え。超訳・自助論』は、原著『Self-Help』のキモだけを翻訳したものだ。とりあえずエッセンスをつまみぐいして、共感できると思ったら『Self-Help』の現代語訳に手を伸ばしてみてはいかがだろうか。
その代表的なものとしては、三笠書房の知的生きかた文庫『自助論』(竹内均/訳)がいちばん手に入れやすい。学生時代にいちど読んだことがあるが、ふたたび取り寄せて再読してみた。読めば成功できるかどうかはともかく、いまの生活や人生を向上させるためのヒントがたっぷり詰まっており、あらかじめ超訳に目を通していたからこそ理解できる部分もあった。
(文:忌川タツヤ)
自分を敬え。超訳・自助論
著者:辻秀一(編・著)
出版社:学研パブリッシング
刊行から150余年。起業家、芸術家、アスリート…全世界の挑戦者たちを刺激し続ける不朽の名作『自助論――SELF HELP』のスピリットがここに蘇る!33万部突破ベストセラー『スラムダンク勝利学』を著したスポーツドクター辻秀一による「超訳」。