「神秘の島」に準拠しているシーン
ジュール・ヴェルヌ原作『神秘の島』を参照しているのは、ナディア第2部「無人島」編です。両作品とも、主人公たちが流れついた場所を「リンカーン島」と命名しているのは同じです。
ヴェルヌ「神秘の島」の主人公は、サイラスという技師(エンジニア)です。アメリカ南北戦争の捕虜収容施設から気球に乗って逃げてきた→無人島に不時着した、という設定です。
所持品は、マッチ1本と小麦1粒と手帳など。しかし、サイラスは魚介類を食べて生きのびながら、海草や動物の脂をもとに石鹸(せっけん)やロウソクを作ったり、鉱石を採掘して製鉄を始めたり、化学反応を利用して電池を作ったり、エレベーター付きの住まいを建てたり、きわめつけはニトログリセリン爆薬を生成します。
「ナディア」の主人公は、ジャンという発明好きの少年です。ノーチラス号から分離した船長室に乗って、無人島に漂着します。
「神秘の島」とは異なり、漂流時には「缶詰」「マッチ」「斧」「ハンマー」「釘」などの最低限の食料や道具に加えて「百科事典」を所持しています。ジャンは発明趣味を活かして、飲み水を確保するために「海水を蒸留する仕組み」を作ったり、少女ナディアのために海草からつくったシャンプーを開発します。
「ナディア」では、ジャンが崖から落下したせいで気絶するシーンがあります。夢見心地のなかで、鉱脈や石油を掘り当てたり、発電機や地下エレベーターを発明します。つまり、突飛なシーンが多いと思われていた「無人島」編は、ヴェルヌ原作をしっかりと踏まえて作られていたわけです。
「海底2万マイル」に準拠しているシーン
ジュール・ヴェルヌ原作「海底2万マイル」を参照しているのは、ナディア第1部「ノーチラス号」編です。両作品とも、主人公たちが海難事故のあと「万能潜水艦ノーチラス号」に救助されるのは共通しています。
「ナディア」で有名なシーンといえば、第15話「ノーチラス最大の危機」における乗組員の絶命シーンです。じつは、「海底2万マイル」にも、状況こそ異なるものの衝撃的な死を描いた場面があります。
そのほか、「狩りのために上陸する」「巨大生物に襲われる」「海底火山を通過する」「高電圧バリア」「海底の森に行く」「南極点に行く」「クジラのミルクを飲む」「アトランティス大陸の遺跡を訪ねる」「ノーチラス号が行方不明になる」など、ヴェルヌ原作のエピソードを少女ナディアやネモ船長に課された宿命に紐づけて、ドラマチックなアニメシナリオへと昇華しています。
原作の長編小説に目を通すヒマがない人は、名作をさくさく読めるシリーズ「海底二万マイル」(横山洋子・監修、ジュール・ベルヌ・作、芦辺拓・編訳、藤城陽・絵/学研プラス・刊)を読めば、東京ディズニーリゾートを楽しむための予習ができます。お試しください。
【参考文献】
集英社文庫『ミステリアス・アイランド』(手塚伸一/翻訳)
新潮文庫『海底二万里』(村松潔/翻訳)
【書籍紹介】
海底二万マイル
著者:横山洋子(監修)、ジュール・ベルヌ(作)、芦辺拓(編・訳)、藤城陽(絵)
発行:学研プラス
海で不思議な事件が発生! 調査に向かった教授たちは、謎の人物・ネモ船長が率いる、巨大な潜水艦ノーチラス号にとらわれてしまう。そして、神秘と驚きのつまった、海中での大冒険がはじまる……! さくさく読める世界名作シリーズ第24弾。