本・書籍
2018/7/25 23:00

【深夜の1冊】あなたは昭和の心霊番組を知っていますか?――『真・怪奇心霊事件FILE』

夏休みに突入するはるか前から猛暑に見舞われている今年の日本。読者のみなさんは、夏の風物詩という言葉から何を連想しますか? 昭和生まれの筆者は、夏休み限定で放送されていた情報バラエティ番組の心霊現象コーナーを真っ先に思い浮かべてしまう。

 

朝は『ルックルックこんにちは』の心霊事件レポート。昼は『お昼のワイドショー』の「あなたの知らない世界」。そして『2時のワイドショー』の心霊写真コーナー。さらに夜は2時間枠の心霊特番。

 

それぞれの番組が独自の切り口で心霊現象を紹介していく。小学校の中学年くらいから大学受験のころまで、上の情報バラエティ3番組の心霊コーナーは必ずチェックしていた。ごくまれではあるものの、生放送中にマジな現象が起きてしまうことがあったからだ。

 

 

実際に起きてしまった恐怖現象

記憶があいまいだったのでネットで確認したところ、今でも多くの人が忘れられないだろう現象が起きたのは、1976年8月20日だった。放送事故と呼んでいいレベルの出来事の舞台になったのは、日テレで放送されていた朝の情報番組『ルックルックこんにちは』の「テレビ三面記事」というコーナー。主役は、生首が描かれた掛け軸だ。

 

画面に2枚の掛け軸が映し出される。向かって右側が僧侶、左側は武士らしき人物。レポーターが掛け軸の謂れについて話を進めていると、左側の武士の目が開き、カメラ目線になった。しかも黒目が、何かを追うような動きまで見せた。

 

大騒ぎになったのはこの日の放送が終了した後。視聴者から、“リアルタイムで自分の目で見た怪奇現象”についての問い合わせが殺到した。この時代、「電話回線がパンクする」という表現がよく使われていたが、まさにそういう状態が実際に生まれたようだ。翌週の放送はこの現象をとらえたVTRを徹底的に検証するという内容になった。

 

 

生中継された心霊現象

あの稲川淳二さんも、リアルタイムで進行する心霊現象に身を置いたことがある。1981年8月3日、ABC朝日放送の『ワイドショー・プラスα』という番組で「生き人形」―知る人ぞ知る最恐の実話怪談―という話をしているとき、「人形の隣に男の子が映っている」と訴える視聴者からの電話が多数かかってきたようだ。

 

そもそも関西ローカルだったこの番組、事件発生当時はテレビ朝日系列で関東圏でも放送されていたはずなのだが、なぜか記憶がない。かなり大人になってからこの番組を実際に見ていたというライターさんから話を聞いたことがある。スタジオにも電話の音が鳴り響き、天井から吊るされた照明が左右に大きく揺れて、観覧中のおばさんたちが一か所に集められるという緊迫した場面の空気を覚えていると言っていた。

 

 

ビジュアルへのこだわりとフィールドワーク志向

真・怪奇心霊事件FILE』(並木伸一郎・著/学研プラス・刊)は、そういう昭和の情報バラエティ番組の心霊コーナーのテイストを思い出させてくれる一冊だ。現存する心霊写真、そしてそういう言葉があるかどうかはわからないが、心霊ビデオが数多く紹介されている。

 

トラディショナルな心霊写真の画質を上げたもの、そしてポルターガイスト現象発生の瞬間をとらえた写真など、ビジュアルにこだわった作りという姿勢が強く感じられる。そして、著者・並木伸一郎さんのフィールドワーク志向を強調しておきたい。並木さんは敬愛する大先輩なので著書も数多く読んでいるのだが、この本に関しても、徹底的なフィールドワークに裏打ちされた姿勢が前面に出ている。

 

 

絶妙なバランス感覚

一冊で取り扱う情報のバランスのよさにも注目すべきだろう。日本発の情報と海外発の情報という比率においても、写真とビデオという比率においても、絶妙なバランス感覚が実現されていると思う。

 

巻末に収録されている『写真、ビデオからネットへ甦り続ける心霊表象のメディア史』(前川修・文)という考察文も、冷静で淡々としていて、興味深く読めた。

 

この本で紹介されている情報は、筆者のような昭和生まれにはとにかく懐かしい。平成生まれの人たちの目には、新鮮に映るのだろう。感じ方は世代によって異なるだろうが、共有する情報への興味は変わらない。その根底を形成しているのは、前の項目で触れたビジュアルへのこだわりとフィールドワーク志向にほかならない。

 

 

懐かしくて新しい昭和カルチャーの共有手段

心霊写真なんて、シミュラクラ現象の典型にすぎない。そう主張する人もいるにちがいない。点が三つあれば人間の目鼻に見えるという説にも、確かに一理ある。

 

ただし、提供される情報が記録文書に頼りっぱなしの文献学的アプローチによるものではなく、フィールドワーク最重視という姿勢なら、読み手の受け取り方もおのずと変わってくるはずだ。

 

地上波のテレビ番組ではまったくと言っていいほど見なくなった心霊現象関連番組。昭和の夏特有のカルチャーを懐かしく思い出す人も、まったく新しい感覚で受け容れる人たちも、同じ目線で楽しめて、そして怖い思いができる一冊。

 

 

【書籍紹介】

真・怪奇心霊事件FILE

著者:並木伸一郎
発行:学研プラス

身の毛もよだつ心霊写真、ビデオカメラに映ってしまったこの世ならざるもの、事件・事故が絶えない呪われた土地や物品……著者が長年にわたって研究・収集してきた数々の心霊事件を、豊富なヴィジュアルとともに紹介する。

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