知り合いの映画監督が、UFOもののドキュメンタリー映画を作った。チャンスがなくてまだ鑑賞させていただいていないのだが、ネットでの評判は上々だ。やっぱりUFOという言葉には、独特のアピール力があるようだ。そんな中、ふと思った。本来は軍事用語だったUFO=Unidentified Flying Object:未確認飛行物体という言葉が、ごく普通の会話で使われるボキャブラリーになったのは、どのくらい前だっただろうか?
木曜スペシャルのVTR
明確に覚えているのは、70年代に「木曜スペシャル」や大人向け深夜番組「11PM」で紹介されることが多かった不思議な物体の映像の数々だ。そしてこの手の映像を紹介するのは、決まって一人のディレクターだった。そう、矢追純一さんである。
『矢追純一は宇宙人だった!?』(矢追純一・著/学研プラス・刊)は、UFOディレクターとして70年代のテレビ界に名を轟かせた矢追純一さんの自伝本だ。テレビが身近な娯楽の王者だった時代の枠組みのなか、取材現場の空気が伝わってくる矢追さんのVTRはほかとは違う質感を伴って輝きまくっていた。
当時小学生だった筆者は、親と一緒に晩ご飯を食べながら「木曜スペシャル」を見て、親に隠れて「11PM」もしっかり見ていた。子どもの目には、これ以上ないほど魅力的なものに映ったのだ。
ユリ・ゲラーと矢追さんのツーショット
矢追さんに関し、絶対に欠かすことができない要素がもうひとつある。超能力だ。中でも、テレビの生放送で超能力実験を行ったユリ・ゲラーのインパクトは忘れることができない。
2014年、そのユリ・ゲラーが来日した際にインタビューをする機会を得た。個別インタビューの前に行われた記者会見でもスプーン曲げを披露し、イベント関係者が買ってきたラディッシュの種をその場で袋から出して発芽させるという派手なパフォーマンスを目の当たりにしたとき、小学生の時に体験したあの興奮を思い出した。
その後、矢追さんも登壇されてトークショー的なイベントが行われたのだが、この二人が並んで座っている画は、それだけで見応えがあった。大げさにいうなら、時代精神とでもいうべきものを実感できる光景だった。
面白いものとの出会い
前述のとおり、本書は矢追純一さんの自伝という体裁の一冊である。まっさきに目が行くのは、やはりディレクター時代の番組作りの話だ。第1章で語られるユリ・ゲラーとの関係はぐいぐい引きこまれた。その第1章に、実に印象的な文章が記されている。
ユリ・ゲラーとの出会いは1973年でした。まだ世の中に超能力という言葉すらなかった時代です。彼との出会いには、いろいろな偶然的な要素が重なっているのですが、やはりこれも「面白いものとの出会い」を望んでいた自分が引き寄せ、選んだものなのだろうと思っています。
『矢追純一は宇宙人だった!?』より引用
読み進めていくうちにわかるのだが、「面白いものとの出会い」というのが矢追さんの人生のキーワードであり、ライフワークなのだと思う。天は自ら助けるものを助けるという言葉があるが、“面白いもの”はそれを本気で探している者に自ら近寄ってくるのではないだろうか。筆者のように木スぺ大好き少年だった人たちにとって、第1章はノスタルジーと新鮮な驚きに満ちている。
“エリア51”という萌えワード
第2章は、矢追ワールドが全開するUFO関連の話だ。この手の話が好きな人なら、目次にある“エリア51”という文字を見ただけで萌えるはずだ。ほんの少しだけ説明すると、エリア51というのはアメリカのネバダ州、ラスベガスから車で2時間ほど行ったところにある軍事施設だ。墜落した円盤の機体や、その中にいた乗組員の隠し場所といわれている。
文字を追っていくうちに、木曜スペシャルで見た場面がフラッシュバックする感覚が確実に訪れる。どんな業界にまつわるものでも、いわゆる楽屋話は面白い。エリア51とかメン・イン・ブラックという実に心地よいキーワードがちりばめられた文章は、鮮明な実体験がある者にとってバーチャル・リアリティに近い。
“流れ”という概念
3章以降は、「矢追純一はこれでできている」あるいは「矢追純一はこうして出来上がった」という観点からの構成となっている。人生にはいくつもの岐路と転機がある。そうしたものを軸にしながら矢追さんのこれまでの人生を追体験することになるのだが、ここで活きてくるのが先に記した「面白いものとの出会い」を求める姿勢にほかならない。
また、本書を貫くキーワードがもうひとつある。それは「流れ」だ。仕事に関しても私生活に関しても、流れを常に意識することがいかに大切かわかる。欧米のスピリチュアル関連本に「フロー」という言葉がよく出てくるが、矢追さんはきっと無意識のうちに、若い頃からこの概念を自分のものにして、実践してきたのだろう。
いまという瞬間に満足できるよう全力を尽くす
ノスタルジー。矢追純一という人物に対する純粋な興味。そして、70年代のテレビ業界というポップカルチャー的側面。何をきっかけにしても、興味深く読み進めることができる一冊だ。そして矢追さんは、はっとするひとことを放つ。あとがきにこんな文章を見つけた。
なにしろ、1秒後はもう「いま」になってしまうので、生きているといえるのは「いま、この瞬間」しかないからです。この「いま」の瞬間、不幸だったら、それがズーッとそのまま、死ぬまで不幸が続くということです。だから私は、いま、この瞬間、自分が満足な状態でいられるよう全力を尽くすのです。
『矢追純一は宇宙人だった!?』より引用
こういうマインドセットで生きているからこそ、流れを見きわめて乗ることができるし、「面白いと思うこと」も向こうから寄ってくるのだろう。自叙伝。70年代テレビ業界の楽屋話。啓発本。そしてもちろん、UFO現象と超能力のエッセンス。いろいろな読み方ができる一冊だと思う。
【書籍紹介】
矢追純一は宇宙人だった!?
著者:矢追純一
発行:学研プラス
日本テレビ系、木曜スペシャルの特番で一世を風靡したUFOプロデューサー、通称、宇宙人こと、矢追純一氏がテレビ業界と超常現象の裏側を暴露する。戦時中の過酷な時代を生き、テレビの黎明期で活躍した矢追氏が行きづまる現代社会の人々に送るメッセージ。