『アフタヌーンティーで旅するイギリス』
我が家には子どもが一人しかいない。子だくさんに憧れて結婚したが、まあ、そうもいかず、男の子一人生まれただけで満足しなければと思って暮らしてきた。
息子は子どものころから少林寺拳法に通う「武闘派」で、夫は学生時代は陸上競技に夢中、大人になってからはボクシング観戦ばかりしている体育会系男子である。
私はといえば、運動は苦手だが、空手が好きな弟と育ったせいか、男っぽく、我が家はロマンティックな雰囲気に欠けていた。ご飯時ともなると「メシだ、メシ!」という声が響き、運動部の合宿のような毎日を繰り返してきた。
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アフタヌーンティーについて知りたかったら…
ところが、息子が結婚し私には嫁、つまり、義理の娘ができた。途端に、新しい世界が広がった。彼女はアフタヌーンティーが好きなのだ。
私は元々、のんべの血筋で夕飯のビールが楽しみでたまらない。そこで、午後の間食はしないようにしている。夕暮れにキーンと冷えたビールを喉に流し込み、「プハー」と言いながら肩をすくめる幸福を守るためだ。
けれども、最近はアフタヌーンティーも悪くないと思うようになった。元々、イギリスの文化に興味があったこともあり、『アフタヌーンティーで旅するイギリス』(新宅久起・著/ダイヤモンド社・刊)を読んでからはとくに、アフタヌーンティーについて、もっと知りたいと願うようになった。
アフタヌーンティーのエキスパート
『アフタヌーンティーで旅するイギリス』は、アフタヌーンティーへの愛が満ちた本だ。できることなら、今すぐこの本をバッグに入れて、イギリスへアフタヌーンティーの武者修行に行きたい。もちろん実行するのは難しいけれど、ページをめくっているだけで旅人になったような楽しさを味わうことができる。
著者の新宅久起は、駐日英国大使館発行の広報誌『クオリティ・ブリテン』の編集に携わったことがきっかけで、イギリスに出会った。イギリスの情報誌『英国特集』を創刊したことでも知られ、タイトルを『R.S.V.P』と変更してから十数年間、編集長をつとめてきた。イギリスに詳しいのはもちろんのこと、アフタヌーンティーにかけては、自他共に認めるエキスパートだ。
アフタヌーンティーの5つの世界
『アフタヌーンティーで旅するイギリス』は、まず構成がいい。わかりやすく、実用的な工夫が凝らされている。
舞台をおもにホテルに絞り、著者が今まで丹念に巡り歩いたアフタヌーンティー体験の中から「ここだ!」と思う場所を紹介している。できれば内緒にしておきたいようなレア・スポットも含まれているという。
Part1は、「アフタヌーンティーが生まれた館ウォーバン・アビーへ」を取り上げ、アフタヌーンティーがどのようにして生まれたのか、歴史をたどりながら解説。
Part2「生き方が変わるかもしれない田園のティータイム」では、カントリーサイドにある田園のホテルでのアフタヌーンティーの愉しみ方を紹介する。
Part3「特別な時を演出する特別なティータイム」は、様々なシーンでのアフタヌーンティーに注目。特に300年の伝統を誇る競馬のイベントである、ロイヤル・アスコットでのアフタヌーンティーの素晴らしさが綴られる。
Part4「ロンドンで出会うアフタヌーンティーの饗宴」では、伝統に裏打ちされながらもアートへと変化する新しいアフタヌーンティーの姿を示す。
Part5「アフタヌーンティーのためのイギリス式エチケット&マナー」は、具体的、かつわかりやすくその楽しみ方を示す。ナプキンのたたみ方まで、こと細かな記述が続く。私達がどうやったらエレガントに、かつ堂々とふるまうことができるのか、必要な知識が満載だ。
5つのPartを出たり入ったりしているうちに、あなたはアフタヌーンティーの知識と楽しさを身につけ、達人に近づいている自分を発見するだろう。
内緒の時間
アフタヌーンティーと聞くと、「優雅な午後のお茶の時間でしょ?」と、思う人が多いだろう。私もそうだった。けれども、アフタヌーンティーは秘密にしておくべき内緒の軽食として始まったのだというのだから面白い。
アフタヌーンティーを考案したのは、1840年代前半、この館の主人だった第7代ベッドフォード公爵フランシスの妻だったアンナ・マリアだった。
当時の昼食は軽めで夕方になるとどうしても空腹感を覚えてしまう。そこで、彼女は館のブルー・ドローイング・ルームに近しい友人たちを集め、内緒で軽食を食べるように。(『アフタヌーンティーで旅するイギリス』より抜粋)
つまり、アフタヌーンティーは女性達の腹の虫を押さえるために、こっそりいただくものだったのだ。
アスコット競馬場でアフタヌーンティーを楽しもう
他にも、「へぇ!! アフタヌーンティーとはこんなにも深いものだったのか」と思うことが満載だが、個人的にはロイヤル・アスコットで競馬をしながら楽しむアフタヌーンティーに一番興味をそそられた。
6月の3週目、毎年、ウインザー城のほどちかくにあるアスコット競馬場で、王室が主催する競馬、アスコット・ミィーティングと呼ばれるレースが開催されている。
今年もウィリアム王子、キャサリン妃をはじめ、ロイヤルファミリーが大集合した。とりわけエリザベス女王は競馬好きとして知られ、開催の間、5日も続けて競馬場におこしになりアフタヌーンティーを楽しまれるという。
スタンドの6階にはアフタヌーンティー会場が設けられている。私たちも決められたドレスコードを守り入場券を買いさえすれば、華やかな帽子とドレスを身にまとった方達と一緒に競馬を観ながらアフタヌーンティーを楽しむことができる。
まさに、マイフェアレディの世界ではないか! 来年は、私も行きたい! いや、行かずになるものかと思いながら、『アフタヌーンティーで旅するイギリス』を教科書のように熟読している。
【書籍紹介】
アフタヌーンティーで旅するイギリ
発行:ダイヤモンド社
アフタヌーンティーは、1840年頃に英国の上流階級で始まった習慣です。現在では、高級ホテルやマナーハウスなどで愉しむ格式の高いものから、気軽に美味しく味わえるものまで、さまざまな形で英国の暮らしに根付いています。本誌は「珠玉のティータイム」を求めて、英国を旅する際の最良の友となります。